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01 白鳥亭

 エルデ歴四九八年九月十四日午前十一時。天気は晴れ。北北西の弱風あり。

 手元の紙にさらさらとメモをとり、続いて横に置かれた水時計の調子を確かめる。一定のスピードで落ちてくる水の量で時間を計る代物だ。異常なし。準備は万端。

 私は立ち上がり、隣に立つ男に頷いてみせる。彼も私に頷きを返し、額の上にあげていたゴーグルをかけなおすと、空中に広げた絨毯に飛び乗った。絨毯からのびる紐を腰のベルトに結びつけ固定する。

「ルーディ、準備はいい?」

 そう言って私は白衣のポケットからハンカチを取り出して広げる。

「いつでもどうぞ、ヘンゼル」

 彼の視線がこちらを向いた。

 私はハンカチを高く掲げ、用意の合図を送る。空気の張りつめた濃縮なこの一瞬がたまらなく好きだ。

 ハンカチを振り下ろすと同時に、私は水時計をひっくり返した。上の器から下の器へ、水はさらさらと流れおちていく。

 男を乗せた絨毯は風を切って加速した。トップスピードにのるまで五秒もかからない。どんな早馬でも追いつけないほどの速度で、絨毯はコースを飛ぶ。広場に配置されたいくつもの障害物を巧みにかわし、飛び越えて。私は目で追うのがやっとだ。あの速度で障害物――多くは植木や木箱の類――にぶつかれば乗っている男も無事ではすまないだろうが、彼の操縦にはそんな恐怖を微塵も感じなかった。

 積み上げられた木箱の前で絨毯は高度を上げた。紙一重の隙間で木箱を飛び越え、自由落下に近いスピードでもとの高度に戻す。絨毯はやや速度を落とすと正確な弧を描き最終カーブを曲がった。コースを一周するhまであとわずかだ。カーブを抜け出る直前に加速し、私の立つゴールに向けて一直線に飛んでくる。絨毯がフィニッシュラインを越えると同時に、私は水時計に栓をして記録を確認した。一瞬遅れて旋風が私の髪を吹き上げる。

「どうだった?」

 減速してからターンし、ゆっくりとフィニッシュラインに戻ってきた男は、そこで待つ私に声をかけた。やや息があがっている。あれだけのスピードで絨毯を飛ばしたのだから無理もない。

「悪くはない。だが先月テストしたマテウス工房の絨毯の方がタイムはよかった」

 そうか、と頷いて彼は絨毯から飛び降りる。

 がっしりと背が高く、悪人面のこの男の名前はルーディことルドルフ・クラール、三十三歳。元傭兵のジャーナリストだ。若干、いや多分にうるさく、思ったことを率直に言いすぎる点はジャーナリストとしては悪くないのかもしれないが、そばにいるには耐えがたい男であると断言できる。

「生地は上等なのに振動が激しすぎて乗り心地が最悪だ。こいつをテストした技術者は三日三晩暴れ馬に乗ってから絨毯に乗り換えたに違いないな。レスポンスは悪くないが、マテウスのには劣る。このような絨毯を送りつけてきたライバッハ工房はある意味で勇敢とも言えよう。俺はそう考えて絨毯を降りた」

「そのエッセイ口調はやめろ」

 余計な部分は省き、感想のみをさらさらと書きとめる。彼の暫定的な相棒を務めるこの私は、ハンス・マイフェルト。彼より三つ年下のジャーナリストである。断っておくが、私のことをヘンゼルなどと子供じみたあだ名で呼ぶのはルーディくらいだ。

 シュッツ選帝侯領で傭兵になったルーディが首都ドレスデーネに落ち着き、傭兵時代の手記を発表したのが三年前。その後、魔法学ジャーナリストとして活動を始めたばかりの私と知り合い、一緒に仕事をするようになった。

 我々が書く記事はさまざまだが、二人とも週刊誌『一般魔法新報』に連載を持っている。この雑誌では主として新発売の「魔具」――今から五十年前に発見された、魔法の力を物質に「定着」させる技術を用い、魔法使いでなくても特定の魔法を使うことができるようにする道具――のレビュー記事を書いている。特に乗り物と武器が我々の専門分野だ。率直な(時に率直すぎる)レビューは評判になり、最近は技術開発者側から我々のところにレビューを依頼してくることも増えた。

 記事を書くため、我々は首都のはずれにあるこの広い土地、すなわち隣国ハイルブルンやヴェスターとの大規模戦闘を想定し、森を切り開いて作られた元軍事演習場――完成前に本格的な戦争に突入したために演習どころではなくなりただの資材置き場にされ、演習場としては一度も使われないまま戦争が終結して役目を終えてしまった――を国から安く借りうけ、試験場として使っている。

 試験場の一画には建てられたまま放置されていた小屋がある。ずいぶん古びたぼろ小屋だったが、我々はここを修繕しオフィス兼住居として使えるようにした。もとは演習を監督する将校たちが使う予定の建物だったのだろう、二人で暮らすにはじゅうぶんな広さである。

「さて、データをまとめるだけの時間はあるかな」

 絨毯を丸めて紐で留め、ルーディがこちらを見た。

「どうだろう、さっきタイムを測る直前に鐘が鳴ったから」

 メモには「午前十一時」と書かれている。

「もうすぐお昼になる。午後からの取材相手のことを考えると、データは後回しにして出発した方がいいかもしれない。ランチを食いっぱぐれたくなければね」

「後回しにしよう。せっかく旧市街まで出るなら白鳥亭で食事をしたい」

 ルーディは絨毯をひょいと肩に担ぐとオフィスへと駆けていった。やれやれ、元気なことだ。私も水時計と紙束を抱え、オフィスに向かった。



    


01


 エルデ皇国の首都ドレスデーネは、ボーゲン川を挟んで南北に広がる都市である。ボーゲン川北部一帯の肥沃な土地は農業に適しており、古代から漁業と農業が盛んであった。時代がくだるとボーゲン川は通称の要になり、ドレスデーネは周辺一帯における商業の中心地となる。造船と船を使った通商は、現在もこの町の重要な産業である。

 我々のオフィスはボーゲン川南部、つまり新市街の外れにある。これから向かうのは川の北側、旧市街だ。皇宮や議会堂、教会や闘技場などの歴史ある重要施設はすべて北部にある。商業施設や宿屋も充実しているが、旧市街には全体的に貴族や富裕層向けの店が多い。川を渡る行為は我々にとってある種の「別世界」へ行くことに等しい。

 肩掛けかばんに紙束と書きかけの原稿、それからテストを依頼された小物いくつかを詰めこみ、眼鏡をはずしてマントを羽織る。

「ルーディ、まだ?」

「今行く」

 そう応えて現れた彼を見て私は眉間に皺を寄せた。

「……戦争でもしに行くつもり?」

 確かに目立つほどの装備ではない。だがゴーグルは千里眼の魔法、腕輪は防御魔法がセットされた軍用品だし、マントにも風の魔法がセットされている。さらに腰には愛用の炎の魔法剣ヘーレンブラントをさげていた。ヘーレンブラントは外出時にはいつも持ち歩いているものだが、防具までつけて取材に行くのは珍しい。ゆったりした服を着ているところを見ると、服の内側にもさらに暗器を隠していそうだ。

「念のためというやつさ。お前だって今日の取材はちょっとばかりイレギュラーなものだと思ってるだろ」

「そうだけど……」

 街中で武器を振り回す彼を想像する。そんな事態は避けたい。

「今日はコンクレンツの開会式だよ。七選帝侯も集まってるんだから平和にやりすごしたい」

「平和がいいのは俺だって同じだ。何事も起こらなければそれでいいんだし」

 彼の言葉に肩を竦める。まあ、ルーディだって意味もなく暴れる奴じゃない。この装備なら魔具に詳しい者でなければ物々しいとは感じないだろう。今日の取材相手が疎い人間であることを願うとするか。ほぼ間違いなく疎い、あるいは魔具自体を嫌悪している相手だろうが。

 私も「念のため」、防御魔法のセットされたマントに着替えてから空飛ぶ箒を手に取った。

「じゃあ、行くか」

 彼は自分の真っ青な絨毯(もちろんマテウス製のものである)に、私は竹箒に飛び乗って、ゆっくりと加速していく。タイムを競うわけではないし目的地に着くまでに疲れるのを避けるため、先ほどのルーディのような飛ばし方はしない。それでもそのあたりの早馬と同じくらいのスピードが出る。頬に受ける秋風が心地よい。

 我々はまず白鳥亭に向かうことにした。ボーゲン河畔の小料理屋である。今日のように天気のいい日は外のテーブルでも食事ができるだろう。旧市街の中にあって、庶民の財布にもありがたい貴重な店だ。河辺で働く渡し守や貸し絨毯・箒屋、それにこれから向かう船舶業界の者たちにとっては、日々の台所がわりになっていると思われる。

 試験場から新市街に出ると大層な人ごみが目に入る。今日からコンクレンツが始まるせいで普段よりも多いようだ。馬車の駆けてくる音や人々のざわめき、物売りの呼び声に、街頭に立つ男のヴァイオリンの音が彩を添えていた。我々はぶつからないようスピードを落とし、人々をかわしながら進んでいく。高度を上げればぶつからないのだが、高いところを飛ぶと無駄に疲れるし落ちたときに怪我をするのであまりやりたくない。露天で魚を焼く匂いが鼻をくすぐっていく。ああ、早くランチにありつきたい。

 すれ違う馬車の座席から小さなご婦人がこちらを見つめていた。彼女も箒に乗りたいのかもしれない。片手を振ってみせると彼女は目を丸くした。

 雑踏を抜けるとボーゲン川が見えてくる。川面が日の光できらきらと輝いてきれいだ。たくさんの絨毯や箒が川の上を往来している。数十年前には考えられなかった光景だ。空飛ぶ絨毯や箒が庶民にも普及しだしたのはここ十年くらいのことだ。

 それ以前、人々がボーゲン川を渡るにはボーゲン大橋か渡し舟を使うしかなかった。橋も舟も、今なお重要なものではあるが(特に大きな荷物を運ぶ場合)、絨毯と箒の普及によりどこからでも自由に川を渡れるようになり、人々の生活はより便利になった。しかし船舶業界にとって、この変化は確かに痛手だった。その問題が今日の取材の目玉になるわけなのだが。

「コンクレンツの間、この天候がもてばいいんだがな」

 ルーディが空を仰いで言った。

「そうだね。明日の一回戦は私も行くつもり」

 コンクレンツとは年に一度、首都で開かれる魔法競技会である。七選帝侯領の有する傭兵団と首都を守る皇国軍から選手が集い、それぞれの魔法を駆使して戦うのだ。これは選帝侯たちの代理戦争とも言われ、コンクレンツの結果は翌年の予算配分をはじめとする各選帝侯領の力関係にも影響しているとか。首都には各選帝侯領出身者が集まっているため、それぞれの故郷を応援するのに力が入る者も多い。要は国をあげてのお祭り騒ぎと、国内の魔法技術レベルの維持・研鑽を兼ねたイベントである。

 ちなみに私がルーディのことを最初に知ったのはコンクレンツの会場だった。今から十五年前のことだ。非魔法使いとして初めてコンクレンツに出場した彼のことは、当時ずいぶん話題になった。

 川を渡った我々はそれぞれの乗り物を降り、白鳥亭に向かった。空いたテラス席に陣取り、メニューを眺める。箒は足元に置いておけばいいのに対して、絨毯はこういう場所では丸めなければいけないのが面倒だ。荷物の少ないときは箒の方が便利なのだが、彼は頑なに箒を買おうとしない。過去に箒で飛行中股間を強打したとかで(よくある不幸な事故である)よほど箒が嫌いらしい。

 丸めた絨毯を机に立てかけるルーディを横目に、私はメニューを検討した。肉団子スープを食べようと思っていたが、今日のおすすめはニジマスの香草焼きときたか。これは心ひかれる。

「ああ、クラールさん、お久しぶりですな」

 注文をとりにきた中年ウェイターがルーディを見て笑顔になった。ルーディはいろいろな意味で、この町ではよく知られる人物である。

「この前の新刊、貸本屋に行くたびに探すんですが、いつ行っても貸し出し中でね」

 ウェイターの言葉に、「買ってくれてもいいんだよ」とルーディが茶化す。庶民にとって書籍はまだそう気軽に買えるものではない。ドレスデーネには貸本屋がいくつかあるから、書を読みたい者はそこで借りるのが一般的だ。ちなみに彼の新刊とは、ここ数年でいくつかの雑誌に書いたコラムをまとめたエッセイ集だ。

「私はタンシチューとイチジクのサラダにしよう。あとハーブティーを一杯」

 ルーディは早々に注文を決め、ウェイターに伝えた。白鳥亭のタンシチューは彼のお気に入りだ。私も香草焼きとハーブティーを注文し、視線をルーディに移す。

「この後の流れだけど」

 ウェイターが去っていったのを見送り、私は口を開いた。ルーディも真剣な顔になってこちらを見る。

「ああ、確認しておくか。取材対象はヨーゼフ・ハインツ。ドレスデーネの船舶ギルドの有力者だな」

 ボーゲン川の渡し守から大型輸送船まで、彼の管理下にある船舶は百艘を超えると言われる。しかしハインツといえば貿易によってこの町を大きくした商家の一つ。二十年前に所有していた船は今の倍近かったはずだ。それが、新たな交通手段――すなわち魔具によって商売の縮小を余儀なくされている。

 『一般魔法新報』はかねてより船舶業界の現状を世に伝えるべく、ギルドに取材を申し込んできた。しかしこれまで一度も彼らが取材に応じることはなかった。

「魔具は好かん」

 いつもこれがハインツの返事だった。我々は魔法学の最新の研究結果や新発売の魔具のレビュー記事を書いている。魔具を好まない彼からすれば、あるいは魔具によって何代も続いた稼業を縮小することになった彼からすれば、そんな雑誌は悪の巣窟のように思えるかもしれない。

 そんなハインツが、取材を受けてもいいと向こうから言ってきたのだ。編集部はすぐ調整に入ったが、一つ問題があった。彼の指定した取材日がコンクレンツの開会式と重なっていたのである。記者のほとんどはコンクレンツ絡みで予定が入っており、対応できない。編集長が頭を抱えているところにたまたま原稿を届けに来たルーディが現れ、その取材を引き受けてきたというわけだ。

「ハインツにはきっと何か意図がある。もちろん自分から取材してくれと言ってくる者に意図がないわけがないだろうが、そういう一般的な話以上の意図だ。俺たちに何を書かせたいのか、まずはそれを探るところからだな。話によってはこちらからのってやっても構わないつもりでいるが、お前はどうだ」

「それこそ相手の話次第だね」

 私は椅子に背を預けて視線を川面に向けた。たくさんのトンボが目的地を定める様子もなく飛びまわっている。

「魔法学に対する根拠のない罵倒を並べるだけなら記事にする価値なんてない。でもそんな話なら、最初にこちらから取材を申し込んだときにしておけばよかったんだ。わざわざ向こうから取材を受けると言ったのだから、それなりに話したいことができたんじゃないのかな」

「状況あるいは心境の変化……」

「そういうこと。何が彼の考えを変えたのか。そこをうまく聞き出すことができたら、記事としても面白くなると思うね」

 ハインツにしてみれば、こちらはいわば「敵」である。そんな相手に素直に話をしてくれるような人物であれば楽なのだが。

「何があったんだろうな。何しろライバルを文字通り『沈めて』のし上がったような奴だろう? こっちだって慎重になる」

「それはあくまで噂だよ。沈められた方が主張してるだけ。そして官憲はその主張を退けた」

「だから余計にあやしいんじゃないか」

 ハインツが若い頃――つまり空飛ぶ絨毯や箒が普及する以前、台頭しつつあった別の商家の船舶が立て続けに沈むという事件が起こった。ある船は難所で転覆し、ある船は船底に穴があき、またある船は積荷が炎上した。どれも事故だということで片づけられたが、結果的にその商家は運搬業から撤退し、ハインツの事業はさらに拡大した。ちょっとこの町の噂に詳しい者なら誰でも知っている話だ。

 まあ、私も実際のところその「事故」のうちのいくつかはハインツの指示で行われたものだろうと考えている。また賄賂を渡せば黙る憲兵が少なからず存在するのも事実だ。

「わかったよ。慎重に、だね」

 私の返事に、ルーディは安心したように頷いた。

元傭兵という経歴がそうさせるのか、彼は日常生活においては少々慎重に、というか過激にすぎる傾向がある。ただその過激さに助けられたことも一度や二度ではない。ドレスデーネの治安は周辺諸都市に比べて悪いわけではないが、それでもならず者というのはどこにでもいるし、実験に使う植物のサンプルを採りに森に入って野生動物に襲われることもある。私の使える魔法は一人で敵を倒せるようなものではないため、彼とコンビを組むことで行動範囲は確かに広がった。

 と、そこへ先ほどのウェイターが現れ、テーブルに食事を並べ始めた。

「イチジクのサラダ、少し多めにしてありますから。二人で取り分けてお召し上がりくださいな」

 ルーディに愛想よくそう言うと、彼はうきうきと仕事に戻っていった。

「どうだい、私のファンは実によくできた男だ」

 声をひそめ、ルーディが愉快そうに言う。

「君を怒らせて店で暴れられるよりは、喜ばせておいた方が被害が少ないと思ったんじゃないのか」

 彼の腰にさがった剣をちらりと見てそう言い返す。

「そんなことを言うならこのサラダは俺が全部食べる」

「待ちたまえ、『分けよ、されば幸増えん。グローサー・ヒンメルはそう言った』」

 『聖典』を引用して私欲を主張する私に、ルーディは両手をあげて苦笑する。

 かくして白鳥亭での昼食は粛々と進行したのであった。



【ルーディのコラムより】マテウス・アードラー・ノイン

 草むらを素足で歩くとき。あるいは果実を丸ごとかじるとき。あるいは風を頬に受けながら空を飛ぶとき。人は野性的な幸福感に包まれる。

 その草むらが一歩ごとに新しい緑の香る野ならば。それがほどよく冷えたみずみずしいスモモならば。そしてそれが乗り手の意思を正確にくみとれる絨毯ならば。幸福感がさらに高まることは私が言うまでもないだろう。

 マテウス工房のアードラーシリーズは、これまでにも多くのファンを獲得してきたブランドだ。白いストライプの二本入ったその目立つデザインに振り返る者も多い。今回その九番目となる新作が発表され、私はそれを自腹で購入した。

 正直に言おう。私はマテウス工房の純然たるファンである。あの力強い飛行は、いまだ他の工房による絨毯の追随を(文字通りの意味で)許さない。直線コースでアードラーに並べるブランドはいくつもある。しかしこの絨毯の真骨頂はカーブで発揮される。どんな急角度で曲がろうとも、乗り手の負担は最小限に抑えつつ正確な弧を描いてくれるのだ。

 今回私は計五十回のテスト飛行を重ね、アードラー・ノインの特徴を分析した。その一回一回が楽しくまた興奮を伴うものであったことを最初に述べておく。……

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