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アスタシア王国の男装令嬢         作者: 大鳥 俊
三章:男装令嬢と「熱風と臆病風の吹く秋」
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番外編1.甘い紅茶の後には……

20話『甘い紅茶を召し上がれ』の続きのお話です。

糖度の目安は☆二つ!?(中ぐらいってことです(汗))


 





「……ドレスを持って来てくれたなら教えてくれればよかったのに」

「先に言ったら、お前は行かないっていうだろ?」



 仮面舞踏会会場エントランスにて。

 ユリウスは半ば強制的に約束させられた会場に足を運んでいた。


 自分の隣には約束をさせた人物――……もとい、フィリップがこちらの苦情に対して返事をしてきたところだ。



 事の始まりは本日のお昼間。

 いつものように紅茶を飲みに来ていたフィリップが仮面舞踏会に誘ってきた。

 「遊びで誘うな」と言ったばかりなのに、それならばと「本気で誘う」と言い出し、あまつさえは……


 危うく昼間の事を思い出しそうになり、慌てて首を振る。

 一人でドキドキしてバカみたいだったのに、また思い出すと鼓動が早くなってしまう。



「でもまあ、ちゃんと渡したドレスで来てくれてよかったよ」

「選択肢なかったからね」

「まあまあ。そう言うなよ」



 (なだ)めるように言うフィリップへ不服顔を返し、こちらの気持ちを悟られないようにする。

 そんなユリウスの格好は当然仮装で、今日は銀色の髪と青い瞳だった。


 暖かなコートの下には、厚手の生地で作られた赤茶色のドレス。背中にはアクセントに大きなリボンがついている。アクセサリーは翡翠色のネックレスに、室内で羽織るストールは柔らかくて触り心地抜群。


 対してフィリップはというと、赤銅色の髪に翡翠の瞳。

 そして、コートの下から覗く格好は恐らく騎士のようだが、これではお互いの色を交換しただけ。


 もしこれが自分の思っている童話の仮装なら、騎士は王子様なのでフィリップの場合仮装にならない気がするが……まあ、逆に戻したところで今度は自分が仮装にならなくなるから同じかと、一人で合点する。


 そんな事を考えていると、肩に手が置かれた。

 その手はいつの間にか反対側に回され、身体ごとフィリップの側へと引き寄せられる。



「よく似合ってるよ。ユウリィ」



 耳元で(ささや)かれて身体が硬直する。

 同時に顔も熱くなってきて、つい、顔をそむけてしまう。



「……こういう時は、素直に『ありがとう』って言えばいいんだ」

「う、うん……あ、りがとう?」



 フィリップの助け舟に乗るように言葉を返せば「良くできました」と、声が聞こえ、頬に柔らかい感触が伝わった。


 驚いて振り返れば、「……『続きは今夜』って、言っただだろ?」と、フィリップは笑みを浮かべる。


 確かにそう言っていたけれど。

 まだ、会場にすら入っていないのに。



(いきなり、こういう事するのは……)



 そう思って口ごもっていると、フィリップはニッと笑って「夜は長いからな。ゆっくり楽しもう」と、続ける。


 そんな風に言われると、余計に緊張してしまうのは仕方がないと思う。



                    ・

                    ・

                    ・



 会場へと入り、しばらくすると、曲が始まった。

 ユリウスはフィリップの足を踏まないように細心の注意を払いつつ、なんとか踊り始める。

 ゆったりとした曲調は動きも緩やかなので、比較的踊りやすい。しかし、顔を上げる事はできなくて、視線の先はずっと彼の胸元だった。


 別に顔を合わせたくないわけじゃない。

 ただ、ここまでの事を考えるとフィリップの手のひらで踊らされている様な気がして、ちょっと不満なだけ。



(だって恋人っていうのは、お互いを尊重とか対等とかもっとこう……)



 言葉で表すには難しいが、もっとお互いが近い温度なのではと思う。



(私だけドキドキしてて……)



 なんだか、ずるいと思う。



「……緊張してるのか? ユウリィ?」



 そう声をかけられ、危うく足を踏みそうになる。

 でも、それを知られるのは恥ずかしいので「し、してないよ……」と、返す。



 ……我ながら、ウソが下手だと思う。



 それでも、ウソじゃないよと見せる為に視線を上げれば、フィリップは「ふうん」と言いつつも、ニヤリと笑った。

 その表情はちょっと意地悪な事を考えている時の顔で、自身の見栄(みえ)が何の効果もないのだと分かる。



(完全に面白がってるな、フィーのやつ)



 そう思うと、一人緊張してドキドキしているのが本当に馬鹿らしくなってくる。



(大体誰のせいでこんなに緊張してると思ってるんだよ!)



 それらの気持ちはいつの間にやらちょっとした苛立ちに変わっていて、ユリウスは曲が終わるなり会場の中心から離れてゆく。

 頭の中では八つ当たりだと分かっていても、つい、いじけた様な態度をとってしまう自分が情けない。

 それでも歩みを止める事なく歩いていると、「さあ、すぐ次の曲が始まる、行こう?」と、フィリップが手を掴んだ。

 そのいつも通りすぎる態度が、またいじけた気持ちに拍車(はくしゃ)をかけ、「……私はいい」と、そっけなく返事をさせる。



「どうした? 怒ったのか?」

「……怒ってない」



 こうなっては後には引けない。

 大体、仮面舞踏会は踊るだけのパーティーじゃない。

 別に踊らなくったって、食事を楽しめばいいと思う。


 そう思って意地になり拒否を続けていると、「そう言わず、踊ろう? ユウリィ」と、こちらの髪を一房掴み、口づけを落とした。



「ちょっ!」

「苦情は後から聞くから、な?」



 微笑みながら手を引こうとするフィリップの腕を払う事はできず、結局ダンスの輪に戻ってゆく。

 するとタイミング良く、曲の伴奏が始まった。



「うわ……これ、私の苦手な曲じゃん」

「よかったな、練習出来て」



 「足、踏みそう」と言えば踊るのを止めさせて貰えるかも……なんて思って伝えてみれば「踏んだっていいさ」と、フィリップは笑う。


 無駄にカッコいい所を見せないでほしい。

 そう意識してしまえばまた緊張して、結局三回も踏んでしまった。



                  ・

                  ・

                  ・



「ごめん、フィー……。大丈夫?」



 先程の曲を終えて、ユリウス達は窓辺に移動していた。

 『今夜は雪が降るかも』と言っていた通り、窓に近い場所は人が少なく、同時に少し肌寒い。

 でもその冷えた感じが火照った身体には丁度良く、ついでに頭も冷やしてくれた。



「踏んでも良いといっただろ? だから、気にするな」



 フィリップは優しい。

 いつでも優しくて、怒る事なんて滅多にない。

 それは足を踏まれたって、こちらの態度が悪くたって。


 それなのに自分は……そう思うと自己嫌悪でへこむ。

 折角誘ってくれたのに、こんな態度を取るなんて、なんて嫌な奴。


 でも、謝るタイミングが分からなくてチラリとフィリップの様子を(うかが)えば、何故か彼は優しい笑みを浮かべていた。



「やっと……踊ってくれたな」



 一瞬「え?」と思った事が表情に出たようで、フィリップが「連続で二回以上だよ」と続ける。



「あれ……そうだっけ?」

「『そうだっけ』じゃない。いつも、一曲しか踊ってくれなかったじゃないか」



 言われてみればそうかもしれない。

 だって、私はダンスが苦手なのだ。必要がなければ踊りたくないし、殆どフィリップとしか踊っていない。だから、『一曲しか踊っていない』と言われれば、それが踊った回数になるから、ある意味、うまくならないのも当たり前だった。



「同じパートナーと複数回踊るっていうのはな、ちゃんと意味があるんだぞ?」



 そう言うフィリップに「あ、そうなの?」と返せば、彼は「やっぱり知らないか」と、短く溜息をつく。

 『やっぱり』と言われた事に、少々不満を感じたが、実際知らないのでそれは仕方ない。

 だから、意味を教えてと言えば、「ユウリィは知らなくていいさ」と言う。


 なんたる中途半端。

 意味があるらしい事だけ伝えて、内容を言わないなんて。



「……とにかく、俺とはいつも二回以上踊ろう」



 ……で、もし他の男に誘われても絶対ニ回以上踊るなよ。と、釘を刺される。


 もうこれ以上聞いても答えは返ってこないと分かり、ユリウスは短く息をついた。

 それでも思った事だけは伝えようと思い、「私、フィー以外とは踊らないよ?」と、伝える。



 フィリップが驚いた顔をした。

 しかし、構わず「だって、踊るの面倒だし」と続けると、その表情は落胆……というか、仕方ないなというか、そういう感じの気の抜けた顔になった。



「……そういう理由でも独占できるならいいか……」



 ポツリとつぶやかれた言葉に「え?」と、声を上げたが、「……気にするな。こっちの話だ」と誤魔化されてしまう。


 ただ。

 言葉だけはちゃんと聞こえていて。



『……そういう理由でも独占できるならいいか……』



 ちょっとだけ、フィリップの気持ちが垣間見えて嬉しくなった。



「やっと機嫌が良くなったか?」



 そう言われて、「……ごめん。態度悪くて」と、素直に謝る。

 きっとこれもフィリップの助け舟だと思うと、小さな事でヘソを曲げていた自分が恥ずかしくて、思わず(うつむ)く。

 するとフィリップは「俺といるだけなのに、緊張してるユウリィは可愛いよ」と、耳元で囁いた。


 だから。

 そういうのがずるいと思う。



「ユウリィ……」



 フィリップが名を呼ぶ。

 自分の愛称が甘さを伴って頭の中に響き、キスを予感させる。



 ――――今度はきっとからかわれない。



 そんな思いを胸に、ユリウスは静かに目を閉じた。

 するとすぐに優しくて甘い時間が始まる。



 緊張もするし、ドキドキもする。



 でもそれはフィリップを好きなんだと実感する事と同じで。

 だから、自分だけと思うのは悔しくて。

 

 いつかきっと彼にもそんな顔をさせたい。

 余裕なんてすべて奪って、自分を見てドキドキしてほしい……




 しばらくの間、その甘さに浸っていると、そっとフィリップが離れた事が分かり、ユリウスは目を開けた。

 本当は恥ずかしくて顔を逸らしたいけど、そんな事ばかりするのも悔しくてずっとフィリップを見つめる。

 すると、彼は優しく手を握った。



「俺の姫。もう一曲踊ってはくれませんか?」



 そう言って、見つめられてしまえば断れるわけなくて。

 今日の仮装も(あい)まって、なんだか本当にお姫様になった気分になる。



「わ、私でよければ、喜んで」



 フィリップが笑った。

 嬉しそうな幸せそうな笑顔で、自分の心もじんわりと温かくなる。


 「早く変装しないで踊れるようになるといいな」と言うフィリップに、照れ隠しで「それって、足踏めないじゃない」と、返せば「だから、踏んだって良いっていってるだろ?」と、笑う。



 ダンスは苦手だけど。

 いつか来るその日が楽しみになった事は、まだ内緒にしておこうと思う。






【番外編1.甘い紅茶の後には……おしまい】


お読みいただきましてありがとうございました!!(*^_^*)

予定していた糖度高めの番外編より時系列が早い話を書いてしまったので、こちらを第一弾とさせていただきました。


また準備が出来次第、番外編を投稿しますので、お暇がありましたらよろしくお願いいたします!(*^_^*)

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