表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/24

第9話 「ヴァンパイアの女帝、忠誠を誓う」

 紅の瞳が、静かに二人を見据えていた。

 その目には、威圧ではなく、不思議と温かな光が宿っている。


「……我が名は──ロゼッタ・ヴァニラ・ベート。かつて“ヴァンパイアの女帝”と呼ばれし者」


 落ち着いた、しかし胸の奥まで響く声。

 凛と蓮は視線を交わし、軽くうなずき合った。


「俺は神白蓮。こっちは妹の凛だ」

「……はじめまして」


 名乗り合ったその瞬間、ロゼッタはわずかに瞼を伏せた。

 それは、礼と謝罪を同時に込めた仕草だった。


「礼を言うわ。そして……謝らねばならないことがある」

「謝る?」

「先ほどのグール……あれはロイゼン。私の忠実な従者。

 彼は、私を封印された場所から守るため、長き時を耐えた」


 ロゼッタの声がわずかに震える。

 その言葉と共に、遠い過去の情景が、淡い幻のように二人の脳裏に流れ込んできた。


 ──かつて、彼女には家族がいた。

 だが、人間たちは恐怖と偏見から、彼らを捕らえ、火炙りにした。

 憤怒に呑まれたロゼッタは、怒りのままにその国を滅ぼしてしまった。

 その結果、人間たちは恐怖に駆られ、彼女を封印したのだ。


「ロイゼンは……封印の中で私を待ち続けた。

 そして、最期の瞬間に……『この方達なら、あなたを託せます』と」


 ロゼッタはそっと胸に手を置き、深く一礼する。

 その姿には、かつて女帝と呼ばれた威厳と、従者を失った悲しみが混ざっていた。


「神白蓮、神白凛……私はあなた達に忠誠を捧げたい。

 主はあなた達。私はその剣となり、盾となる。どうか……この願いを受け入れてほしい」


 不意に蓮が苦笑する。

「いきなり女帝が従うって……すごい話になってきたな」

 凛は少しだけ唇を噛み、そして頷いた。

「……わかりました。でも、主従だからって距離を作るつもりはありません」


 ロゼッタは小さく微笑んだ。

 その笑みは、先ほどまでの重々しさとは違い、どこか年下の少女のようにも見えた。


 こうして──神白兄妹とヴァンパイアの女帝ロゼッタの、奇妙で強固な主従関係が結ばれたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ