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扇谷上杉

前書き

読者の方々は、扇谷上杉朝定おうぎがやつうえすぎともさだという人物をご存じだろうか。


この人物は戦国時代を生きた扇谷上杉家の事実上最後の当主であり、


生涯小田原北条氏と争い続けた人生であった。


そんな彼の生涯を、この小説で知ってもらえたらあとてもうれしい。


とても記録が少ないので、創作が多めだが楽しんでもらえるといい。


1525年。朝定はこの世に生を受けた。


父は現扇谷上杉家当主である、扇谷上杉朝興だった。


父朝興は、北条氏綱に追われる日々を過ごしていた。相模の一部まで及んでいた支配下は徐々に北条氏に削られていき、ついには武蔵の国半国というところまで来てしまっていたのだ。


そんな中、朝定が生まれる少し前1525年の夏に扇谷上杉氏はびっくりすることに北条氏を打ち負かした。その戦いを「白子原の戦い」という。


この戦いの結果北条勢は大きな犠牲を払った。


これは、まさしく扇谷上杉氏をもとの栄華にもどせるチャンスにあった。


この大勝利の半年後、先ほども言ったように朝定は生まれた。


まだ白子原の戦いの勝利の熱気が残っているときに。


「おぉ、よくやった!これはまさしく天が我らの勝利をたたえ授けてくれたに違いない。」


父の朝興は大いに喜んだ。わかりやすく館の廊下でスキップをしていたりしていたほどだ。


「この子はきっと、滅亡の危機にさらされている我が家をかつての栄華に戻してくれるに違いない。」


このように大喜びであった。朝興は生まれた赤子に五郎という幼名を授けた。


朝定という名前なのに五郎という幼名があるのを不思議だと思う人もいるだろう。


この時代の人々は元服(現在の成人式)を行うまで幼名といい「五郎」や「伊豆千代丸」といったような名前で生活していたのだ。 例えば織田信長も幼い頃は「吉法師」と呼ばれていたが、元服をしてから「信長」と名乗るようになった。 「五郎」や「伊豆千代丸」も元服をしてからは「朝定」や「氏康」といったなじみのある名前に変わるのである。




「とっ殿!!大変でございます!!北条軍が…小田原殿が…岩付城が!!岩付城が…!!」


家臣は慌てた様子で館に駆け込んできた。白子原の戦い後、北条氏は体勢を立て直すためなのかわからないが、軍事行動を控えていた。だから小競り合い程度の合戦しか起きていない。


家臣が慌てた様子で館に駆け込んできても、あまり驚きはしなかった。


だが、小田原殿という言葉と、岩付城という単語を聞いたのだからさすがの朝興でも驚かずにはいられなかった。だが、まだ落ちたとも囲まれたとも家臣は言っていない。慌てすぎていて言葉を整理できていないのだ。


「焦るとわからんであろう、一旦落ち着くのだ。」


朝興は慌てている家臣を一旦落ち着かせ再度説明を要求した。


最初はどんだけヤバいのだろうかとあれやこれやと想像していた朝興だが、聞いているうちにあまりヤバくはないのではないかということだけが脳内に残った。


「(それならわしが軍を率いて岩付城を守りに行く必要はないのか?いや…あのさんざんわしらの領地を奪った北条の負けて悔しがる顔を拝むためにも…ここは自ら軍を率いていくとするか、)」


そう考える朝興の顔には喜びがあふれていた。


「まぁ今回もわしが軍を率いて岩付城を守り抜いて見せようぞ。北条の白子原での負けっぷりを思い出すがよい!勢いに乗っている我らに今回は赤子の手をひねるように簡単だとは思わないか?」


そう言って朝興は自信満々で戦支度を始めた。


朝興は「あの岩付城だ。そう簡単には落ちるまい。」そう楽観視していたのでそこまで準備を急がなかった。




〈岩付城〉


「…御屋形様はまだなのか…。あんなに大軍で囲まれてしまえば、いくらこの城とはいえ長くはもたぬぞ…。」


岩付城城主、太田資頼は頭を抱えていた。


主である朝興が援軍に来てくれるということは信じて疑いはせぬものの、白子原の戦い以降北条をなめ切っている朝興が急いで援軍に駆けつけてきてくれるのかということに疑問を抱いているからだ。


そして、資頼にはもう一つ不安があった。それを隣にいた資頼の家臣、渋江三郎に言った。


「渋江殿。わしは少々不安なのじゃ。調略をしようとするものが頻繁に出入りしていたり、文が届いていたりするのだ。それに家臣たちが応じていなければいいのだが…」


資頼の言葉を聞いた渋江は少し顔をうつむけて黙った。


場内では切り合いが頻繫に起きた。


「おぬし、北条に内通しているであろう!」「そちこそ文を大事そうに懐にしまって居るではないか」


そういって同じ城を守る仲間同士なのに互いを疑い切り合って戦力を失っているのだ。


「資頼様…私は…」


渋江は顔をあげ資頼に何かを伝えようとした。だが不思議そうに振り返る資頼の顔を見た途端黙ってしまった。そんな渋江を資頼は笑い肩を抱いた。


「わっはっは!!…わしはそなたを疑ってはおらぬぞ!だから心配せぬでよいっ!共に戦い殿の援軍まで持ちこたえようではないか!そなたの働き、期待しておるぞ」


大軍に囲まれた岩付城には、少しずつ不穏な雰囲気が流れてきていた。

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