17.晴れやかな気持ち
少し短めです。
四度目の夜会で遂にばれてしまった。
そりゃあ何度も話しかければ分かってしまうのは無理なくて、仮面騎士としては失格な結果だろう。しかし、自分の気持ちは晴れやかでついニヤニヤしてしまう。
『ま、待ってくれ!!』
離れようとした自分を呼びとめてくれたフィリップ。
本当は声をかけてはいけないのに、そんな事も忘れてしまったように必死で。
その後も誰かに聞かれても良い様に言葉を選んで、話しかけてくれた。
(……そんなに慌てなくてもいいのに)
でも、そんな風にしてでも話をしようとしてくれた事が、すごくうれしかった。
そう思えば、今までごちゃごちゃと一人で考え、決めつけていた自分がどれだけ勝手な事をしていたのかと気がついた。
もし、「足手まといかも」と思うならならハッキリ訊ねればいい。
もし、「必要ないかも」と思うならそれだって訊ねればいい。
あれこれ考えて、一人で結論付けるのは早計だ。
相手のある事なのだから、きちんと話をするべき。
(どうしてこんな簡単な事に気付かなかったのだろう?)
フィリップと自分の仲じゃないか。
腹を割って話す事は簡単なハズだ。
じゃあ、何時話す?
早く話をしたいな。
本当なら、今すぐにでも。
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「姉上、勝負しましょう」
城から帰ったエリザを捕まえ、そう伝えると、姉はニッと笑って「いい顔してるじゃない」と、言った。
エリザに勝てばフィリップの騎士に戻れる。
その資格を得た上で、ちゃんと聞きたい事を聞く。
すべてはそこからだった。
「久しぶりの勝負ね。でも、手加減はしないわよ?」
「もちろん、そうして。……でも、結果は変わらないよ」
さり気なくそう宣言すると、エリザは不敵な笑みを浮かべ「言うじゃない」と拳を突き出してくる。それに合わせて自分も「もちろん」と、拳を突き出す。
もう、負ける気がしなかった。
一分でも一秒でも早く。
あの場所をエリザから返してもらうと決めたから。
「じゃあ、始めましょうか」
「うん、覚悟して。エリザ姉」
二人はすぐに鍛練所へ向かい、木剣を手に取る。
すぐに勝負開始され、そして―――――
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「――……私の、負けよ」
そう言って、エリザは膝を折った。
今までの事を考えれば少々呆気なく感じたが、姉が手を抜いたとは考えられない。
本来なら初戦からこうなるハズだったのだろう。
それだけの技量の差はあった。
しかし負け続けていたのは事実で、それは『ずっと曇った剣技でエリザと勝負していた。』と、いう事なのだろう。
「……エリザ姉、私強い?」
もう負けない。
そうは思っても、背中を押して欲しくて訊ねた。
するとエリザは「私に負けを認めさせたのに、まだ心配なの?」と、フッと柔らかな笑みを浮かべる。
そんな風に返されるとこれ以上は何も言えず、情けない気持ちを隠す為に視線を逸らし、頬を掻いた。
……と、そこで姉の言葉にハッとして、視線を戻す。
「エリザ姉……ひょっとして、今回の事って……」
私の為に?
そう言おうとしたら、立ち上がったエリザにコツンの頭を叩かれた。
「脳筋で騎士バカの妹を持つと大変だわー」
「の、脳筋!? 騎士バカ!?」
なんだか酷い言われようである。
しかし、エリザはクスクス笑いながら「ねえ、ユリウス」と、名を呼ぶ。
「物事はさ、難しく考えると、どんどん難しくなるけど、根本は結構単純なのよ?」
その言葉はストンと腑に落ちた。
不安に思っていた事を確認もせず、ただ一人で悩んでいた日々。
フィリップにとって最善だと言い聞かせて、傍を離れる決意をしたあの日。
そのくせ、心配だとか理由を付けてこっそり様子を見に行った四日間。
その全てがあったからこそ、エリザの言いたい事が正しく理解できる。
「……いいの、かな?」
大切だから、傍に居たい。この想いだけで。
「それがなければ、騎士じゃない」
大切な物を守る為に皆、騎士になるのでしょう?
エリザが笑って、制服のポケットから何かを取り出した。
それは青色の封筒。
一目で、フィリップからだと分かった。
「私が正式に着任して初めて控室に来たと思ったら、『これをユリウスに』って、たったそれだけだったんだから! 失礼しちゃう!」
「まあまあ、エリザ姉……フィリップ、疲れているみたいだったし」
「疲れてる? ひょっとして舞踏会で? もしそうなら、自業自得じゃない」
「自業、自得??」
ふんと鼻を鳴らすエリザに首を傾げる。
たしかに舞踏会はフィリップの為に開かれているのだが、それを自業自得というには気の毒な気がするのは自分だけなのだろうか?
「……たくさん、お姫様がいると迷っちゃうのかな?」
そうポツリと呟いたら、エリザは「はあ?」と、呆れた様な声を上げた。
「流石にそこまでは付き合ってられないわ……」
「え? 『流石に』って??」
エリザがひらひらと手を振って鍛練所から出ていく。それを、「ねえ、流石ってなに~?」と、聞いたが、返事はなかった。
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