☆8. 侍女マリー
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晴れた日の朝。
カーテンを開け、思いっきり背伸びをした。
その表情はここ最近みられなかった満面の笑み。
「ふふふ……」
一人ほくそ笑むユリウス。
「ついに、遂に終わったぁー!!」
――そう。ユリウスは仮面舞踏会から解放されたのだった。
先日、不思議な言葉を掛けられた。
その声の主が今回のターゲットだったらしいが、しかし、声をかけられたのは初めの一度きり。
一応、その後も仮面舞踏会に参加をしていたが、やはり声の主に会う事はなく、作戦は終了となった。
「久々の休み! 何しよう」
(庭いじりでもいいし、犬小屋の修繕もいいな)
基本は貧乏貴族である。
自前で出来る事は何でもしないといけない為、やる事は多い。
「ああでも、久しぶりに遠乗りもいいな」
ちょい、貴族らしい発言。
間違っても刺繍がしたいとは言わない。
部屋がノックされた。
「ユリウス様」
声をかけて来たのはマリー。
入室を許可すると、ゆっくりと扉を開け部屋へと入ってくる。
「マリー、今日は遠乗りか、犬小屋か、庭かどうしよか?」
決めかねていたユリウスが助言を聞きたくて声をかけると、マリーは「……ユリウス様。お忘れですか?」と返してきた。
静かに、そして少し冷たさが残るような言葉。
マリーは何か大事な事を忘れている時にこういった言い回しをする。
その事に気がついたユリウスは息を飲み、マリーの言葉を待つ。
マリーもユリウスから回答が無い事を確認し、言う。
「今日は子爵令嬢とのお約束があるのでは?」
浮かれていた気分をどん底に落とすような言葉を聞いて、ボフッとベッドに倒れ込んだ。
「…………」
「…………」
両者沈黙。
ユリウスは顔だけ動かし、マリーを見上げた。
「ご自分で招いてしまったとはいえ、心中をお察しします。ユリウス様」
「…………」
一言余計だと、突っ込めない自分が悔しかった。
ユリウスの心情は複雑だった。
お見合いは仕方ない。
子爵からの申し出を断るわけにはいかないから。
だが、このデートは明らかに自分が対処を間違ったことによる副産物だった。
令嬢に戻る予定はないが、初デートが女性。
もはや泣くに泣けない。
(ああ、初デートはフィーとの外出にしておこう)
ユリウスは心の安寧の為、無理やり過去の仕事を引っ張り出した。
数ヶ月前にお忍びで城下に出たフィリップを護衛した時の事だ。
もちろん、その時は男装だったが。
「…………」
どっちにしろ、心に優しくない事を悟る。
「ユリウス様、そろそろお召し物を決めませんと」
「だって、マリー……何着て行ったらいいのかわからないよ」
前回は屋敷に招待されたので正装に近い服装で行ったのだが、今日は散策との事。
正装するのは合わないし、普段着というのもちょっと。
「普段着でよろしいのでは?」
「マリー……それは、まずくない? 一応デートなんだけど」
「ユリウス様はデートの際、服装を気になさるのですね。ちゃんと」
失敬な話である。
相手がめかし込んで来るかもしれないのに、自分があまりにくたびれていたら失礼だろうと思う。
「お付き合いを断っていただきたいのでは?」
「そうだけど」
くたびれた格好を晒して、振られるというのは正直悲しい。
「なんか、こう、性格の不一致的な。お互い悪くない的な断られ方をしたい」と、理想を答えたら目を細められた。無言で。
マリーはふぅと溜息をつき、ユリウスの衣装棚を開ける。
そして、普段着で一番くたびれていない服を出し、合わせる小物を用意してくれた。
「これぐらいで、どうですか?」
組み合わせは白と黒。アクセントに、黄金色のボタンとチェーンがいくつか付いている。
小物は若草色のスカーフ。
ユリウスは「小物は青系の方が涼しげじゃない?」と、提案したが却下された。
マリーが退室しようと扉へと向かい、途中、何かを思い出したかのように立ち止まった。
「ユリウス様、今度は殿下の護衛もきちんとした服装にしてくださいね」
突然何を言い出すのやら。
「それこそ普段着にしないと、溶け込めない」と答えたら、溜息をつかれた。
……すごく不本意なんですけど。
今回もお読みいただきありがとうございます!(*^_^*)