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アークレインが、わずかに距離を詰めようとした瞬間――
「おはよう、アークレイン。」
教室の扉が静かに開き、王太子が颯爽と現れる。
背筋は真っ直ぐ、歩くたびに軽やかなリズムが生まれ、笑顔は自然で親しみやすい。
「今日はどうだ、調子は?」
王太子はアークレインに問いかけ、自然な笑みを浮かべる。
アークレインは軽く肩をすくめ、低く「順調だ」と返すだけ。
二人の間の距離は親しげで、だが微妙に焦れをくすぐる。
王太子はアークレインの肩に軽く手を置き、にこやかに言う。
「少し外で話できるか。君に頼みたいことがあって」
アークレインは一瞬レティシアに視線を向ける。
その短い交差だけで、胸の奥の熱がじわりと高まる。
視線がこちらに残っているのを感じ、理性では押さえられない焦れが、胸に静かに広がる。
「……っ……」
レティシアは息を呑み、手を机に押し付けて微かに前傾する。
距離を詰めたかったのに、王太子の軽やかな介入によって、その衝動は中断されてしまった。
二人は教室を出て行く。
王太子の明るい声が廊下に響き、アークレインも短く返事をして歩き去る。
その背中だけが、レティシアの視界に残る。
(……っ……まだ……私の心……動いてるのに……)
静かになった教室の中で、胸の奥の焦れと期待だけが、ひっそりと膨らむ。
理性では落ち着こうとしても、心は無意識に、さっきの視線の交差を反芻していた。
レティシアは唇を噛み、微かに手を握り直す。
距離を詰められなかった苛立ちと、視線だけで揺さぶられた胸の熱――
それらが混ざり合い、次にどう動くべきかを、心の奥でじっと考えさせる。
教室に残された静寂は、焦れと期待で満ちていた。
アークレインと王太子が去ったあとも、その余韻がレティシアの心に深く残り、まだ行動を求めさせていた。




