プロローグ
窓の外には無限に続く漆黒の宇宙空間が広がっている。
今、僕が乗っている中古旅客船「マゼラン」は、最近載せ換えた最新型のプラズマイオンエンジンのおかげで光の速度近くまでスピードを上げている。
このエンジンは、従来のイオンエンジンよりも出力が100倍近く出せるタイプで、若干年季の入った旅客船「マゼラン」に最新型に引けを取らない性能を与えてくれる優れものだ。
船の名前は、建造したときのオーナーが、好きな天体のひとつであるマゼラン星雲から取って付けたものらしいが、西暦2285年の現在でも、マゼラン星雲に行けるほどの船はまだできていない。
もともとこの「マゼラン」は、太陽系内を行き来する中型の旅客船として5年ほど活躍した船体だ。
デザイン的には一世代前のスタイルだが性能的には全く問題がない。それどころかエンジンは新型の強力タイプに乗せ換えてあるし、各所手入れが行き届いていて、最新型の新造船にも引けをとらないほどである。
もっともエンジン乗せ換えは金銭的にかなりかかったらしく、その借金を早く返済しようと、キャプテンはどんな仕事でも引き受けてくる。
今回も他の業者が二の足を踏んで誰もやろうとしない仕事だったが、そんな理由があったればこそ引き受けてきてしまったそうだ。
今回の仕事というのは、簡単に言えば事故が発生した大型船から約50人の乗員を引き取って地球へ連れて帰るというものだ。
内容的にはそんなに難しくない仕事だが、その事故を起こした大型船の位置が問題だった。
地球から約1光年、つまり約27億キロメートル離れた太陽系外の宇宙空間なのだ。
今から150年前の西暦2135年、地球から15光年程離れたある恒星系にひとつの惑星が発見された。
「ガイア」と名づけられたその惑星は、調べれば調べるほど、地球に酷似した自然環境を持っていた。
惑星の大きさから平均気温、自転や公転時間、大気の成分や水の量、さらには発生している動植物など、ちょうど人類が誕生する直前の50万年前位の地球の環境に瓜二つだった。
さらに詳しい調査をするために、調査団が編成され、数十人の科学者達が決死の覚悟で「ガイア」に向かって飛び立っていった。一言で調査団と言っても並大抵の覚悟ではなかった。
その頃は、まだ太陽系内での宇宙旅行も一般的ではない時代で、飛行速度が遅く光の速さなど夢のまた夢。計算上、15光年の距離とは、一生かけても間に合わない距離だったのだ。
実際、調査団が地球に帰還したのは、出発してから80年後、帰り着いたのは出発した調査団の子供達だった。実に2世代に渡って偉業を成し遂げたその80年の旅程中には、トラブルや感動など実にさまざまな出来事があり乗組員が綴った旅行記は一大ベストセラーとなった程、無謀な旅だった。
だが、その調査団の命をかけた冒険旅行が持ち帰った結果は、まさに地球の運命を左右する重大な事実だった。
「移住可能惑星」。
西暦2000年前後から叫ばれ続けてきた自然環境保護が、結局経済至上主義の掌から逃れることができず、環境破壊は着々と人類と地球を蝕み続け、「ガイア」が発見された当時は、自然破壊が限界まで進み、人類の存亡が危ぶまれていた。
しかし、工業文明の便利さに浸りきった人類は、不便さを許容しなければならない自然との共存生活に移行できるほど賢い生物ではなかった。
もちろん若干の環境保護活動は続けられていたが、環境破壊により絶滅する動植物は後を絶たず、気候も大きく変わり乾燥地帯が広がっていた。
かつては緑豊かで数千万人が暮らしていた大都市が、気候変動により生物が住めなくなり放棄され砂漠に飲み込まれた例は、ひとつふたつではない。
一部の有識者の間では、人口を半分以上減らせなければあと10年で人類は滅亡すると言われるほどだった。
そんな時代に、「移住可能惑星発見」のニュースが全世界を駆け巡った。
当然、人類の種としての存続をかけた移民計画が持ち上がり、移民船の建造が急ピッチで始まった。
だが、問題は山ほどあった。
一番大きな問題は、飛行時間だった。
SF小説に出てくるような、ワープやハイパードライブなどの新技術はまだ開発されていない。西暦2285年の今でこそ光に近いスピードが出せるエンジンが開発されたが、100年近く昔の技術では調査団が命がけで往復80年かけた宇宙船に毛の生えたようなものしかなく、さらに大規模な移民船をもっと速く移動させる技術は夢のまた夢だった




