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魔法少女の彼氏をやってました  作者: しー
一章
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12話 守りたいものは、もう守れなかった

 暗闇の中に一人、誠十朗は立っていた。

 上も下も右も左もない、静かな世界。


 ここが死後の世界か誠十朗は考える。しかし断続的に続く痛みが、誠十朗が生きていることの証明になっていた。


 身を引き裂くような激痛を延々と感じながらも誠十朗は平然と頭を働かせることが出来た。

 元々、修行で痛みに鈍くなっていた誠十朗が拷問を受けた結果、身体の痛みを思考から切り離すことが出来るようになったのだ。


 しかしそれは、痛みを感じないと言う訳では無い。痛みによって思考が鈍ることがなくなったというだけである。

 そう、確かに感じている痛みの証明で誠十朗は顔を顰めていた。


 「ここは、夢の中の世界みたいなものか?」


 ポツリと発せられる言葉は虚空に消えていく。


 「こんなに痛いんだ、死んだ後の世界とは思いづらいしな」


 それに、と誠十朗は呟く。


 「俺はまだ死ねない」


 脳裏にフラッシュバックする家族の成れの果てが誠十朗を掻き立てる。死んでも嬲られた妹、死に際にも会えず炭と化した両親その全てが、誠十朗に殺してくれと問いかけていた。


 「違う、そんなことを言う人達じゃない。俺は俺がしようとしていることを他に理由を求めているんだ」


 誠十朗自身の否定の言葉で家族の成れの果てが誠十朗の脳裏から消える。


 "しようとしていること"それは復讐と言い換えて想像を止めているが要は"殺人"しかし今更迷いはしない、誠十朗はそう思っているつもりだったが心の何処かで倫理観という迷いが出ていたようだ。


 「なんて情けない、情けない情けない。情けない!」


 自身を律し鍛えていたはずなのに、セイラに怯み背を向け逃げ出して結果、呆気なく急所の鳩尾(みぞおち)に拳を捻り込まれ気を失った。

 目の前で妹の死体が嬲られている相手に文字通り手も足も出ず、身動きも取れない状態で由佳子に見捨てられて気を失った。

 妹の同じ学校の女生徒が弄ばれてようとしている所に無謀にも能力者に立ち向かい、調子に乗り危機を迎え、それに対して反省し注意を払ったとしても腕を失い気を失った。


 どれも一つ間違えば、死んでいてもおかしくはない。誠十朗が今まで生きていたのは、ただ単に運が良かっただけだ。


 誠十朗はその事がどうしようもなく、情けなかった。


 身を守ることすらも出来ない、無力。

 仇を討つこともすら出来ない、無力。

 人を助けることすらも出来ない、無力。


 全ては自分が無力だから起こったことである。


 「無力、俺は無力だ」


 誠十朗は自身の無力に、情けなさで涙が出てくる。

 しかしそれは透明な滴ではなく、ドス黒い液体が誠十朗の目からドロドロと溢れ出した。


 「俺が無力だから、何も成せないんだ。

 俺が____無能力だから何も守れないんだ」


 力が欲しい、誠十朗は叫ぶ。

 何者にも負けぬ力が欲しい、大切な者を守れる力が欲しい、弱者ではなく、強者と在れる力が欲しい。


 奪われるぐらいなら奪う。肉ではなく、食べる側へとなる為の力が欲しい。


 「俺に力を寄越せッ! 守ってくれる神も仏もない、誰もヒーローすらも守ってくれない。それなのに自身を守ることも仇すらも討てないならば、死んだ方がマシだ……!」


 「神も仏も人も動物も植物も全てに侵されない、全てを塗りつぶせる力を寄越せッ!」


 「弱者でいるのはうんざりだ! 奪われるだけなのはうんざりだ! 無力に甘んじるのはうんざりだ!」


 誠十朗は喉がはち切れんばかり叫んだ、黒い涙が止まらぬ顔を手で覆う。一頻り叫んだ誠十朗は先程までの雄々しさは消えて弱々しさが姿を見せた。


 「もう嫌だ、何で俺ばかり……俺が何したんだよ」


 誠十朗は高校生。ついこの間まで朝は陽の光を疎みながら起き、昼は学友と昼食を食べて昼休みを謳歌して、夜は明日に何があるかを思い浮かべ眠りつく。その間に修行があるものの、そんな一般的な高校生だったのだ。


 そんな高校生が拷問されて家族を失い、腕を失うような経験をしていた。

 そんな状況でも誠十朗は笑みを浮かべ強く在ろうとした、しかし彼が今の一人である誰も見ていない状況で気丈に振る舞うには多くのことがありすぎた。


 その時、誠十朗の頭上に一筋の光が差し込む。

 暖かな光だ、全てを包み込むような優しい光。


 誠十朗がその光を見上げた同時に、誠十朗の足に闇が纏わり付き、徐々に闇は誠十朗を飲み込もうと上へ進み侵食していく。


 少し手を伸ばせば、闇すらも浄化しそうな光を見上げ、誠十朗は()()()()


 「いらない、もう必要ない。俺が求めてるのは復讐を果たせる力。守るより、奪い尽くす力が欲しいんだ」


 「守りたいものは、もう守れなかった」


 光は閉じ、闇が誠十朗を覆い尽くした。


 ■■■■


 「____ろう。____じゅうろう! 誠十朗……!」


 柔らかなベットの上で誠十朗は目を覚ます。


 「おはよう、セイラ」

 「よかった起きたのね、誠十朗!」


 誠十朗の目には目元は仮面で隠されていて分からないが、心配そうにしていたセイラが映っていた。


 「セイラここは……あードクターの部屋か」

 「そうよ、気分は大丈夫?」

 「ああ、あんなに激痛が走ってた嘘みたいだ」

 「そう、本当によかった」


 誠十朗は身体を起こし、ベットから降りて凝り固まっているであろう身体のストレッチを始める。


 「そんなに時間が経ってないのか? 体が固まってないな」

 「ええ、あれから一時間ぐらいしか経ってないわ」

 「そうか、予想以上に早いな」


 そんな言葉と腕のストレッチを最後に誠十朗はセイラを連れて、隣室にいるであろうドクターの所へ向かった。


 「おや誠十朗くん、起きてるということは能力を得たようだね」

 「ああ、お陰様でな」

 「起き抜けで申し訳ないけど、能力は使えるかい?」


 ドクターの言葉に得たばかりの能力をいきなり操れるのか、そう疑問に思う者もいるだろうが誠十朗は、その得たばかりの能力理解していた。


 何故理解しているか、説明は出来ない。

 それは人が呼吸の仕方を説明出来ないように、手の動かし方を説明出来ないように、ただそう言うものとして自分のものとして、誠十朗は能力を理解していたのだ。


 ドクターへの返答として誠十朗は能力を発動する、そうすると全身から闇がぬるりと湧き出た。


 「とりあえず出してみたが、何をすればいいか分からないな」

 「どういうこと、自由に使える能力ではないということ?」


 そんなセイラの問いに誠十朗は首を横に振る。


 「いや、違う。俺の能力は闇を操る能力らしいんだ」


 例えば、九炎の能力の残り火。左手が通った道に炎が通る能力、これは『左手が通った道』に『炎が通る』というものだ。

しかし、誠十朗の能力は『闇』その運用方法は残り火ような『左手が通った道』等はなく、セイラが言うような特定の条件下で発動する能力とは違い、寧ろ自由な能力であった。


 「誠十朗くん、それは本当かい?」

 「ああ、まずはこの能力を使えるように訓練しなきゃいけなさそうだ」

 「く、くくくくく。根源系か、そうかそうか! 実に期待通りだよ誠十朗くん!」


 根源系等の誠十朗の知らない言葉もあるが、それよりも唐突に笑い出したドクターに誠十朗は驚いた。


 「何がそんなおかしいんだ?」

 「いやあ、悪いねえ。気にしないでくれ何でもないんだ、本当になんでもない。じゃあセイラ、誠十朗くんに説明しておいてあげてね」

 「言われなくても、分かっているわ。行きましょう誠十朗」


 現在も何処か狂気じみた笑みを浮かべて、喉を鳴らすドクターは厄介払いのように、セイラに誠十朗のことを頼んで手を振った。


 「一体なんだったんだ?」

 「理解するだけ無駄よ、行きましょう」

 「そうか?」


 ドクターの部屋から出て歩き出したセイラを追いかけるように誠十朗も歩き出した所で扉が開く音が背後から聞こえ、誠十朗は振り返る。


 扉から顔だけを出しているドクターは、先ほどの狂気じみた笑みは形を潜めていて、優しげな笑みを浮かべていた。


 「言い忘れていたよ、こちら側へようこそ誠十朗くん。歓迎するよ」


 そう言うとドクターは顔を引っ込めて、扉は閉じた。


 「……どちら側が本当の顔なんだろうな」

 「言ったでしょう? 理解しようとするだけ無駄、どちらも本当の顔なんだから」


 そう言うとセイラは再び足を動かす、今度は誠十朗もその隣を歩き出した。



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