48話 歯車が回る
赫逸の構えを見て、誠十郎は思考する。動作というのは余裕が無ければ生まれない。つまり、右足が伸びきったあの構えでは次の動作をする際に足を曲げて余裕を持たせなければいけないのだ。それはすなわち、隙が出来るということである。
だが、油断はしない。誠十郎も刀を構える。右足を前に出し、左手は鞘に右手は柄に手をかける居合と呼ばれる構えだ。誠十郎が体得している楠木流には技は存在せず、構えのみが存在する。楠木流には無手での格闘術以外にも刀や槍の教えもあり、その中の刀の構えは四つあるが誠十郎は刀の才が無く、会得出来たのは一つ。それが神速の剣撃である"桜花"であった。
「ほお、居合か。おもろいな、その刀、俺の前で抜けるもんなら抜いてみいや」
「俺の居合なら、刀身を見る前に伏すことになると思いますよ」
「……にしても、なんやその取ってつけたような敬語は気抜けるわ」
「貴方の関西弁も大概ですけどね」
「なははっ!言うやないか!こんな東に来とるけど俺は何時でも関西人やからなイカすやろ?」
会話をしながらも、二人は睨みをきかせてジリジリとお互いの間合いを詰める。
四メートル。三メートル。二メートル。
お互いの間合いの半歩で止まる。一瞬が永遠に感じるまで引き伸ばされた世界で先に動いたのは誠十郎であった。全身の力を爆発的に解放させ、鞘という加速装置を通り、神速の刃が外気に触れる。はずだった。
「なっ……! 動かない!?」
刀がまるで柄頭を押さえつけられているような感覚があり、抜刀出来ずに誠十郎の体は固まる。柄を見るがそこには何も見えないが、何かが確かに存在していた。
「なんや余所見してええんか?」
伸ばされた左足を軸に右回転し、身体を地面と並行のまま回転の勢いで蹴りが顎に向けて放たれる。誠十郎は超低空からの顎への攻撃を体を反らせることで薄皮一枚で避けるも体勢が崩れた。
だが、相手もあの体勢からの蹴りは次の攻撃が遅れるはず、と思考した瞬間に誠十郎の腹に赫逸の蹴りが突き刺さった。
無防備の状態で受けた衝撃に息が止まり、その反動で吹き飛ばされるも受け身を取り、次の攻撃に備えるも赫逸は蹴りを放った位置から止まっていた。床に立てた六角棒に纏わりつくように頭を下にして静止している姿は、ポールダンサーそのものであった。
「突けば槍払えば薙刀打てば太刀杖はかくにも外れざりけり、か」
「杖は千差万別。使い手次第で形を変えるんや。俺の場合は│踊り《コレ》」
身体を捻り、六角棒の周りを回る。体と六角棒を繋いでる場所を手のひらから脇の間、そして足にまで変えていきつつ、通常のポールダンスとは違い、速度は凄まじく早く加速していき、ピタリと止まった。
動から静へ速度差や異常にしなったその身体は正しく踊りを格闘技にまで進化させているようだった。
しかし、誠十郎からすればそれは児戯にも等しい。
例え、能力の使用を制限されていても。
例え、培った拳による古武術を制限されていても。
断言しよう。高校生という狭い枠組みではあれど、世界最強は柊 誠十郎で間違いない。
「素晴らしい芸をありがとうございました」
「あ?」
「ここから先は俺が魅せてあげますよ。技をね」
誠十朗は重心を一切ぶらさず、摺り足で赫逸との距離を詰め最初と同じように、居合抜刀術の桜花の構えで体を捻り、刀身を出そうとするも先程と同じ力が働き刀が抜けない。しかし、誠十朗はそこを起点に柄を両手で握り、右足をより後ろに円を描くように下げることで更に体を捻り、刀が鞘に収められたまま鈍器の様に水平に殴り掛かる。
「なっ……くそっ!」
その刀も赫逸の眼前で目に見えない力に止められる。赫逸が攻撃を防いで気が緩んだ一瞬の隙を見逃さずに誠十朗はそこから刀を抜いて、刀を水平にし赫逸の肩に突き刺し、横に振り抜く。血飛沫が舞う。八割程断たれた腕を誠十郎は掴み、引き千切り吹き出す血を赫逸の顔に浴びせかける。よろり、と後ろへ倒れ込む赫逸の体が止まる。
支えられていた。否、貫かれていた。赫逸の影から伸びる無数の刃によって。
「……ッア、なんだァ……これっ……!」
「貴方の敗北理由は一つ。俺に能力を見せすぎたことですよ」
赫逸が次に目にしたのは納刀した誠十郎の姿であった。
「抜刀、桜花」
微かになる鍔鳴りは始まりではなく、終わり音。
「なぁ……るほど……こら、見えんわな……」
一瞬置いて、赫逸の身体に斜めの傷が走り、血飛沫が舞い臓物が零れ落ちる。
「能力者同士の戦いは能力が格上な者が勝利する。それを覆すには能力を露呈させずに早々にケリを付けること。貴方は俺に六回能力を見せましたね。六角棒の軌道、抜刀を阻止する圧力、貴方が乗っても微動だにしない立てられた六角棒、回転蹴りの異様な加速。そして、貴方の動きから察するに、貴方の能力は視覚内に任意に力の方向を加える能力。そしてその範囲は少ない、正に指先のような……って聞こえてねえか」
既に意識が失われたであろう赫逸を放置し、誠十郎はドアの外へ出て、そこから係員に救護の方を呼んでくださいと声を掛けた。
「え……って君血塗れじゃないか!」
「これは返り血です。……あと、遅れると赫逸先輩が本当に死んでしまいますよ」
身体を少し横に逸らし、自分の背後のドアの向こうへ視線を誘導させて、係員が悲鳴混じりに息を飲み込んだあと、嘔吐した。他の生徒も係員の吐瀉物と赫逸の臓物や惨状を見て吐き出す者や泣き出す者に溢れ返り、現場は阿鼻叫喚に包まれる。誠十郎はそれを横目に来た道に蛇口があることを思い出して、何も言わず階段を上っていく。その途中で誰が呼んだか救護班と擦れ違う。
「あ、貴方が血塗れですよ!? 平気ですか!!」
「いえ、自分のこれは返り血です。それよりも下に重傷の方がいらっしゃるので急いであげてください。」
「わ、分かりました!貴方も何か身体に違和感があれば、直ぐに来てくださいね!では!!」
先行して走ってきた男性に受け答えをした後、急いで階段を下りる担架を持った四人組の男女の背中を見送る。そこには黒髪のポニーテールを靡かせて走る少女の姿があった。
「何処かで見たような……うーん、気のせいかな」
誠十郎は自分が血塗れであることを思い出して、誠十郎は血の代わりに顔を顰める。蛇口目指して誠十郎の足取りも早くなった。
◻️
七の部屋の監視カメラの先の数十の映像が映し出されている部屋で、円卓を囲んだ五人の男達が話し合う。
「彼はあまりにも危険です! 容赦なく、人を傷つけ平然としている! 私は彼の入学に断固反対ですぞ!」
「じゃが、入学試験も合格し入学金も問題無く入金されておる。それに彼が何か違反をした訳でもあるまい。彼は死ななければ、どんな傷も治ると言われたからその通りにしただけだろう」
「度合いを超えている! 腕を引きちぎり、相手の腹をかっさばいているんです! 理事長どうかご英断を!」
「ふむ、君の意見は分かった。では、一位と二位はどう考えるんじゃ?」
「俺はいいと思うぜ。あいつそこそこヤるらしいし、見た感じ腹かっ捌いたとしても内臓に一つの傷も付けてないみたいだしな」
「私も賛成です。彼がどのような人物であろうと今の計画を控えている我々には彼の力が必要なのでは?」
「確かに、そうじゃな。よし、これで彼を迎えるかどうかの意見は賛成四で反対が一で彼を迎えることにする」
「……くっ、私はどうなっても知りませんぞ!」
太った男が怒りながら、部屋を出る。それに続くように二位と呼ばれた男が部屋を出ていき、最終的に一位と呼ばれた者だけが部屋に残った。
「さて、蛇が出るか鬼が出るかだね」
未だにバトルシーンが苦手です。
じゃあなんでバトルものを書いたんだよ、と。
誤字報告してくれた人サンキューどす。めっちゃ感謝。謝謝。グラシアス。メルシー。ダンケシェーン。グラッチェ。スパシーバ。ブツチチブリリ。コマッスムニダ。マハロ。
ようやく明日から学園編ですよ。まあ、明日投稿はしないんですけどね。でへへへ




