事故調査委員マリー
そして、僕は今、こうして中古旅客船「マゼラン」に乗船し、宇宙船体管理の勉強の一環として、船体設計図を片手に客室に来ている訳である。
地球を出発してから半年が過ぎた。
僕は毎日のように船体図を参考に船内を回り、「マゼラン」の構造から部品の形まで、見えるものはもうほとんど覚えてしまった。
今は、電子システム装置の勉強をしており、客室にあるサーバーの設定内容を確認しに来た。
客室はこの船の中で一番広い空間をとっている。席数は70。元々120席セットできるスペースだが、今回の乗客は約50名、しかも2年間過ごすということで大きめのスーパーシートに交換し、仕切りをして個室化しているため、レンタルルームのような雰囲気になっている。
通路には小さな窓があり宇宙空間が見える。
星の数がすごい。
地球上では大気の層があるので天気によって星の見える数は限られるが、宇宙空間では遮るものがないので本当にたくさんの星が見える。
宇宙とは意外と明るいものだ。全体的に青っぽく見えるのは亜光速で飛行しているためらしいが、詳しいところはよく判らない。
「どう?勉強は進んでる?」
窓の外の星々をぼーっと見ていた僕に話し掛けたのは、連邦政府から派遣された事故調査委員マリーだった。年の頃は35歳くらいか、さっぱりした性格であまりお役人という感じはしない女性だ。
「はい、出港してからもう半年にもなるんで、見えるところは、ボルトの一本一本まで覚えちゃいました。そろそろキャプテンに言って、操船の方も教えてもらおうかと思ってます」
「そっか、もう半年にもなるんだ。宇宙にいると季節がないから、時間の経過がわからなくなっちゃうわね」
宇宙船の中では、出発した宇宙港の地球時間に合わせ、昼と夜を人工的に作って明るくしたり暗くしたりしているが、季節の移り変わりまでは計算に入れていない。
「マリーさんの方はどうですか」
マリーの仕事は、事故を起こした移民船の事故原因の究明と、再発防止に向けた対処策を検討し連邦政府に報告することだ。
「そうね、出港前に届いた報告書が最新の事故状況だから、もう半年間も情報がないのよ。手持ちの資料のデータ分析はとっくに終わっちゃってるし、事故原因の分析も何も到着してみなくちゃ始まらないってとこね」
僕達が向かっている事故船は「ブルードリーム」という名前の移民船だ。
青い空間の先の夢とでも思って名づけたのかもしれない。事故にはあったものの、「ブルードリーム」は、夢の星「ガイア」に向かってまだ飛び続けている。
移民船「ブルードリーム」は、全長約2000m、収容人員数5000人、の大型船だ。
5000人といっても、大半はコールドスリープで眠っており、操船は乗組員数人が交代でコールドスリープから覚醒し行うことになっている。




