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授業が終わり、談話室で一人になった瞬間、レティシアは胸の奥のざわめきに気づいた。
無意識に、彼のことを意識してしまっていた。
廊下での視線、さりげない言葉、距離感の微妙な調整――思い返すと、すべてが頭から離れない。
「……これは、どういうことなのかしら」
自分の声に、思わず眉をひそめる。
侯爵令嬢たる者、感情の揺れは理性で統制する。
感情に流されるなど、許されるはずがない。
だが、胸の奥のざわめきは、理性では制御できなかった。
無意識に心が動いてしまった自分を認めざるを得ない。
「……っ……」
小さく息をつく。
呼吸を整え、心を落ち着けようとする。
だが、理性で抑えようとすればするほど、心は逆に浮き立つ。
まるで、自分の意思を先に奪われてしまったようだった。
「……考えすぎかしら」
完璧な笑みを作って鏡に向かう。
いつもの落ち着いた顔、誰もが認める冷静な令嬢の顔。
だが、目だけはごまかせない。
微かに熱を帯び、心が揺れていることを映していた。
「……いや、違う」
小さく呟き、唇を噛む。
逃げようとしても、理性で抑えようとしても、無意識に心は彼のほうを向いていた。
自分の思考ではなく、心が先に動いてしまった。
「……これは……好意、では……まだ……」
理性が瞬時に否定する。
だが、心は静かに確信していた。
意識していないはずの自分が、無意識に彼を探していることを。
その事実だけは、否定できない。
「……でも、私は……侯爵令嬢として……」
自分に言い聞かせる。
感情に流されず、常に冷静で、誰からも認められる存在であるべきだと。
それでも、心は静かに、しかし確実に、動いていた。
「……どうして、こんなにも……」
瞳に映る自分の姿を見つめる。
冷静で、完璧であるはずの自分が、知らぬ間に心を揺さぶられている。
その事実が、悔しいほどに心地よくもあった。
「……いや、違う……まだ……まだ……」
繰り返すことで理性を保とうとする。
だが、もう隠せない。
自分の心は、確実に彼を意識して動いているのだと、初めて自覚してしまった。




