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お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?

お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?(上)

  

 「どうしてこんな事になったんだ……」


 一人愚痴りながらため息を吐く。

 コロッセオのような作りの決闘場。今、オレはその真っただ中に剣を抜き放ち立っていた。

 観客席には沢山の貴族である学生や王子であるハーヴィル殿下、その婚約者であるレイラ様が座っているがその雰囲気は一様に重苦しい。

 

 その様子を見てしまい、胃がキリキリと痛むのを感じる。

 しかしそれはしょうがない事と言える、なんたって……


 『これより最後の決闘を行う!


  グラム侯爵子息、【剣聖】マルス殿 対 アルケイン男爵子息、ゼオン殿 』


 ハーヴィル殿下とレイラ様の婚約破棄がかかった決闘の相手が、完全武装の上、魔剣まで持ち出したセプトン王国最強の【剣聖】であり。


 『始め!!』


 その相手を務めるのが貴族の落ちこぼれと有名なこのオレ、ゼオンなのだから。




◆◆◆◆◆◆





 セプトン王国の王都の中核にそびえ立つ学園。

 そこは貴族から王族、庶民である子供まで通う最大規模の学園だ。

 コネを作りに、騎士になるために、はたまた運命の人を見つけるために通うなど目的は様々であり、ゼオンも貴族として学園に通う一人であった。


 

 「ごきげんよう、ゼオン様。何故、昨日は学園に来られなかったのですの?」



 朝の教室で顔を伏せ眠るオレに浴びせられる冷たい声。

 毎日のように浴びせられる声に顔を上げ、笑いながら挨拶する。



 「おはよう、アリシア。今日も一段と綺麗だね」



 もちろんご機嫌とるために褒め言葉を付け加えるのを忘れない。

 彼女はそんなオレを呆れたような目つきで睨む。

 アリシア・オーグネス侯爵令嬢、セプトン王国三大貴族にしてオレの婚約者である女性だ。

 銀色になびく綺麗な髪に透き通った翡翠の瞳、その立ち振る舞いから感じる儚さ、街で歩けば男であれば10人中10が振り返るだろう。


 (……ほんとに男爵であるオレと婚約してくれたことが不思議なくらいだ)


 実際、今でも妬みからかオレに対する陰湿なちょっかいも多いのだが。



 「ゼオン様、何度も申しますがこのような公の場では貴族らしい態度と風格を取って欲しいのですわ。

  お父様も近頃、ゼオン様との婚約を認めたことを後悔しているようですし……」



 「あはは、ごめんごめん。これでもアリシアとの婚約者とふさわしいように努力はしているんだよ」



 貴族らしい雰囲気を一切放たず発せられた言葉に、アリシアは不貞腐れた様子で頬を膨らませる。

 思わず困ったように苦笑いしながらアリシアの頭を撫で、機嫌を取る。


 ……うん、とてつもなく可愛い。


 だから、取り巻きの皆さん。

 人を殺すような目でオレを睨むのを止めてほしい。

 全員アルケイン男爵であるオレよりも爵位が高い、下手な事をすれば軽く捻り潰されてしまうだろう。

 


 「では今日こそ放課後、ご一緒に出掛けませんこと?

  新しいお茶を仕入れましたの」



 少し不安そうな彼女に微笑みながら頷くと嬉しそうな笑顔をみせた。

 毎日、同じやり取りを繰り返しているがアリシアの頼み事を一つ聞くと機嫌を直してくれるのだ。

 今日もいつも通り機嫌を直してくれたようで、思わず胸をなでおろす。

 

 だが、今日のオレは彼女に思い切って気になる事を尋ねることにした。

 それは今まで気になってはいたが、尋ねるたびに不機嫌になるので聞くに聞けなかった質問。

 隣に座った彼女の目を見つめる。



 「ねぇ、アリシア。一つ質問していいかい?」



 「もちろんいいわよ、何かしら?」



 笑顔で微笑むアリシア、おそらくこの質問をすればまたご機嫌斜めになってしまうだろうが……今日は躊躇わない。

 激しく脈打つ心臓を気合で押さえつけながら口を開く。



 「……なんでアリシアはオレと婚約してくれたんだ? 貴女ならオレよりも条件のいい貴族もたくさんいたはずだろ?」



 ずっと気になっていた質問。

 正直オレのいい噂は全くと言っていいほどない、どちらかと言えば学園での無断欠席や態度も貴族として相応しくないと陰で叩かれるほどだ。

 爵位も男爵だし、領地も辺境の小さな場所だ。魔法も学力もよくはない。

 たいしてアリシアは侯爵令嬢であり、性格もお淑やかで美人な貴族の花だ。

 気になるのは当然の事だともいえるだろう。


 しかし……やはり聞かれたくない質問だったようだ。

 目に見えて機嫌が悪くなっていく。

 いつもならオレが引くところだが、今日は引くことはしない。オレは目を逸らすことなく彼女の目を見つめる。

 


 「……」



 アリシアは顔を伏せて黙り込む。

 微かに見える耳は真っ赤に染まっている、……これは相当お怒りだ。

 そして彼女が勢いよく顔を上げ、リンゴのような真っ赤な顔で口を開こうとした時だった。

 


 「ハーヴィル・セプトン王子殿下、貴殿に決闘を申し込む!」



 朝の教室に大きな声が響き渡ったのだった。




◆◆◆◆◆◆




 「ハーヴィル・セプトン王子殿下、貴殿に決闘を申し込む!」



 突然の大声に騒がしかった朝の教室に沈黙が降りる。

 大勢の貴族が通うこの学園で問題を起こすことは社会的な抹殺、貴族で言うのならば舞台からの退場を意味する。

 しかし、この場にいる全員は声の発生源である青年が罰を受けない事、そして誰なのかを一目で理解することが出来ていた。

 

 派手に輝く金髪に爛爛と光る瞳、立ち振る舞いは自身に満ち溢れている。

 この学園でも彼ほど目立ち、人気であり、そして傲慢な貴族はいないだろう。

 そんな彼を見てどこからか苦々しい声が呟かれる。



 「マルス・グラム……」


 

 三大貴族であるグラム侯爵家の子息、それこそが青年の名前だ。

 セプトン王国第一騎士隊隊長を父親に持ち、権力的な力も国王と同等の力を持っている。

 彼に逆らうことが出来る貴族などこの王国には片手で数えるほどもいないだろう。



 「……マルス、朝から決闘とは突然だな。貴族としての礼儀を考えないのか」



 沈黙を破ったのは美しく芯の通ったような爽やかな声、しかしその声には明らかな嫌悪と冷たさが乗っている。

 声を出したのはマルスに負けないほどの容姿をもった青年、これまた令嬢からの黄色い声援が鳴りやまないだろうと言ったイケメンだ。

 青年……ハーヴィル殿下はマルスに冷たい視線を送りながら席を立つ。


 

 「フンッ、マルスか。殿下こそ呼び捨てではなく敬称程度はつけてもらいたいものだ」


 

 「戯れ言をいうな。ここは学園だ、身分に差は無くすべてが平等だ。

  私が言っているのは貴族としての最低限の礼儀だ、朝からそんな大勢の取り巻きをつれて乗り込んでくるなど他の者も怯えてしまうだろ」


 

 「そんなの俺の知ったことでは無いな。この程度で怯える奴らが悪いんだ」



 お互いに低い声で口撃を繰り広げるが、……見ているこちらの居心地が悪い。

 オレを含めいきなり始まった対立に何もできずに固まる事しかできない。



 「フンッ、まあいい。それより貴殿に決闘を申し込む、そして俺が勝ったら貴殿の婚約者であるレイラ嬢を俺の婚約者にする!」



 「……なに?」



 (何を言っているんだ、こいつは?)


 そう思ったオレは悪くないだろう、というかこの場にいる全員が同じ思いだろう。

 あまりにも一方的な要求。

 こんな事を王子であるハーヴィル殿下が受け入れるはずもないだろう、というよりも普通に考えても王子に決闘を申し込むなどありえない。

 侯爵家の子息であっても下手すれば処刑、よくて廃嫡だ。


 そう、普通(・・)であればだ。


 しかし今、決闘を申し込んだ相手がグラン侯爵家子息、マルスというこの状況だけは例外だった。





 セプトン王国が存在するこの世界には神が実在する。

 神は世界の創造の際に一つのシステムを組み込んだ、それこそ『ジョブ・スキル』システムだった。


 この世界に生まれた子供は7歳になると同時に教会で祝福の儀を受ける事によってはじめて一人の人として世界に認識される。

 そして同時にそれぞれにステータスが与えられるのだ。

 すべての人がその際に生まれ持った【天性スキル】と自分に合った【ジョブ】を会得する。

 【ジョブ】を会得するとそれぞれステータスに補正が加えられ、十人十色に成長していくことになる。


 そしてもう一つの大切な要素が【クラスアップ】である。

 ある一定まで成長を繰り返すと突如【ジョブ】がより上位のものへ変化し、【スキル】が一つ増える、もしくはすでに持っていたスキルがより上位のものに変化する現象こそがクラスアップである。

 初めてのジョブを会得した状態を『第1冠位』としクラスアップするごとに第2、第3と変化を繰り返していく。

 自分の能力がはっきりとした形で出る世界、それこそがセプトン王国が存在する世界だった。




 しかし、それうえに残酷な世界でもあった。

 ステータスによってはっきりできることが決まってしまうのだ。


 成りたい【ジョブ】への適性が無く、すぐにクラスアップが止まってしまう者。


 欲しい【スキル】が手に入らず、夢をあきらめる者。


 戦闘系【ジョブ】によって行きたくもないモンスター討伐に駆り出される者。


 祝福の儀を受け、夢を打ち砕かれ涙の海に沈んだものも少なくない。むしろほとんどの人々がそうだともいえるだろう。

 才能と努力、そして運によって未来が決められてしまう世界。

 

 そして3000年前、一人の男が偉業を達成する。

 第10冠位への到達(・・・・・・・・)

 世界を震撼させるほどの力を持った人物の出現によって、新たに冠位による常識が広まった。


―————————

 第0冠位:7歳までステータスを持たない子供の状態。

 第1~3冠位:一般人レベル

 第4~6冠位:達人レベル

 第7~9冠位:英雄レベル

 第10冠位:超越者

―————————


 8割の人物が一般人レベルでクラスアップが止まってしまうこの世界、英雄レベルまでクラスアップしたほんの一握りの人物はそれこそ一騎当千の力を有していた。

 ステータスによる補正に加え、スキルだけでも最高8つも有しているのだ。

 国としての力は英雄レベルの人間が何人いるかによって大きく変わる事は言うまでもないだろう。


 



 そしてこの常識、そして【ジョブ・スキル】システムが存在するこの世界でグラン侯爵家子息、マルス……いや第7冠位到達者(・・・・・・・)【剣聖】マルス・グランは特別であった。

 



◆◆◆◆◆◆





 セプトン王国は多くの大国に囲まれた大陸国であり、どの国からも攻め込まれやすい場所に存在している。

 そんな中、今の平和が保たれているのも英雄レベルの人材の多さのおかげであった。

 何よりその人材たちが戦闘に特化したジョブであることも関係している。

 セプトン王国に公に存在する英雄レベルは4人。


 第7冠位 【剣聖】マルス・グラン

 第8冠位 【死の王】ネクロフィア・ブラッディー

 第7冠位 【鍛冶神】ドノヴェル

 そして名前も顔も不明の推定第7冠位到達者である【決闘王】


 それぞれが他国に名前が轟くほどの英雄譚をもつ強者達だ。

 故にセプトン王国は他国から攻め入られる事のない平和な国……ということは全く無かった、まともな常識をもった英雄レベルが【剣聖】ただ一人だったからだ。


 【死の王】ネクロフィア・ブラッディー、別名『名前通り』と呼ばれる彼女は死体が好きすぎて王国外れの墓地に引きこもっていた。


 【鍛冶神】ドノヴェル、別名『不鍛冶』と呼ばれる彼は鍛冶が嫌いすぎて、この1年間まともに武器を作らない。


 【決闘王】、別名『入国禁止』は他国の決闘大会でジョブを偽って参加を繰り返し、今では指名手配のような扱いを取られている。しかも名前も顔も不明な為、今でも隙をついては他国の決闘に参加していた。


 

 

 実際にまともな英雄レベルはただ一人、マルスのみ。

 だからこそ彼は傲慢であり、誰も逆らうことが出来ないほどの発言力・権力・そして武力をもっている。それこそ国王と並ぶほどの力を。

 

 それ故にマルスのハーヴィル殿下への決闘の申し込みを聞いていた周りの貴族や学生は理解していた、馬鹿げた要求でありながらも受けるしかないことも。

 受けなければ唯一まともな英雄レベルの軍事的な協力はこれから先仰げない、むしろ国王となり手を出す事すべてに邪魔をしてくるのはその性格からも見てとれる。

 しかもハーヴィル殿下とレイラ嬢は珍しく純粋な恋愛によって婚約したカップルだ。

 決闘に負けたとしたら愛する人を失い、ギリギリ拮抗している権力もマルスの方に傾き、実質的にセプトン王国は奴の国になってしまうだろう。

 いや、そもそも【剣聖】に決闘で勝てるわけがないのだが。


 すでに勝ち誇った様子でニヤニヤと笑うマルスをハーヴィル殿下が綺麗な顔を大きく歪めながら睨む。

 

 (……不愉快だ)


 端からその様子を見ていたオレは大きくため息を吐く。

 ハーヴィル殿下とレイラ嬢の婚約は貴族も庶民である学生たちも認知の事だ、そして王子が純粋な恋愛での婚約というロマンチックな婚約に応援する声も大きいこともセプトン王国の民ならば知っている事だ。

 それを権力と武力でぶち壊し、自分のものにしようとするマルス。

 

 (ああ、ほんとに不愉快だな)


 だが同時にどうしようもない。

 せめて決闘の勝負でなければハーヴィル殿下に分があっただろう。

 だがセプトン王国で決闘とは神聖な儀式とみられる側面がある、貴族の間では常識であり、譲れないものがある場合は決闘で決着をつけるのが習わしだ。

 そう、ハーヴィル殿下は先ほど自分の口から言ったゆえに決闘での勝負も降りることが許されない。


 王族が貴族との問題を決闘以外で決着をつけるなど貴族としての礼儀としてありえないのだ。


 (ほんとに馬鹿馬鹿しい、この時代に貴族の礼儀なんて何の役にも立ちはしないというのに)


 昔から貴族としての礼儀など忠義といったことが大嫌いだったオレは心の中でひたすら文句を言う。

 そうして生きてきた結果、貴族としての落ちこぼれなんて有名になってしまったのだが。



 「……条件がある。

  まず決闘は今日より5日後に行う事。

  1対1の決闘ではなく5対5の勝ち抜き形式の決闘にする事。

  そして決闘に出るのはこの学園の生徒に限定する事。

  この条件ならば私は決闘を受け入れよう」



 とてつもなく長く感じた沈黙を破ったのは先ほどと同じくハーヴィル殿下だった。

 


 「フンッ、よほど自分の実力に自信がないのか、それともそんなに俺が恐ろしいのか。

  まあいい、その条件飲んでやるよハーヴィル殿下」


 マルスはよほど自分の力に実力があるのだろう、特に考えることもせずその条件を受け入れた。

 まるで結果は同じだとでも言うように。

 同時に授業の始まりの鐘が鳴り響き、マルスとその取り巻きは不敵な笑みを浮かべて教室を後にする。


 オレは一生この瞬間を忘れないだろう。

 

 教室を包み込む重苦しい雰囲気。

 

 鐘が鳴り終わった後に残る虚無感。


 そして半泣きで助けを求めるように俺たちに振り返るハーヴィル殿下の顔を……。



言い訳展開しておきます。


もともとファンタジー成長ものとして書く予定だった設定を使ってます。

恋愛ジャンルで出そうと思っていましたが、思った以上に恋愛要素が無さ過ぎてこっちジャンル投稿。


投稿者は、年齢=彼女いない歴なので恋愛は書けませんでした。すいません。


ほんとは主人公の設定も全く違うものだったのでキャラぶれ激しいかもです。


まぁ、アクセス数が伸びれば同じ設定でダンジョンありモンスターバトルありの純粋ファンタジーを書き直すかもしれん。


長々とごめんな……おもろかったらまた見てな……ほな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 連載小説を短編小説と偽ってること。 [一言] 何でこう、ランキングを荒らしたいんですかね。
[一言] シリーズでまとめるか連載にしてほしいです。
[気になる点] しかし、それうえに残酷な世界でもあった。 それゆえに それ故に
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