第13話 「無人島の宝と、沈む女帝」
シェルモアで港の魔物を退治して二日後。
三人はギルドから新たな依頼を受けていた。
「無人島の調査……? なんか海ばっかりじゃないか」蓮は依頼書をめくりながら眉をひそめる。
「蓮さん、海が嫌いなんですか?」ギルド職員のリディアが首を傾げた。
「嫌いじゃない。ただ……水の中からヌルっと出てくるやつが苦手なだけだ」
「昨日の晩、魚の煮付けをおかわりしてた人が言う台詞ですかね」凛がくすっと笑う。
「それとこれとは別だ!」
依頼の内容はシェルモア沖にある小島の調査。古い記録では交易の中継地として使われていたが、今は無人。最近、夜になると島から青白い光が見えるという。
「青白い光って、もしかして宝石とかじゃない?」凛がわくわく顔。
「あるいは幽霊船の仲間かもね」ロゼッタがにやりと笑う。
◇
港で待っていたのは漁師兼船頭のロッサ。
「無人島なら半日で往復できるさ。ただし、サメの群れが出るから気をつけろよ」
「サメ!?」蓮の顔が引きつる。
「蓮、昨日より顔色悪くないですか?」凛が心配そうに覗き込む。
「気のせいだ……たぶん」
船は白い波を蹴立てて進む。潮風が頬を撫で、海鳥が頭上を旋回する。
「いい景色ね。バルディナの空より澄んでるわ」ロゼッタは瞳を細める。
「ロゼッタさんって海の上は平気なんですか?」凛が聞く。
「昔は苦手だったけど、太陽を克服してからは気にならないわ。むしろ──」
言いかけた瞬間、船が大きく揺れ、ロゼッタはバランスを崩して……
「きゃっ!」
──ザブン!
派手な水音と共に、女帝は海へと落ちた。
「お、おい! 沈んでるぞ!」蓮が慌ててロープを投げる。
「ま、待って! 私……泳げ……っぷ」
ロゼッタは必死にもがきながらロープにしがみつき、びしょ濡れのまま船に引き上げられた。
「……笑ってるでしょ、蓮」
「笑ってない……にやけてるだけだ」
「それ笑ってるのと同じです!」凛が即ツッコミを入れる。
◇
昼頃、島に到着。潮の香りに混じって、どこか鉄のような匂いが漂ってくる。
「ここ……何か死臭っぽいのがしませんか?」凛が鼻を押さえる。
「海鳥の死骸か、もしくは──魔物だな」蓮は剣に手をかける。
島の中心部に向かう途中、苔むした石碑が並ぶ広場に出た。中央には直径2メートルほどの水晶柱があり、淡く青白い光を放っている。
「これが噂の光源……?」蓮が近づこうとしたその時、地面の影が揺らぎ、甲殻を持つ巨大な魔物〈シー・スコーピオン〉が姿を現した。
「虫! 虫系は無理!」凛が後ずさる。
「凛、落ち着け! こいつは甲殻類だ!」
「一緒です!!」
魔物が大きなハサミを振り下ろし、蓮は紙一重でかわす。ロゼッタが〈ブラッド・ランス〉を放つも、硬い甲殻に弾かれる。
「殻が硬すぎるわ!」
「なら、関節を狙う!」蓮が足元に滑り込み、後脚の関節部を斬り裂く。甲殻が割れ、青黒い液体が飛び散る。
「ひぃぃ!」凛は涙目になりながらも、〈フレイム・アロー〉を詠唱し、傷口に放つ。火が回り、魔物は苦悶の叫びをあげた。
最後はロゼッタが跳び上がり、魔力を纏った蹴りを頭部に叩き込む。鈍い音と共に〈シー・スコーピオン〉は崩れ落ちた。
◇
魔物を倒した後、水晶柱の内部には古代貨幣や宝石が封じられているのを発見。
「これ、売ればかなりの金額になるんじゃない?」凛の目が輝く。
「ギルドに報告して、正式に引き取ってもらうべきだな」蓮は苦笑する。
「宝石より、私はまず着替えが欲しいわ……」ロゼッタはまだ服が乾かず、不機嫌そうだ。
「……次は海じゃない依頼にしよう」蓮のつぶやきに、二人は思わず笑ってしまった。




