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「……完璧令嬢は、攻略対象外のはずでしたのに」


誰かがそう零したのは、学院の談話室だった。


視線の先。


レティシア・フォルン。


非の打ち所がない令嬢。


誰もが憧れ、誰もが距離を取る存在。


高嶺の花。


絶対不可侵。


――のはずだった。



「レティシア」


低く甘い声。


完璧な距離感を無視して隣に座る男。


アークレイン・ヴァルハルト。


王都最強。


理性の塊。


女嫌いで有名。


――のはずだった。



「なんでしょう、ヴァルハルト様」


淑やかな笑み。


だが視線はやや警戒気味。


この男だけは例外だと理解している顔。



「なぜ避ける」


「避けておりません」


「嘘だな」


即断。


一切の迷いなし。



「今、半歩下がった」


「細かすぎません……?」



談話室の空気がざわめく。


周囲の令嬢たちが固まる。


男子生徒が遠巻きに眺める。


完全に名物光景と化していた。



「君は俺を警戒しすぎだ」


「当然です」


即答したのはレティシアの方だった。


珍しく。


かなり珍しく。



「なぜ」


「なぜ、ではありません」


静かな抗議。


だが内容は重い。



「距離感がおかしいのです」



沈黙。


次の瞬間。


アークレインが真顔になる。


妙に真剣な顔。



「好意を抱いた相手との距離など」


「詰めるに決まっているだろう」



「決まりません」


「決まる」



完全な平行線。


周囲の人間が静かに引いていく。



「そもそも」


レティシアがため息をつく。


だがその頬はわずかに赤い。



「私は攻略対象ではないはずです」


「誰が決めた」



「え?」


「そんな設定、俺は聞いていない」



さらりと言い放つ。


王都最強の理不尽。



「対象外だろうが何だろうが関係ない」


視線が絡む。


逃げ場のない瞳。



「欲しいと思った時点で終わりだ」



談話室が完全に凍りついた。


令嬢たち絶句。


男子生徒沈黙。



レティシアだけが言葉を失う。


鼓動だけがうるさい。



「……横暴すぎます……」


かすれる声。


だが拒絶の響きは弱い。



「今さらだな」


わずかに笑うアークレイン。


危険なほど自然な笑み。



「君はもう十分巻き込まれている」


距離が縮む。


いつの間にか。


本当にいつの間にか。



「逃げられると思うな」



完璧令嬢は理解し始めていた。


攻略対象外など関係ない。


この男にはルールが通用しないと。



そして周囲も理解していた。



「あれはもう時間の問題だ」


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