邂逅、診断、判断、決定、血統と決闘。
ただ、なんにも考えずに書いています。
この話には設定なんてなく進行しますし侵攻します。後付け? いや前からないから全部後付けですので。しかしそれだけ、後から何でも加えれます。
悪ふざけに乗っかってくれる方は、コメントやメールなんぞで参加してください。
それでは気が向けばまたいずれ。
「さてまあ、つまらない話の続きをするのも読者のためにならないから、とりあえずは簡潔にまとめてしまおう。異議はあるかい?」
僕は無言でナイフを捨て、戦闘意識がないことを示して首を振る。
「おいおいおいおい、呪術も使える馬鹿医者なんだろ? たかだかナイフ一本捨てたところで、あたしが警戒を解くとでも?」
笑う。縊る。ごくごく自然に椅子に腰掛け、煙草を取り出し真っ赤なコートを靡かせる。不自然すらも平伏すほどに自我を曲げない。世界が彼女を中心に捻じ曲がる。
――それほどまでに、ただ、尊大で絶対的に、揺ぎ無く。彼女はそこに『在った』。
けらけら、彼女は薄ら笑いを止めない。しかし一方で、むしろ自分の刀も仕舞い、言外に戦闘の終了を宣言している。ここからの敗北がないことを知っているからだ。だが、勝利を確信しつつも、油断は見せないのは流石といったところか。いや、実に美しいほどに主人公で、ヒロインで――世界の中心を占めている。もはや、世界そのものと言ってもいいかもしれない。
――そしてそれが揺るがないこそ、僕は興奮を抑えきれない。
なにせ、見ている何もかもが理解の範囲内で、理想の願望内だったのだ。ともすれば僕は、求めていた状況にようやく出くわせたのだとすら思える。出会いたいと懸想までしていた人物が、苛烈に輝いて目の前にいるんだ。これに心躍らないものは人間ではないだろう?
診断。
彼女は争いと殺害と事故と犠牲と失敗と挫折と屈折と、あとは軽い自傷を求めている。いや、求めているでは言葉が軽い。彼女が欲している全ては、ひとまずはこの世界の崩壊自体に等しいし、飢餓に近い意識で、それを手繰っているのだ。
『虚構世界の破壊』。
自己の意識と限界の突破こそが彼女の真意である。僕からすると、『英雄』の欲望としてそんなものでは甘いし温い。が、しかし彼女は『支配者』足りえる素養の欠片くらいは持っている、か。医師の資格を持つ者としての、僕の分析や現状判断ではまあ、彼女はそんなところである。とんでもないことであるが。
「呪術なんてこけおどしだし、実際に刃の付いたナイフのほうが危ない。君の認識なんか知らないから、とりあえずは話し合ってみないか?」
僕が努めて普通に言うと、彼女は笑った。それも極上に極悪に、だ。素晴らしい。僕は射精感を押さえるのに必死だった。
「話し合う? へえお前、この状況で話し合えるのかい?」
「問題ないさ。動揺や恐怖は呪術で消した。今の僕にあるのは、君に対する純粋な興味だ」
「へえ? ――へえへえ? 何だい、こけおどしでも役に立ってるじゃあないか」
僕はふんと鼻で笑って、わざと足元の死体を踏み付けて、高らかに彼女を歓迎した。祝福した。
「――なんでか、どうしてか、この僕よりも先に、僕の最も憎悪すべき人を殺してくれてありがとう。『朝霧目以火』」
「いやいや。へえ。――あたしの名前を知ってるんだね」
「生きた天災、意識ある災禍、物語の語り部にして殺し部。都市伝説的にはそんなところかい?」
「ううん、随分悪い噂ばっかり広まって困るねえ。あたしの殺した半分以上は不要人物だったのに」
つまらなそうに哂う彼女の言う、不要人物の一人――僕の最愛の妻に、不要になった長いナイフを放り投げて、僕は言葉も投げ捨てる。
「下らない虚構が壊れてくれる瞬間をずっと待っていたんだ。君の言うとおり、彼女こそ僕の人生に不要だ。このままじゃあ、人生が潤わない」
「勘違いするなよ。人生に不要なんじゃない、『物語』に不要なんだ。潤わないのは『物語』さ」
真っ赤なサングラスをくいっと上げてから、彼女――災禍『朝霧目以火』は、銜えた煙草に火を点けた。
「お前に興味がわいた。登場人物に加えてやるよ、馬鹿医者。名乗って見せろ」
「――国坂草詩」
淀まずに名乗れたことで、自身が沸く。意識に呪いを重ねて、強気になる『暗示』を、より強くする。
――呪術。魔法。
非現実を現実に手に入れて、あやふやに生きる医師。
『登場人物』としては個性ある存在の自身――『国坂草詩』を、示してやった。
「――へえ。やるじゃあないか、馬鹿医師」
「馬鹿医師じゃあない。国坂だ。国坂草詩だ」
「オーケー、クニサカ。名前は忘れない」
朝霧は煙草を投げ捨てて、ステップを踏むように僕の眼前に顔を突き出して、名乗った。
「『朝霧目以火』、本名は知らない。世界をことごとく『物語』にして生きる災厄、歩く災禍、不幸を築き渡る『語り部』で『殺し部』。こんなどうしようもない主人公に、お前はどう臨む?」
真紅の美女に、僕は白衣の袖を正して、ゆったりと答えた。
「僕は国坂。君を『治療』することによって『語り部』の座を奪い――君を救うものだ」
「――おもしろい。おもしろい。面白い愉快だ幸福だ愉悦だ喜悦だ幸福だ! こんな『物語』もあったのか!」
真紅の殺人鬼は笑い――僕は血まみれの靴を脱いだ。
意味のない物語に身を投げた実感は、まだ、ない。