表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/24

第4話 「ムカデと叫び声と剣聖」

 ギルドを出た蓮と凛は、赤髪の青年──ガイルと、長耳の弓使いエルナに連れられ、街道沿いの林へ向かった。

 風は涼しいが、森の奥からは湿った匂いと、不気味なカサカサ音が漂ってくる。


「で、二人とも新人ってわけか」

 前を歩くガイルが振り返り、にやりと笑う。

「虫嫌いの聖女と、ホラー嫌いの剣聖……面白ぇな」

「……その組み合わせで生き残れるかは、今日でわかりますね」

 エルナが冷静に言う。


 蓮はため息をつく。

「……わざわざ口に出すな」

「だって蓮にぃ、昨日の夜、ホラー映画の話だけで固まってたじゃん」

「お前だってムカデって聞いただけで顔色変わってただろ」

「だって足がいっぱい……うわぁぁ考えるだけで無理!」


 そんな軽口を交わしていると、

「──来るぞ」

 ガイルの低い声が響いた。


◇ ◇ ◇


 林の奥から、地響きとともにそれは現れた。

 光沢のある黒い外殻。節くれだった胴体がくねり、無数の脚が地面を引っ掻く。

 頭部には鋭い顎──アーマード・センチピード。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

 凛は一歩下がり、背中を木に押し付ける。

「お、おい、落ち着け! お前は後方で回復に専念しろ!」

「むりむりむりむり!! 絶対むりぃぃ!!」


 ムカデが甲高い音を立てて突進してくる。

 蓮は即座に前へ出て剣を構えた。

「──【一閃】!」

 光のような斬撃がムカデの脚を数本まとめて切り飛ばす。

 だが、外殻は硬く、体幹部分には浅い傷しか入らない。


「くっ、硬ぇな……!」

「蓮! 背後!」

 エルナの声と同時に、別の茂みからもう一匹が飛び出す。


「……っ!」

 振り返った瞬間、蓮の視界に“骸骨のような”ムカデの頭部が迫った。

 一瞬、背筋を冷たいものが走る。

 ──骸骨っぽい顔、やめろ。ホラーじゃねぇかこれ……!

 心の中で半泣きになりながら、剣を振り下ろす。


◇ ◇ ◇


「凛! 援護を!」

「むりぃぃぃ!! 足が……足がいっぱいぃぃ!!」

「お前、聖女だろうがああああ!」

「ひぃぃ……あ、【聖域展開】!」


 凛が叫びながら杖を叩きつけ、淡い光のドームが仲間を包み込む。

 ドーム内では体力がじわじわ回復し、ムカデの動きも鈍る。

 それを好機と見たガイルが突進し、巨大な戦斧でムカデの胴を叩き割った。


「ふぅ……終わったな」

 黒い体液が地面に広がり、二匹のムカデは痙攣して動かなくなる。


◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……」

 戦闘が終わっても、蓮と凛はまだ動悸がおさまらない。

 ガイルは笑いながら肩を叩いた。

「悪くなかったぜ、新人。怖がりながらも動けたなら上出来だ」

 エルナも頷く。

「ですが、虫とホラーの克服は早めにした方がいいですね」


 蓮と凛は顔を見合わせ、同時にため息をついた。

「……当分は無理だな」

「……うん、無理」


 こうして、兄妹の異世界での初討伐は、恐怖と悲鳴と少しの達成感で幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ