事故現場
僕とマリーは、ハッチの扉を開けて事故現場の部屋に入り込んだ。
部屋の中の電源は全て死んでおり、本来真っ暗なはずだが、宇宙服のヘルメットの額部分にあるサーチライトの光線が僕たちの分も含め4本、暗闇の中を踊っていた。
先客がいる様だ。
先に来ていたのは、宇宙船製造メーカーの二人だった。
たしか、名前は「カトウ」と「ジョン」というエンジニアだ。
日ごろあまり話をしない相手だったので先回りされたことがなんとなく面白くなかった。
「あなたたち早かったわね。許可はちゃんと取ったの?」
マリーがちょっと強い口調で言った。僕と同じように思っているらしい。
「ああ、私らは技術者だからね。早く現場を見たかったんだよ。もちろん許可は取ってある」
二人のうち上司らしいカトウが言った。
「そう、で、どうなの。何か判った?」
マリーはもう気持ちを切り替えたらしく、部屋の中を見渡しながら聞いた。
「いや、特に目新しいものはないようだ。助けられなかった人の装置が残っているだけで何も無い。報告書に書いてあったとおりのようだね」
カトウもマリーの動きにつられた様に、部屋の中を見渡しながら答えた。
50個のコールドスリープ装置が設置してあった約10m四方の部屋は、救済できなかった5台のひしゃげた装置以外は何も無く、ガランとしていた。
「残留物質の成分確認もやったの?」
マリーは、カトウが持っている携帯電話を少し大きくしたような装置を見て言った。
「ああ、報告書どおり、『ゼリウム132』が検出された。ご存知のとおりPアステロイドベルトに多く含まれる特殊物質だ」
Pアステロイドベルトとは、事故が発生した付近にある小惑星帯のことで、最大でも数十センチ位の細かい岩石が帯状に散らばっているところで、そこから迷い出た岩石が度々宇宙船の事故の原因になっている。
マリーは、持ってきた銀色のアタッシェケースを部屋の中央に置いて蓋を開けた。
ケースの中にはノート型のパソコンのような装置が入っていた。マリーは装置に電源を入れて操作し始めた。
すると、ケースの隅からアンテナのような棒状のものがスルスルと登りだし、天井近くまで伸びて止まった。アンテナの先端にはゴルフボール程の黒い玉がついている。
「それは?」
カトウは、マリーが操作している装置のディスプレイを見ながら聞いた。
「これは、まだ試作機なんだけど、最新型の物質成分調査機よ。今の成分調査機は、あなたが持ってる『GX120』が一般的だけど、それだと装置を向けた箇所の成分しか分析できないわよね。この装置はその点を改良して広範囲を一気に調べられるようにしたのよ」
マリーはそう言うとスタートキーを押したらしく、アンテナの先に付いた黒いボールが黄色にひかりはじめ、一瞬強い閃光のような輝きを発したかと思うと、次の瞬間には黒いボールに戻っていた。




