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翌日。

授業の合間、レティシアはふと気づいた。

自分でも信じられない行動をしていたことに。


曲がり角を曲がると、無意識にあの男のいる方向をちらりと確認していた。

その瞬間、心臓が跳ねる。

違う、偶然だ、ただの視界の範囲だ、と必死に自分に言い聞かせる。


だが、視線は確かに追っていた。

反射的に、無意識に。

逃げるように慌てて視線を逸らす自分に、顔が熱くなる。


「……何をしているの、私は……」


小声で呟き、鞄をぎゅっと握る。

足も自然と早まる。

無意識の行動を必死で抑えようとしているのに、逆に目立ってしまう。


廊下の向こうに、アークレインが立っている。

無表情のまま、静かにこちらを見ている。

偶然? いや、絶対に気づかれている。

思わず体が硬直し、心臓の音が耳まで響く。


「……っ……」


息を整えようとしても無理だった。

理性で否定しても、体が正直に反応している。

視線が合うと、自然に目をそらしてしまう。

それなのに、彼は微動だにせず、ただ見ている。


「また見ていたな」


低く落ちる声に、思わず足が止まる。

必死で否定しようとするけれど、言葉は出ない。

顔だけは熱を帯び、心はざわつき続けている。


「……私は、別に……っ……意識しているわけじゃ……」


言いかけて、自分の声の弱さに気づき、さらに慌てる。

心の中では必死に否定している。

だが無意識の行動が、否定できない真実を物語っていた。


アークレインはわずかに眉を動かすだけで、何も言わない。

それが余計に焦りを生む。

言葉にしなくても、彼はすべてを理解している気がする。


「……あぁ……やっぱり……」


小さく息を吐く。

自分でも認めたくないけれど、確かに揺れている。

好意とはまだ言えない。

ただ、無意識に反応してしまう自分がいる。


胸の奥で、何かが確実に動き始めていることを、否応なく実感した。



アークレインは一歩近づく。

距離はほんの僅かだが、明らかに心理的圧力が増す。

「無意識だな」とだけ言う。

ただそれだけで、心はざわつき、思考がぐらつく。


「……っ……」


レティシアはわずかに後ずさる。

しかし足は完全に止まってしまう。

胸の奥が熱く、理性が言うことを聞かない。

彼が何を考えているのか、次の動きをどうするのか、すべてを読まれている気がする。


「自分の心を隠すつもりか?」


低く響く声。

問いかけるわけでも、命令するわけでもない。

ただ指摘されただけで、心の奥に沈んでいた感情が浮かび上がる。


「……っ……」


小さく息を吐き、胸の奥を見つめる。

揺れている。

いや、否定できない。

無意識に彼を意識してしまっている自分がいる。


「……私は……」


やっと、自覚しかけた言葉。

好意ではまだない。

だが、無意識に行動が先に出る自分を理解した瞬間、心は確実に動いていた。


彼の揺さぶりは、静かで、余計な力を使わず、でも確実に自分を動かしていた。

そして、その心理を理解した瞬間、レティシアは初めて、自分の心が完全には理性で支配されていないことに気づく。


胸の奥に、ほんのわずかな、けれど確かな自覚の光が差し込む。

好意という言葉にはまだ遠い。

だが、無意識に揺れる自分の心を認めることはできた。


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