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青年はハマる

「なぁ、おにぎりって知ってる?」

所変わって、こちらは領主の館です。

青年は家に帰ってすぐ、友達でもあり同僚のマサムネを捕まえました。

「はぁ?」

領主の息子が突拍子もないのはいつものことですが、それにしても『おにぎり』です。

何を今更・・・マサムネは呆れました。

「知ってるけど?」

「何で教えないんだよ!」

今度は逆ギレです。

「俺に言うなよ」

というか、知らなかったのか・・呆れを通りこして、かわいそうになってくるから不思議です。

「すげーうまい店があったんだよ」

「へぇ。下見に行ったんじゃなかったの?」

「下見のついでに、見つけたってわけ」

どっちがついでか、わかったものじゃありません。

「でもカードが使えなくてさ・・・お前に買って来れなかった」

自分に買ってくるつもりだったのか・・・マサムネは気分も上がり、青年を抱きしめます。

「え・・ちょっ、何?!」

「かわいいなぁと思って」

長身の青年よりも頭一つ大きいマサムネは、力も強いので、逃げ出すことができません。

「ちょ、やめろって! 誤解されるだろ!」

「いーじゃん。誤解させようよ」

ぎゅうぎゅう抱きしめて離さないマサムネ。

もちろん、館に勤めるメイド達が、こそこそと遠巻きに喜んで見ていたことは、言うまでもありません。


娘には三人の弟と二人の妹がいました。

母親も父親も亡くなり、娘が一人で面倒を見ています。

「ねーちゃん、何か嬉しそう」

夕飯の途中で、一番年長のトマスが言いました。

「え?!」

「私もそう思ってたー。何かあったの?」

エミリも続けると、何も分かってないような子達も口を揃えます。「ねーちゃん、何かあったー」

「な、何もないわよ。さっさと食べて!」

夕飯は売れ残りのおにぎりであることが多いのですが、弟妹たちはお姉ちゃんの作るおにぎりが大好きでした。

あやしいな・・・という視線を送りつつ、おにぎりを頬張ります。

変なこと言わないで。娘は呟きつつ、気づけば昼間の青年を思い出してしまいます。

鮭じゃなくて、いくらにすればよかったかな・・・もし来たら、次はいくらにしよう。

ほとんど中身の対策でしたが、考えもまとまり、空になった皿を片付けます。

「ねーちゃん、まだ食べてる!」

トマスの声は聞こえません。


次の日。青年は来ませんでした。

旅立ってしまったのかしら。

残念に思っていた、その次の日。

「こんにちは」

突然の訪問に娘は石になります。

「また来たよ」

「あ、い、ら、らっしゃい!」

魚屋のおっちゃんのようなかけ声が出てしまい、焦る娘。

そんな娘の様子には、一ミリも気づかず、青年はじーっとおにぎりを見ています。

「全部は買えないからー、この前の鮭と、おススメをください」

「はい!あの、いくらと、いくらってのいうのは、魚の卵なんですけど」

「うん。いくらね」

「あと、梅干し!」

予定にないものまであげようとすると、

「梅干し?」

青年の顔がゆがみます。

「すっぱいやつだよね?」

「お嫌いですか・・?」

落ち込む娘。

「うん。でも、食べてみるよ」

「いえ。外国の方には、お口に合わないかもしれませんし・・・」

「んーん。じーさまにも好き嫌いするな!って言われてるしね」

その三つください。

や、優しいかも・・・。

手袋をはめた震える手で、おにぎりを掴み、竹の皮でつつみます。

青年はその手順も面白いらしく、食い入るように見ています。

「380円です」

「はい」

青年は1万円を渡すと、

「お釣りはいらないよ」

「え?! で、でも・・・」

「ごめんね。コインが重くて」

コインだけじゃありませんけど!

言う間もなく、ダッシュで消える青年。


お金持ちなんだな。

返すことのないお札を持ちながら、娘は取り残された気持ちで、青年が消えた方向をいつまでも眺めていました。

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