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「違う……違うんです……!」
咄嗟に声が出た。
自分でも驚くほど強い口調だった。
心臓はまだざわついている。
胸の奥で、無意識に探してしまったことを否定したい。
必死に理屈を探す。
「探してなど……ない、ただの偶然です……!」
だが言い終わった瞬間、目の前にいる彼の顔を見て、言葉が止まる。
冷静そのものの瞳が、自分をじっと見つめている。
何も言わずとも、全てを見透かされているような錯覚に陥る。
「……何も隠せていないな」
低く落ちる声。
確信に満ちている。
その響きが、心の奥をさらに乱す。
「違う……私は……」
小さく首を振る。
体も、心も、あの視線に反応してしまう自分に苛立つ。
「私が、あなたのことを……意識しているわけがない!」
理性で必死に否定する。
だが、胸のざわめきは止まらない。
否定すればするほど、自分の心が揺れていることを認めてしまう。
「……本当に偶然なんです……! 何も考えていません……!」
声が少し震える。
頬まで熱を帯びていることに気づき、さらに慌てる。
アークレインは微動だにせず、静かに彼女を見つめていた。
揺さぶられまいと必死に理性を保つ令嬢。
だが無意識の行動は、全て正直に物語っている。
「……逃げようとしても無駄だ」
その低い声に、体が少し硬直する。
必死に否定したいのに、胸の奥で違う感情が芽生えていることを、自分で無視できない。
「……っ……」
言葉が出ない。
呼吸だけが速くなる。
必死に否定すればするほど、揺れている自分が際立つ。
彼女はまだ認めない。
まだ、好意ではない。
ただ……心の奥で、確実に何かが変わり始めていることだけは、認めざるを得なかった。




