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君は例外だ。
その一言が、思考から離れなかった。
視線を落としても。
本を開いても。
文字が頭に入らない。
あり得ない。
たったあれだけの会話で動揺するなど。
(私は……何を……)
自分自身への苛立ち。
だが、胸のざわめきは消えない。
「顔色が悪いな」
不意に落ちる声。
すぐ隣。
逃げ場のない距離。
「問題ありません」
即答する。
いつもの完璧な声音で。
少なくとも、そう装った。
「嘘だな」
間髪入れず返される。
視線が向けられているのが分かる。
見なくても分かる。
それが余計に落ち着かない。
「……なぜそう思われるのです」
「君が俺を見ないからだ」
心臓が跳ねた。
予想外の指摘。
「普段の君なら、もっと冷静に言い返す」
「……気のせいです」
「違うな」
また即答。
迷いがない。
「意識している顔だ」
その言葉が、妙に熱を帯びて聞こえた。
「……意識など……」
否定しようとして、言葉が鈍る。
完全には言い切れない。
それが自分でも信じられなかった。
アークレインが静かにこちらを覗き込む。
強制的に視線が絡む。
「自覚がないのか」
低い声。
逃げ場のない距離。
「君は分かりやすい」
「……っ……」
否定したい。
だが。
何を否定すべきなのか、自分でも曖昧だった。
「私は、ただ……」
言葉を探す。
理屈を。
整合性を。
だが。
見つからない。
「ただ、何だ」
静かな追撃。
責めるでもなく。
急かすでもなく。
ただ確実に核心へ踏み込んでくる。
「……落ち着かないだけです」
ようやく出た本音。
ほとんど無意識。
言った瞬間、しまったと思った。
だがもう遅い。
「ほらな」
わずかに細められる瞳。
「それを意識と言う」
違う、と言い返したかった。
だが。
胸の奥がざわつく。
言葉が出ない。
「君は今」
淡々とした声が続く。
「俺の言葉に振り回されている」
否定できない。
事実だった。
それが何より癪で。
何より混乱を深める。
「なぜ……」
小さく零れる声。
自分でも驚くほど弱い音。
「なぜ、あなたは……」
うまく言葉にならない。
だが。
アークレインは迷わなかった。
「決まっている」
視線が絡む。
揺るがぬ瞳。
「君だからだ」
再び、その言葉。
同じはずなのに。
今度は、違う響きで胸に落ちた。
理屈ではない。
説明でもない。
ただ真っ直ぐな断定。
それが。
どうしようもなく、心を乱した。




