☆15.あこがれの王子様
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「リリアは妖精の中でも、強い魔力を持つ個体だ」
妖精リリア。
不思議な現象を起こす事を『魔法』といい、その『魔法』を操る力を『魔力』という。
妖精はみな魔法を使う事ができ、その中でも魔力の強い者は妖精王又は妖精女王というらしい。
そんな妖精界において、リリアは次の妖精女王として有力だった。
しかしリリアはその話に乗り気ではなかった。
理由は未だに分からない。
ただ言える事は、クーウェルが女王になる事を薦めた次の日に事件が起きた。という事実のみ。
「……リリアは魔女に唆され、魔力の大半を渡してしまった」
そしてリリアは人間の住む世界に飛び出したという。
クーウェルと仲間の妖精たちはリリアを探す。
しかし、結果としてリリアを見つける事は出来なかった。
ただ幸いな事にクーウェル達の捜索で、リリアを唆した魔女を発見。
そして、事態は好転した。
「リリアが何故、人間の所へ行ったのかが分かったんだ」と、クーウェルが語気を強める。
「リリアは妖精の森にある伝承通りに魔法をかけて、そして、その祝福を浴びに人間の所へ行った」
「伝承? 祝福……?」
ユリウスはクーウェルの言葉を真似る。
言葉の意味は分かるが、クーウェルが指し示している意味が分からなかったからだ。
「伝承は人間の世界にある童話『王子と時を奪われた姫』と同じと思えばいい。そして、祝福は王子が姫の魔法を解く瞬間を言う」
童話と魔法。
ユリウスの中でバラバラだった事柄が少しずつ、繋がっていく気がした。
「童話をなぞっているから、金髪碧眼の子供に魔法をかけた?」
クーウェルが頷く。
そうと分かれば……
「なら、魔法を解く方法は……」
「王子のキスだ」
そう言い切るクーウェルが「赤銅色の髪に翡翠の瞳を持つ王子。そう、ユリスは条件にぴったりだ」と、こちらを見て笑う。
ユリウスは鼓動が速くなるのを感じる。
子供の頃、王子様に憧れていたけど、まさかこんな形で叶えられるとは思ってもみなかった。
「俺のキスでみんなを助けられる?」
気づけはそう口にしていた。
しかし、クーウェルは首を振る。
「助けられるのは一人きりだ」
伝承でも童話でも王子様がお姫様を助けるのは一度きり。
事はそんなに簡単ではなかった。
「たとえユリスが一人助けたところで、根本的には解決できない」
リリアが人間に手を出し続ける限り、異変は終わらない。
クーウェルはそう言葉を続け、ユリウスを見上げる。その表情は助けを求めているように見えた。
ユリウスは微笑む。
指示を仰ぐようにフィリップへと視線を向ければ、彼もニッと笑って頷いた。
「決まりだな」
「ああ」
答えはもう決まっていた。
「「リリアを止めよう」」
二人の声は重なって響き、また視線を合わせてお互いに微笑む。
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・
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「フィー、なんかいい作戦ある?」
『リリアを止める』
取るべき行動は決まった。
しかしながらユリウスは、その方法をさっぱり思いつけず首をひねる。
頼みのクーウェルはといえば……机の上でコロンと寝転がっていて、意見を言う気配はない。
「……残念ながら、相手が妖精となると勝手が違うからな」
「だよね」
予想通りな解答に相づちを打ち、一緒に溜息がもれる。
リリアを止めるという事は拘束する事になるだろう。
一応、妖精であるクーウェルを二回ほど捕まえてはいるが、昨晩に至っては不意打ちみたいなものだし、今日に至ってはまあ、ほぼお遊びだろう。
これらは意図的に捕まえたとは言い難く、しかも、大前提にクーウェルが自分の傍に現れた。と、いう事実が大きい。
(そう。姿を現してくれないと)
昨晩のクーウェルの話から、自分がリリアに気に入られている事はわかった。
しかし、過去二度ともこちらが望んだ時に姿を見せたわけではなく、気に入られた理由も不明。
では、どうやっておびき出せばよいのか。
「何を考えている? ユリス?」
しばらく黙りこくっていたクーウェルが話しかけてきたので、「リリアをおびき出して捕まえる方法」と、簡潔に応える。すると彼からは「ああそれか」と、余裕な反応が返ってきた。
その余裕がどこから来るのか分からず、「捕まえるのは魔女の姿なら人間と同じように捕まえて、妖精の姿ならクーみたいに捕まえられるとして……」と、一度言葉を切り、「でも、まずは出てきてもらわないと始まらない」と、頭の中で考えていた事をそのまま口にした。
「だから、そんな事か」
クーウェルは変わらず余裕の返事をする。
……と、いう事は?
「リリアをおびき寄せる方法はある」
ユリウスはクーウェルを見た後、フィリップに視線を向ける。
すると彼も同じようにこちらを見ていたので、お互い顔を見合わせた状態からクーウェルに視線を戻す。
そんな自分たちの様子を見て気を良くしたのか、クーウェルは自信満々に話し始めた。
「リリアはユリスの事を気に入っている。あと、リリアは魔法が解けそうな時、必ず側にくる」
それは、祝福を浴びる為。と、続けた。
「だから、ユリスには王子になってもらえばいい」
「王子に? 姫じゃなくて?」
「なんだユリス、女装したいのか?」
ユリウスは叩きかけた手を精神力で止めた。
ここで張り合うとまた話が逸れる。
「……ちがうよ」
ここは大人な対応をしようと決めたユリウス。しかし、そんな葛藤もしらず、クーウェルは続けた。
「まあ、女装しても、祝福を与えるのはユリスだからな」
『祝福を与える』それは、つまり。
「……ユウリィにキスさせるのか?」
フィリップが自分より先に口を挟んだ。
「心配するな、フィル。お前の前でそんな事言えない。ただ、解けそうな雰囲気を作ればいい」
「って、どうやって、誰に?」
当事者なのに勝手に話しを進められてはと思い、慌てて話に入る。そんな自分に「なんだ、忘れたのかユリス。お前には金髪碧眼のこい……」と、不穏な事を言いかけたので、軽くはたいてやった。
するとクーウェルは「暴力だ!」と言うが、いつもの事なので無視する。
「ノア嬢……か」
ぽつりと呟き、可愛らしいその容姿を思い浮かべる。ただここにきて、その存在が話題に上るとは思わなかった。
「ノアというのか。名前が短くていい」
クーウェルは「ふふん」と笑う。
「気づいていないのか、ユリス」
「なにが?」
小馬鹿にしたように話すクーウェルに少しムッとしながら返事をする。
しかし彼は気にした様子も見せず、「ノアも魔法がかかっている」と、あっさり続けた。
ユリウスは言葉を失った。
ノアも金髪碧眼。そして、小柄でお姫様のよう。
ずっとそう思っていたのに、なぜ気づかなかったのか。
私用で会っていた彼女が、まさかこの一連に関わりがあるなどとは思いが至らなかった。
クーウェルはふわりと羽ばたき、ユリウスの前で止まる。
「だから、丁度いい。王子と姫がそろっている。うまくいく」
そして、自信たっぷりに言い放つ。
「ユリス、ノアを口説け。キスさせてもらえるぐらい」
ユリウスはあまりの衝撃の机に倒れ込んだ。そして、ノアを口説く自分を想像してしばらく動けなくなった。
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