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交錯ー2C 白い茨の少年たち

MLWサイドを少し。少年の外見は白くて長い髪に銀色の瞳、顔立ちは整っていてビョルン=アンドレセンみたいなベタベタな美少年だと良いなと思うんです。美形だらけというのもつまらんので、おっさんもいっぱい出てますが。

足元に乱雑に跳ね除けられたタオルケットを手にして、JDはしばし、立ち尽くしていた。

暗い色のサングラスのせいで表情は分からない。くわえて、普段から無口で仏頂面、ガタイの良い、黒人男性特有の表情を読めない感がJDにはある。

だが今、その彼が心底困っているのは、傍から見ても一目瞭然だった。

暫くそうやって、途方に暮れたように非常階段の踊り場で足元に転がる無防備な寝顔を見下ろしていたが、やがて、意を決したように彼は口を開く。

「………ボス。そんなところで寝ないで下さい」





彼のボスである少年は、どこでも所構わず眠る悪癖がある。

この地上27階の非常階段は特に彼のお気に入りの場所だったようで(日頃は誰もがエレベーターを使うせいで無人な事が多い)、久しぶりに足を踏み入れてみれば

25階から27階までの間には多々、少年が持ち込んだ『お気に入り』が転がっていた。


踊り場や階段の端、などといった、まだ整列されたものならよかった。

しかしそれは滅多に来ない利用者たちを嘲笑うかのように、段の真ん中、のぼり始め、至る所に無造作に置かれている。

大柄なJDでなくとも、それらを踏まないようここまで昇るのはとても骨が折れた。


どこかの国賓から送られた高カラットのダイヤモンド。

どこで拾ったのか、いくつもの気泡を閉じ込めたちいさなビー玉が3つ。

空になった炭酸水の瓶。(ラベルは剥がしてあった)

どこぞの首相から密に送られた毛皮のコード。

硝子製のオルゴォル。綺麗顔の、球体関節の人形。なぜか羽毛が散らばっているし、水晶のクラスターは透明度が高く、サングラスをしていれば床との区別が難しいほど。

統制のとれていないそれらを、少年は彼独自の理屈で、『好き』と『嫌い』を判別する。



少年には、人間が決めた『価値』が通用しないようだった。

自分が気に入らなければ、一億二億はくだらないほどの国宝でも、あっさりとゴミに出す。

そうかと思えば、先月行った発展途上国の下町で、子供が持っていた安物の鳥の人形をどうしても欲しいと言って、飲水と交換したりした。

そして、ネジを巻いた鳥を軍事施設の中で飛ばしては皆を唸らせたものだ。



要するに、価値を決めるのは彼の中にある、好きか嫌いかという気持ち。それだけなのだ。

そしてその彼は今、羽根布団を二枚重ねた上で体を丸め、静かな寝息を立てている。(羽根布団はどう見ても敷くものではなかったが、JDには文句を言う勇気は無かった)


「ボス。起きて下さい。事態がまた、動いたんです」


屈強な体つきのJDが、どう見ても成長期を抜け切らない華奢な少年に向かって必死に呼びかけている姿は滑稽だった。

しかしJDは至って真面目であったし、この光景を見ても笑うものは、この組織には居ない。


ふと、唐突に何の前触れもなく少年が、ゆっくりと、目を開いた。

砕いた星か水晶を散らしたような、銀色の瞳が顕になる。




「……JD」

ようやく目を覚ましてくれたことに安堵して、彼は報告を入れようとする。

しかし少年はそれを片手で制して、再び目を閉じた。


「パトリックが軍に捕まった。…そうだろ?」


目を閉じたまま、眠りに落ちるその寸前のまどろみのまま呟かれる言葉のように、緩慢に、少年は言う。

驚いてパトリックは目を瞬かせた。


「どうして、それを?」


しかしなぜそんな簡単なことに答えなければならないのか分からない、とでも言いたげに、少年は寝返りを打って気持ちよさそうに布団に腕を投げ出す。

長い白い髪が、幾筋かにわかれてその細い体に絡んでいた。


「さっき、夢で見た」

「………予知夢、ってやつですか」

「名前はないさ。ただ、俺にはそれが分かった、その事実があるだけだ」


そのまま枕を抱き込んだまま再び寝入ってしまおうとする、不思議な少年のペースにのまれつつあったJDは、我を取り戻し再び少年に向かって呼びかける。

「だからボス、寝ないで下さい。指示をもらわないことには、我々に動きようがありません」

「放っておけ」

どうでもいい事でいちいち騒ぐな、そう言いたげな声を返され、JDは再び途方に暮れた。










パトリック=セルロウは、JDよりだいぶ遅れて少年の取り巻きになった男の一人だった。

主に研究班として、時には情報処理の一端を任されていた男だったが、JDは個人的に彼のことが好きではなかった。

理由は至極単純で、価値観の相違ともいえるだろうか。

JDは非常に忠誠心の強い男だ。そして、仲間たちも。

つまり、自分たちとパトリックの決定的な違い、それは主であるこの少年のことを、仰いでいるかそうではないか。たったそれだけであり、しかしそれが何よりも重要なのだった。


JDは無論少年を尊敬していたと同時に、弟に抱くような愛情に似たものを感じていたし、他の仲間もそれなりに違う形で少年への優しい気持ちを抱いていた。

しかし、パトリックは、利害の一致だけでこの少年に取り入ったことをJDは知っている。

パトリックの父もまた少年の率いる集団―――MLWと呼ばれている―――に属していたが、彼とは面識がないためJDが彼の父の事までどうこう思うことはないが、パトリックの、人好きのする穏やかな笑顔の下に、利用価値として常に相手をはかるその眼差しがあることが嫌いだった。

恐らく、いや、確実に、少年もまたそれに気づかないほど愚鈍ではないのだが、それでも表面上JDや他の仲間たちと同じように、いやそれ以上に、パトリックを重んじていた。

口にも態度にも一切出さなかったが、内心、JDはそれが面白くなかったのだ。


そのパトリックが少年を裏切り、逃走の果てに軍に引っ張られたというのに少年は、どうでもいい玩具がひとつ無くなっただけのように、彼を放っておけという。


「お前たちはな、いちいちアツくなりすぎなんだよ」

言って、少年は欠伸をひとつ。

「若いな」


どう見ても自分より6、7歳年下の姿をした少年にそう言われ、どう反応していいか分からず黙っていると、少年は声をあげて笑った。

「お前は本当に表情も口数も少ないな。それはお前の美徳かな」

少なくとも俺は好きだ、お前のそういうところが。

「………ありがとうございます」

すっかり目が覚めた、とつぶやいて少年は気だるげに腕を伸ばす。起こせ、ということなのだろうとすぐに解釈してJDは片手で両手ぶん収まるような華奢な手を握って、少年を引き起こした。

「大きな手だな…」

感心したように少年は言う。

それから、自分の手とJDの手のひらをしげしげと見つめる。

その仕草は幼く、ともすれば仲間のひとり、12歳のナイトレイより子供じみているかもしれない。

「これだけ大きな手なら、いろんなものを護れるんだろうな、お前は」

なんとはなしに呟かれた言葉に、JDはすこし切なくなって、少年に掴まれていた手を彼の額にあてて髪を後ろに優しくなでつけた。

そうすると、光を放っていたかのような眩しい銀髪から、少年の大きな銀色の瞳が、眩しげに瞬きを繰り返す。白い睫毛に覆われた目は、色彩が薄く、光にもやはり弱いのだろうか。


成長期。


一言でいえば、少年はいま、そういう時期にあるはずだ、

だが、気づいていた。出会った数年前から、少年は成長していない。ひょっとしたら、出会う前からそうなのかもしれない。

JDが彼と出会ったのは治安の悪い黒人街のストリートで。体だけ大柄で、バスケが好きで、けれどどうしようもなく貧しくて。

なんでもやった。盗むことも、相手を殺しかけたことも、何度も。生きていく術を、他に知らなかった。"シロ"の奴らはみんな腐ってやがる、そう思っていた。

だから最初ははねのけたのだ。少年の手を。

ヘマをして、かなりの重症を負ってしまい、追われるままに裏道で力つきたとき、それが、少年との初めての出会いだった。

天使というやつなのかとも思った。

けれど、情けをかけられるのは許せなくて、少年の手を彼ははねのけた。

あっさりするほど少年はか弱く、JDの身に着けていたストリートで流行の(盗んだ)アクセサリーが少年の腕に傷をつけた。

それで、どうしたらいいのか慌てたのだ。"シロ"はみんな敵だ。でも、こいつは…

そう思案しているうちに、少年が、ふふ、とJDに笑いかけたのだ。血だらけの腕で。


『手間が省けた。返り血だけでも十分だろ。生きたきゃ舐めろ、どんな事をしてでも生きたきゃ俺についてこい。黒人も白人も関係ない。俺たちを、蔑んだ奴らには、後悔すらも惜しい。復讐してでも生きる強さがお前の中にあるのなら、俺についてこい』


一字一句、今でも思い出せる。

13歳の自分と、外見にして、16歳程度の白人少年。

夢に浮かされたようにその手を取ってからは、これまでの生活が一変した。まるで変わった。

変わらないのは―――少年の肉体のみ。


医学の知識どころか、簡単な数のたし引きだけで精一杯なJDの頭では、それが病気であるのか、それとも全く別のなにかであるのか、想像すらつかない。ただひとつ言えるのは、あの日少年の血を舐めたことで、致命傷ともいえるほどの傷が、癒された事。

それでも、少年は………ふとした拍子に見せる、寂しげな表情、その理由を語ってはくれない。

しかし、少年がまるで、決して手の届くことのない月を欲しがる子供のように、自分の大きい手を愛していることを知っていた。


「俺は、あなたを護るだけで精一杯ですから」

華奢な少年の顔など、JDの片手のひらですべて隠れてしまうほど。その気になれば、片手で首をへし折れるほど。

自身の額から頬を撫でる黒い手をちらり、と見て、少年は意地悪く笑った。

「それは、俺が人一倍手がかかるって言いたいのか?」

この少年らしい可愛げのない言い分に、JDも小さく笑った。



無愛想なJDが笑顔を浮かべるのは、この自分といるときだということを、少年はよく理解している。それがJDには嬉しかった。


彼が何者でも構わない。

ずっと成長しない体。時には死者を蘇生させ、時には一瞬で命を奪い、また、時には人一人を過去に飛ばし現在を改変させるほどの力の持ち主。

現代科学で説明のつかない事だらけの彼の主は、いつまでもJDの大きな手と、自分の白く華奢な手の大きさを比べて無邪気に笑っていた。

こっちと混ぜ混ぜしながら続いていきます。JDの身長は…220センチくらいあってもいいかな…筋肉質で、流行りのパーカーに金色のじゃらじゃらしたアクセをいっぱいつけている感じ。ベタな設定が好きでごめんなさい。

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