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アスタシア王国の男装令嬢         作者: 大鳥 俊
一章:男装令嬢と「ピンクのドレスにご用心」
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☆15.あこがれの王子様

手直ししました!1/9

 





「リリアは妖精の中でも、強い魔力を持つ個体だ」


 妖精リリア。


 不思議な現象を起こす事を『魔法』といい、その『魔法』を操る力を『魔力』という。

 妖精はみな魔法を使う事ができ、その中でも魔力の強い者は妖精王又は妖精女王というらしい。

 そんな妖精界において、リリアは次の妖精女王として有力だった。


 しかしリリアはその話に乗り気ではなかった。


 理由は未だに分からない。

 ただ言える事は、クーウェルが女王になる事を薦めた次の日に事件が起きた。という事実のみ。



「……リリアは魔女に(そそのか)され、魔力の大半を渡してしまった」



 そしてリリアは人間の住む世界に飛び出したという。



 クーウェルと仲間の妖精たちはリリアを探す。

 しかし、結果としてリリアを見つける事は出来なかった。

 ただ幸いな事にクーウェル達の捜索で、リリアを(そそのか)した魔女を発見。

 

 そして、事態は好転した。


「リリアが何故、人間の所へ行ったのかが分かったんだ」と、クーウェルが語気を強める。



「リリアは妖精の森にある伝承通りに魔法をかけて、そして、その祝福を浴びに人間の所へ行った」

「伝承? 祝福……?」



 ユリウスはクーウェルの言葉を真似る。

 言葉の意味は分かるが、クーウェルが指し示している意味が分からなかったからだ。



「伝承は人間の世界にある童話『王子と時を奪われた姫』と同じと思えばいい。そして、祝福は王子が姫の魔法を解く瞬間を言う」



 童話と魔法。


 ユリウスの中でバラバラだった事柄が少しずつ、繋がっていく気がした。



「童話をなぞっているから、金髪碧眼の子供に魔法をかけた?」



 クーウェルが頷く。

 そうと分かれば……



「なら、魔法を解く方法は……」

「王子のキスだ」



 そう言い切るクーウェルが「赤銅色の髪に翡翠の瞳を持つ王子。そう、ユリスは条件にぴったりだ」と、こちらを見て笑う。



 ユリウスは鼓動が速くなるのを感じる。

 子供の頃、王子様に憧れていたけど、まさかこんな形で叶えられるとは思ってもみなかった。



「俺のキスでみんなを助けられる?」



 気づけはそう口にしていた。

 しかし、クーウェルは首を振る。



「助けられるのは一人きりだ」



 伝承でも童話でも王子様がお姫様を助けるのは一度きり。

 事はそんなに簡単ではなかった。



「たとえユリスが一人助けたところで、根本的には解決できない」


 

 リリアが人間に手を出し続ける限り、異変は終わらない。

 クーウェルはそう言葉を続け、ユリウスを見上げる。その表情は助けを求めているように見えた。


 ユリウスは微笑む。

 指示を仰ぐようにフィリップへと視線を向ければ、彼もニッと笑って頷いた。

 


「決まりだな」

「ああ」


 答えはもう決まっていた。



「「リリアを止めよう」」



 二人の声は重なって響き、また視線を合わせてお互いに微笑む。



             ・

             ・

             ・



「フィー、なんかいい作戦ある?」



『リリアを止める』



 取るべき行動は決まった。

 しかしながらユリウスは、その方法をさっぱり思いつけず首をひねる。

 頼みのクーウェルはといえば……机の上でコロンと寝転がっていて、意見を言う気配はない。

 


「……残念ながら、相手が妖精となると勝手が違うからな」

「だよね」



 予想通りな解答に相づちを打ち、一緒に溜息がもれる。


 リリアを止めるという事は拘束する事になるだろう。

 一応、妖精であるクーウェルを二回ほど捕まえてはいるが、昨晩に至っては不意打ちみたいなものだし、今日に至ってはまあ、ほぼお遊びだろう。


 これらは意図的に捕まえたとは言い難く、しかも、大前提にクーウェルが自分の傍に現れた。と、いう事実が大きい。



(そう。姿を現してくれないと)



 昨晩のクーウェルの話から、自分がリリアに気に入られている事はわかった。

 しかし、過去二度ともこちらが望んだ時に姿を見せたわけではなく、気に入られた理由も不明。

 では、どうやっておびき出せばよいのか。



「何を考えている? ユリス?」



 しばらく黙りこくっていたクーウェルが話しかけてきたので、「リリアをおびき出して捕まえる方法」と、簡潔に応える。すると彼からは「ああそれか」と、余裕な反応が返ってきた。


 その余裕がどこから来るのか分からず、「捕まえるのは魔女の姿なら人間と同じように捕まえて、妖精の姿ならクーみたいに捕まえられるとして……」と、一度言葉を切り、「でも、まずは出てきてもらわないと始まらない」と、頭の中で考えていた事をそのまま口にした。



「だから、そんな事か」



 クーウェルは変わらず余裕の返事をする。

 ……と、いう事は?



「リリアをおびき寄せる方法はある」



 ユリウスはクーウェルを見た後、フィリップに視線を向ける。

 すると彼も同じようにこちらを見ていたので、お互い顔を見合わせた状態からクーウェルに視線を戻す。

 そんな自分たちの様子を見て気を良くしたのか、クーウェルは自信満々に話し始めた。



「リリアはユリスの事を気に入っている。あと、リリアは魔法が解けそうな時、必ず側にくる」



 それは、祝福を浴びる為。と、続けた。



「だから、ユリスには王子になってもらえばいい」

「王子に? 姫じゃなくて?」

「なんだユリス、女装したいのか?」



 ユリウスは叩きかけた手を精神力で止めた。

 ここで張り合うとまた話が逸れる。



「……ちがうよ」



 ここは大人な対応をしようと決めたユリウス。しかし、そんな葛藤もしらず、クーウェルは続けた。



「まあ、女装しても、祝福を与えるのはユリスだからな」



 『祝福を与える』それは、つまり。



「……ユウリィにキスさせるのか?」



 フィリップが自分より先に口を挟んだ。



「心配するな、フィル。お前の前でそんな事言えない。ただ、解けそうな雰囲気を作ればいい」

「って、どうやって、誰に?」



 当事者なのに勝手に話しを進められてはと思い、慌てて話に入る。そんな自分に「なんだ、忘れたのかユリス。お前には金髪碧眼のこい……」と、不穏な事を言いかけたので、軽くはたいてやった。

 するとクーウェルは「暴力だ!」と言うが、いつもの事なので無視する。



「ノア嬢……か」



 ぽつりと(つぶや)き、可愛らしいその容姿を思い浮かべる。ただここにきて、その存在が話題に上るとは思わなかった。



「ノアというのか。名前が短くていい」



 クーウェルは「ふふん」と笑う。



「気づいていないのか、ユリス」

「なにが?」



 小馬鹿にしたように話すクーウェルに少しムッとしながら返事をする。

 しかし彼は気にした様子も見せず、「ノアも魔法がかかっている」と、あっさり続けた。

 

 ユリウスは言葉を失った。


 ノアも金髪碧眼。そして、小柄でお姫様のよう。

 ずっとそう思っていたのに、なぜ気づかなかったのか。

 私用で会っていた彼女が、まさかこの一連に関わりがあるなどとは思いが至らなかった。


 クーウェルはふわりと羽ばたき、ユリウスの前で止まる。


「だから、丁度いい。王子と姫がそろっている。うまくいく」


 そして、自信たっぷりに言い放つ。



「ユリス、ノアを口説け。キスさせてもらえるぐらい」


 

 ユリウスはあまりの衝撃の机に倒れ込んだ。そして、ノアを口説く自分を想像してしばらく動けなくなった。






今回もお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)

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