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アスタシア王国の男装令嬢         作者: 大鳥 俊
一章:男装令嬢と「ピンクのドレスにご用心」
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☆3.それぞれの思惑






 ユリウスは男爵家の馬車に乗り、ヴァーレイ子爵の屋敷を目指している。

 普段なら馬車など使わない距離なのだが、屋敷に招待され手ぶらというわけにもいかず、手土産を用意した為だ。


 手土産は男爵家領地で作られたジャムと紅茶。

 令嬢にはありきたりだが花束を用意した。

 

 これらを持って大通りを歩くのは目立つだろう。そしてなにより恥ずかしい。

 だが、馬車を使うと何かと制約があり、結果として時間がかかってしまう事になった。


 そんな中、一人きりで乗る馬車はとても暇だった。

 外の景色は流れる速さなのに、自分の周りだけは時が止まっている気がする。

 

 ユリウスは外をぼんやり眺めながら、これからの事を考えてみる。



 令嬢に気に入られない事。



 この一言に尽きる。

 しかし、嫌われてしまうと男爵家自体に被害が及びかねない。

 令嬢が「お付き合いするにはちょっと……」と、思ってくれるだけでよかった。


 けれどもその案配(あんばい)は難しい。


 好かれるなら、機嫌をとればよい。

 嫌われたいなら、逆を。

 好かれず、嫌われず、でも、お付き合いは断りたい。


 我ながら都合のいい事を言っているのは分かる。 

 ただそれでも。



(ここまで来たら、うまい事断ってもらうしかないんだけど)



 ある意味、開き直っていた。



 ガタゴトと揺れる馬車は丁度、大通りに差し掛かったところ。

 まだ子爵家には到着しない。本当はこの通りを使わない道もあるのだけど、そこは馬車での制約。細手の道を通れない馬車は遠回りするしかないのだった。

 


(それにしても、なんで自分に縁談がきたんだ?)



 我がセクト家は貧乏貴族、未婚の姉が二人。


 その条件だけでも縁談がこないには十分過ぎる理由だし、それを除いて考えても自分に縁談がくる理由は思い当たらない。


 ユリウスの生活はハッキリ言って薄い。


 それは仮面護衛騎士という極めて珍しい立場がそうさせている。

 

 公に殿下をお守りするのが、護衛騎士。

 他者に知られず殿下をお守りするのが、仮面護衛騎士。


 立場上、公で身元を明かす事は一切無く、王城勤務、強いては殿下の護衛騎士でありながら、ユリウスの任務はお忍びでの外出や仮面舞踏会など非公式の場が中心。(きら)びやかな場所に縁が無い為、華やいだ経歴もない。社交の場を苦手とするユリウスにとっては、願ったり叶ったりの位置づけであった。


 このような経緯からユリウスは、セクト男爵家長男として一切、夜会などには出席をしていない。

 よって令嬢の目に留まる事も当然ないはず。


 それなのに、まさかの縁談申し込み。青天の霹靂(へきれき)とはまさにこの事だった。



(ひょっとして、ヴァーレイ子爵は薄い奴が好みだったのだろうか?)



 華やいだ経歴があると、娘が心配だとか……?

 ありえる。それは、十分にあり得る。



(って事は、華やいでいればいい?)



 薄い奴と思っていた奴が、ホントは華やか。

 いわゆる色男風ならいいのでは?


 華やいだ経歴は今さら作れないが、今日の印象は変えられる。



(我ながら良い勘してるじゃないか)



 ふと気がつくと馬車の速度が落ち、やがて止まった。



「ユリウス様、到着いたしました」



 御者にお礼をいい、先に帰るよう指示をする。

 土産の品を持ち、すぅっと息を吸い込んだ。

 


(色男風ね)



 仮にも仮面騎士と呼ばれているのだから、雰囲気を変える事ぐらいお手の物である。


 ユリウスは屋敷の門兵に挨拶をし、通してもらう。

 きびきびと歩みを進め、奥で待ちかまえていた執事の元へ向かった。



「初めまして。セクト男爵家長男ユリウスと申します。本日は御招きいただきましてありがとうございます」


 

 イメージする色男風に流し目を送り、口角を少し上げてみる。


 ――さあ、ここからが腕の見せどころだ。


 自分にそう言い聞かせて、ユリウスは屋敷へと足を進めた。







 一方その頃……



 日当たりのよい南向きの部屋。

 一本の大木から作られたと思われる高価な執務用の机には、書類が整えられたままその決裁を待っていた。

 普段であれば、この半分以上はすでに次の部屋に運ばれる時間なのだが。


 この部屋の主は、山の様に積み上げられた書類を横目に席を立つ。そして、その足で窓辺に近づき、そっとレースのカーテンをめくった。


 外は曇り無き晴天。


 ここ数日初夏を思わせるカラリとした太陽が眩しい。

 その日差しはフィリップの銀髪を照らし、(わず)かに入った青色を際立たせる。

 窓を開ければ風が舞い込み、その薫風は彼の青みがかった銀髪を撫でてゆくのだろう。


 しかし、フィリップは窓を開けるつもりもなく、かといって、その場から離れる訳でもなかった。

 遠くを眺めるその青い瞳は恨めしさを込めて。



(……雨よ降れ)



 そう念じていた。



「どうかされましたか? 殿下?」



 今にも溢れ出しそうな黒いオーラを感じたのか、護衛騎士であるミラーが訊ねてきた。

 フィリップは「なんでもない」と、返事をし、また視線を城の外へと向ける。

 

 天気は変わらず晴天で一粒の雨すら降りそうにない。

 その様子を見て、心の中で舌打ちをする。



 今日は、ユリウスとヴァーレイ子爵令嬢とのお茶会。……という名の、お見合いであった。



 フィリップは眉間にしわを寄せる。

 『天気がよい』というだけで、なんとなく天が祝福しているように感じるから余計に不快感が募った。



(……まあ、破談だろう)



 そう自分に言い聞かせる。

 たとえ相手が子爵令嬢でも、絶世の美女であろうと、ユリウスと結ばれる事はない。

 

 ユリウスは女だ。

 間違いなく、破談になる。

 当然の事なのだ。


 そう分かっている(はず)なのに仕事が手につかない。

 頭からユリウスと子爵令嬢の事が離れず、書類の決裁は遅れるばかり。

 一息着くつもりで外を眺めたら、天気が良すぎて逆にモヤモヤした。



「殿下、ユリウスの事が心配ですか?」



 頭の中を覗かれたようなセリフに振り返った。

 

 殆ど公に姿を晒さないユリウスだが、さすがに護衛騎士であるミラーには知られており、さらに言うなら今日縁談がある事も知っている数少ない人間だ。

 そんなミラーは茶色い瞳を細め、「大丈夫ですよ、殿下」と、親しみやすい笑顔を見せた。



「ユリウスは優秀でいい男です。きっと子爵令嬢のハートを射止められると思いますよ」

「それが困るんだよ」

「は?」



 つい、素で返してしまい、ミラーが疑問符を浮かべた。

 フィリップは慌てて訂正し、「ユリウスはいいやつだ」と、頷く。

 

 だが、心の中では嫌な汗をかいていた。



 令嬢に気に入られる。



 その可能性があるから心配なんだ。

 そうなれば、男爵家からは断れない。



(ユウリィのやつ、ホントわかってんのか……)



 自分の魅力について。

 人懐っこい笑顔と、子犬のようなふさふさの髪。

 くるりとした翡翠色の瞳は宝石のようにキラキラしており、その姿は可愛いタイプの美男子に見えるという事を。



(あいつの事だから、『うまいこと断ってもらって』とか、思ってそうだけど)



 そのお気楽さは間違いなくセクト男爵の子供だと思う。

 大体において、破談にする作戦とかしっかり練ったのか? 確認するべきだった。今更だが後悔する。

 

 最初に訊ねた時、ユリウスは「大丈夫」と、言った。もちろん、鵜呑みにした訳じゃない。

 ただ、そういう返事をする時に限ってロクでもない事になる気がする。


 あいつはもっと世の中を知るべきだ。


 『うまい事』なんて、早々ないんだって事。

 もしも、そんなにうまく行くなら、自分だってうまくやれる。

 こんなにモヤモヤしながら、外を見る必要なんてないんだ。

 


(もっと、俺を頼れよ馬鹿ユウリィ……)


 

 頼ってくれれば、絶対守ってみせるのに。

 

 なんでも自分で解決しようとする彼女に心の中で呟くが、それを口にはできない自分自身にも溜息をつく。

 フィリップはまた外へと視線を移すのだった。








今回もお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)

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