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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第一章 異世界転移
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第一話 異世界転移と誘拐

 ――イガ……助けて……


 そう言われた瞬間、彼は思い切り身体を起こす。寝間着を確認すると、汗でぐっしょりと濡れていた。今は一〇月下旬。暑くないのに、汗が止まらない。


「なんだったんだよ……あの夢」


 頭を押さえながら先程の夢を思いだし、小さく呟く。時間を確認すると、深夜二時を回っていた。


「今まで悪夢なんて見たことのない俺が初めて見ることになるなんてな……」


 彼が言う悪夢。それは目の前で自分と同年代位の女の子が何者かに首をはねられる夢だった。


 ――だけど何だろう。あの夢、夢って言うよりかなり現実味があった気がするけど……


 悪夢を見た彼、大和(ヤマト)大雅(タイガ)はそう思いながら、汗でびしょびしょになった身体を洗うべく、お風呂場へと向かった。寝間着を洗濯機へ放り込み、風呂場に入る。

 タイガは母と父の三人で暮らしており、父はごく普通のサラリーマンで母は専業主婦である。


「ゲームのやりすぎか、疲れていたのかな……」


 シャワーを浴びながら、タイガはふと考える。

 タイガは現在一六歳。本来なら高校一年生だが、彼は高校に行っていない。中学は常に主席で、どの高校も行けるほどの頭脳を持っていた。だが、彼はある日を切欠に引きこもるようになったのだ。


「汗をかいたせいか、喉が渇いたな……」


 風呂から上がったタイガは、中学の頃のジャージを身に纏い、渇いた喉を潤すべく、冷蔵庫のあるリビングへと向かった。

 だが――


「……何もねぇじゃん」


 肝心な冷蔵庫の中は水しか入っていなかった。


「水っていう気分じゃねぇしな。しょうがない、買いに行くか」


 そう言うとタイガは、部屋から財布と一応携帯を持って何ヶ月ぶりになるか分からない外にでる。


「行ってきまー……は?」


 だが、タイガを待っていたのは普通の街ではなかった。


「ここ、何処だ……?」


 目の前に広がるのは、中世ヨーロッパのような街並み。人間は勿論、獣までも服を着て二足歩行をしている光景で、車は走っておらず、代わりに走っているのは馬車ならぬ竜車だった。

挿絵(By みてみん)

「暫く家を出ない間にこんなに変わっちまったのか」


 んなあほな……とタイガは心の中で自分の発言に突っ込んだ。


「やっぱ疲れてんだな、俺。今日は水飲んでさっさと寝よ」


 そう言って踵を返したタイガだが、動きが止まってしまった。


 ――あ、あれ……? 俺の家どこ行った……?


 そこにはあるはずのタイガの家が、無くなっていたのだ。

 タイガは混乱していた。玄関を開けたら中世ヨーロッパのような場所に辿り着き、人間どころか獣までもが服を着て歩いている。そして何より、彼の家があった場所は空き地に。

 そんなタイガだが、冷静に考え、こう思った。


「俺、もしかして帰れない感じ?」




 暫くして、タイガは街を散策し始めた。タイガが歩いている場所は恐らく商店街だろう。様々な人が、ゴミの様に溢れ返っていた。


 ――凄い人だかりだ。日本で言うと都心とか、そこら辺か? 色んな物売ってるし、ここの人達は生活には困らなさそうだな。


 タイガはそう思いながら歩いていると、ある事に気が付いた。


 ――待て。よく聞くと、ここの人達の話している言葉が分かるぞ? 俺の予想だと、ここはよくある『異世界』だろう。普通異世界なら、言葉が通じないとか、字が書けないとか、字が読めないとかあるだろうが、ここの人達の言葉がはっきりと分かる。


「すみません」


 その時、タイガに声を掛けてきた少女がいた。


「ここに行きたいんですが、どうやって行くか分かりますか?」


 タイガは渡された地図を見る。この時もタイガは一つ気付いた。


 ――字が読める、だと? 明らかに日本語じゃないのに、どうして読める……。ここの世界観は一体どうなってるんだ……?


「あの……」


 ジッと地図を見たまま固まってしまったタイガを不思議に思ったのか、少女は声を掛ける。


「あ、ごめん。俺もここに来たばかりだから分からないんだ。力になれなくてごめんな?」

「ううん! ありがとう!」


 少女はニコッと笑いながら、そう言ってタイガの下を離れた。


「言葉も通じる、か。ここまでなら何とかやって行けそうだが、ケータイは圏外。お金も使えないだろうし、文字も実際書けるかどうかわからない。そして何より、俺に対する周りの目が痛い……」


 タイガが困っていたのは、他の人がタイガ自身に送る視線だった。

 タイガが通り過ぎると、皆必ず振り返るのだ。すれ違えば振り向かれ、すれ違えば振り向かれの連続で、タイガの精神状態は参っていた。


「確かに中学のジャージってのも悪いかもしれないけど……ってか、そもそもここに来るつもりねぇし!」


 一人でぶつぶつ呟きながら歩いていると、広場みたいな場所に着いた。タイガはそこで少し休憩しようと、近くのベンチに座る。


 ――一六になって、いきなりホームレスか……。まずは家に帰る方法を探さねぇとな。久々に外に出て歩いたせいか、脚パンパンだし……明日筋肉痛だな……


 ベンチの背もたれに思いっきり寄り掛かり、青空を見上げながら思った。


「取り敢えず、今日は野宿か。腹減ったな~って、ん?」


 タイガが身体を起こした時、一つの光景が目に入った。

 それは――


「あれって……」


 水色の髪をした少女が、何者かに裏路地に引っ張られている瞬間だった――。


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