12
教室の窓から差し込む朝日が、机の上に柔らかく光を落とす。
レティシアは胸の奥でざわめく感情を押さえつつ、視線を微かに教室の入り口へ向けていた。
扉が静かに開き、彼――アークレイン――が入ってくる。
背筋を伸ばし、軽く周囲に挨拶を交わしながら歩く姿。
無意識に心が反応する。胸が高鳴り、手が机に触れる感覚にさえ神経が研ぎ澄まされる。
(……っ……やっぱり……)
レティシアの視線は自然と、彼の背中に向かう。
だがその瞬間、彼の視線が自分の方にふと滑った。
目が合う。ほんの一瞬、ほんのわずかの間――だが確かに、心の奥まで突き刺さるような感覚。
「……おはよう、レティシア」
低く、静かな声。
言葉だけではない。視線の奥に、何か小さな気配が混じる。
それがレティシアの心の焦れや、昨日自覚した微かな嫉妬を、ほんの少し見抜いたかのような――そんな気がした。
思わず息を呑み、頬が微かに熱を帯びる。
完璧であるべき自分が、心の奥で揺れていることを知られてしまったのでは――という焦れ。
だが、理性はすぐに笑みを作らせる。
「おはようございます、アークレイン様」
声を落ち着かせ、平静を装う。
それでも、胸の奥の熱は消えない。
視線を逸らすこともできず、自然と彼の姿を追う自分。
アークレインもまた、微かにこちらを意識しているのか――視線の端で、その気配を感じる。
(……まだ……何も言わない……でも……っ)
心の奥で、焦れがさらに膨らむ。
視線を交わすたびに、胸の熱はじわりと広がり、行動を求める衝動が増していく。
ふと、アークレインが小さく口角を上げ、視線をゆっくりとレティシアの目に向ける。
軽く「ふーん」とだけ、低く呟くような声を漏らす。
まるで、心の奥の微妙な揺れを確認するかのように。
「……っ……」
思わず息を飲み、胸が跳ねる。
自分の心を見透かされたような感覚に、理性と胸の熱がせめぎ合う。
アークレインの瞳は鋭く、だが静か。
表情はあくまで軽く流しているだけ――それなのに、心の奥で何かを探る目の奥行きが、レティシアを焦れさせる。
(……っ……見られている……っ……でも、気づかれてはいない……っ)
微かに笑みを浮かべ、視線を逸らす。
だが、胸の奥の熱は増すばかり。
アークレインの「ふーん」という一言、そして心探る視線が、知らず知らずに自分を揺さぶっている。
まだ言葉には出さない。
けれど、彼の探るような目と微かな反応だけで、心はじわじわと行動を求め始めていた。
レティシアの理性は必死に叫ぶ。
“落ち着け、侯爵令嬢として振る舞え”
だが、胸の熱と焦れは抑えられない。
視線の端で彼を追うだけでも、鼓動は早まり、手のひらが微かに震える。
そして、思わず小さな行動が出る。
席をほんのわずか前にずらす。
体の向きを微かに彼の方に傾ける。
それだけのことなのに、心は胸の奥で熱く弾け、焦れがじわじわと全身に広がる。
(……っ……見て、ほしい……っ……! でも……まだ……)
唇を噛み、視線は逸らす。
それでも、身体は自然に彼の存在を追う。
机に置いた手が、わずかに指を動かし、心の焦れを行動に変えようとしている。
アークレインは相変わらず静かにこちらを観察しているだけだ。
だが、微かに近づいたその体勢だけで、レティシアは自分の心が確かに動いたことを実感した。
焦れ、行動への衝動――
すべてが絡み合い、朝の教室の静けさの中で、彼の存在に反応している自分を止められなかった。




