青年は怒られる
「確かにうまいなー」
マサムネは、青年が自慢げに差し出した鮭のおにぎりを食べながら言いました。
「だろ? なんでこんなにうまいんだろうなー」
ルンルンと、鼻歌交じりに一個を食べ終わると、青年は残った一個をじーっと見ています。
「食べないなら俺がもらうけど?」
しびれをきらして何気なく言えば、
「食べるに決まってんだろ!」
そう返事をしつつも、一向に食べようとしません。
「飾るつもりか?」
「違う。これ・・・梅干しなんだ」
「あー。おまえ、苦手だもんなー」
もちろん、ご飯のお供に食べることもあるのですが、すっぱいのも甘いのも、青年は苦手でした。
「何で買ってきたんだよ」
「だって・・・」
あの子がおいしいって言うから・・・。
「あの子!!」
マサムネが反応します。
「なんだよ」
「あなた。恋のよ・か・ん?」
「ちげーよ。バカ!」
蹴りを入れて、がぶり。
「む」
食べて固まったまま、もぐもぐして、飲みこみます。
「・・・どうだ?」
「・・・うまい」
そのまま、二口で食べ終えます。
「へぇ。いい梅干しでもつかってんのかな」
もちろん、領主の食卓に並ぶ梅干しは高級品でありますが、安くておいしいものがあることを、マサムネは知っています。
「すごいな」
青年は、娘を思い浮かべました。
裏に梅の木でもあるのかな。
次におにぎり屋を訪れた時、青年は梅の木の所在を尋ねる間もなく、娘に怒られました。
「お金を無駄にしてはいけません!」
「は、はい!」
「一円に笑う者は一円に泣くという言葉を知らないのですか?」
「はい。い、いえ!」
あまりの剣幕に押される青年。後ずさりしながら、謝ります。
「ごめんね」
その言葉で娘ははっと気がつくと、見ていてわかるほど血の気が引いていきました。
「あ。ああわ、わたし、なんていうことを・・・お客様に・・・なんてことを・・・」
「だ、大丈夫?」
青年が支えようとショーケース越しに手を伸ばそうとすれば、
「ひええええ」
奇声をあげて、飛び去ります。
驚く青年。
「ご、ごめんなさい。あの、私、あの」
「落ち着く!」
青年の鶴の一声に、娘もシャキンと背を伸ばします。
「大丈夫だから。落ち着く。わかった?」
「はい!」
「ん」
青年は笑って、手を伸ばしました。
娘も思わず、握り返します。
「はい、仲直り」
青年は今度はお釣りを受け取り、こんぶとおかかを買って帰りました。友達にも食べてもらいたいから、10個くらい買ってもいい?
青年の問いかけに、仕掛け人形のように頷くしかできない娘。
魔法の言葉にかかってしまったみたいです。
前回のお釣りを返していない気づいたのは次の日の朝でしたが、それは貰っておいて。青年の魔法の強制力で、またしても頷いてしまった娘なのでした。