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アスタシア王国の男装令嬢         作者: 大鳥 俊
一章:男装令嬢と「ピンクのドレスにご用心」
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20.妖精リリア

キリがよいと思うところで切ったら、短くなってしまいました……

早めに、続きをアップしますね!

 





「…………!!」


 いつの間にか忍び寄っていた銀粉が身体に纏わりついた。

 ユリウスは粉を払う為、腕を動かそうとする。

 

 ところが、腕が全く動かない。

 

 意識をして動かそうとしても、腕は全く反応を示さない。

 しびれとは違う何かが動きを邪魔している。

 そう思った時、この銀の粉が原因だとわかった。


(リリアの魔法!)

 

 魔法というものに全くなじみが無い為、理解するまで時間がかかった。

 この銀粉がどう作用しているのか全くわからない。

 唯一わかるのは不思議な現象が自分の身体を制限している。

 ただそれだけ。

 (あらが)うすべもない。 


 フィリップが腕を振った。

 動かない自分を見かね、代わりに銀粉を払おうとしているのだと思う。 

 しかしその度に粉が舞うだけで、まるで効果が無い。


 やがてフィリップの動きが緩慢になり、止まった。

 動いたせいで、しびれがすすんでしまったのかもしれない。

 背中に触れるフィリップの胸板が大きく上下し、腕はユリウスの身体の前にだらりとぶら下がった。


「あらあら」


 リリアは嘲るように笑う。


「あなたは部外者なんだから、そのまま眺めていればいいのに」

「リリア! いい加減にしろ!」

「いやよ!」


 リリアはクーウェルをキッと睨み、腕を振る。

 銀粉を纏った腕に反応し、ノアが跳ねた。


「さあ、お姫様。王子様から祝福をもらって」


 ノアはゆっくりとユリウスに近づき、跪く。

 その表情には意思が感じられなかった。

 

 ぼんやりとした顔つきに(うつ)ろな瞳。

 いつもなら二コリと可愛らしい笑みを浮かべる口元は口角すらあいまいに感じる。

 宝石のような碧い瞳も、輝きを忘れた石ころのよう顔に収まっているだけ。

 その瞳はこちらを見ている。

 

 いや、違う。


 彼女の瞳は目の前にいる自分さえも映してはいない。

 

 ノアが表情を変える事無く両手を伸ばしてきた。

 口元を押さえる手を剥がそうとして。



 パシッ



 目の前でノアの手が払われた。

 大きな腕がユリウスの前でだらりと垂れる。

 力が入らないのか、のしかかる腕は重い。

 その重さを感じ、あまり自由がきかないのだとわかった。

 

 ノアがまた手を伸ばしてきた。

 すると、大きな腕がノアの手をはらう。

 ノアは、手を伸ばす。それを、フィリップが払う。何度も何度も何度も。



「どう、して……」



 声が震えていた。

 まるで蚊の鳴くような声。

 切なさを帯びるその声に悲痛な思いを感じた。



「どうして邪魔をするの! どうして、私に祝福をくれないの!?」



 癇癪(かんしゃく)を起したように叫ぶリリア。

 その拍子に、銀粉が霧散(むさん)する。


 糸の切れた人形のように、フッとノアが足元から崩れた。

 そのままの勢いでユリウスの方へ倒れ込んでくる。

 ドサッと音を立てて、自分にのしかかるノアをなんとか胸で受け止めた。

 しかし、身体の自由が利かない腕では彼女を支える事ができない。


(このままじゃ……!)


 意識のないノアが正面から地面に倒れてしまう。

 

 ユリウスは今にも滑り落ちそうなノアをつかもうと手を伸ばす。

 口元を押さえていた腕を滑るように身体に這わせ、ドレスの肩をつかむ。

 ただそれでも、力が入らず滑り落ちるノアを支えられそうにない。


 突然、ユリウスは背中の支えを失った。

 フィリップが倒れようとしているのだと分かる。

 

 ユリウスは滑り落ちそうなノアを乗せたまま、ゆっくりと動く景色を見た。

 背中に体温を感じたまま仰向けに倒れる。

 目線を落とすとノアが自分の体の上でうつ伏せになっていた。

 地面に倒れたおかげで、滑り落ちる事はなくなっている。


 下敷きになっているフィリップが心配になりユリウスは首を動かした。

 角度的に何も見えない。

 なんとか表情が見えないかと首を上下左右に動かしてみるが無駄だった。

 

 「フィー?」


 声は出たので呼んでみる。

 するとフィリップはユリウスの身体に乗っている手を動かした。

 

 トントントン。


 なぜ声を出さなかったのかは分からないが返事はきた。

 そのリズムは「大丈夫、安心しろ」と言っているような気がする。


「大丈夫、なんだよな?」


 念のため聞いてみると、また手が一度リズムを刻んだ。

 フィリップは「ああ」と、言っているつもりなんだろう。

 ユリウスは安心し、ふうと短く息をつく。


 と、同時に。

 


「リリア!」

 


 クーウェルが悲鳴を上げるように叫んだ。

 ユリウスは首だけを動かし、声の聞こえた方へ視線を向ける。


 リリアの纏うヴェールが散り散りになっていた。

 その隙にリリアとの間合いを詰めたらしいクーウェルの姿が見える。


「いや! 来ないで!」

「リリア! リリア!!」

「あと、一人なのに……、どうして……」

「リリア、落ち着いて」


 クーウェルはリリアの肩に止まろうと必死に近づくが、白い手で払われている。


「リリア、話してごらん。ちゃんと、聞くから」


 クーウェルの優しい声にリリアの動きはだんだん鋭さを失っていった。

 顔は俯き、小刻みに揺れる肩は何かを我慢している様に見える。


「リリア、俺に話して、リリア」


 今まで聞いた事ないクーウェルの甘い声。

 

 遂にリリアは抵抗を止めた。

 肩を落とし、しゃがみ込むリリア。


 リリアは泣いていた。


 顔を覆い、肩を震わせ嗚咽を漏らす。

 そんなリリアの頭をクーウェルはずっとあやす様に撫でつづけた。







今回もお読みいただきましてありがとうございました!(*^_^*)

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