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第11話 「女帝、初任務に挑む」

 夕暮れ時、交易都市バルディナのギルド本部は、酒場も兼ねた広間から笑い声と食器の音が響いていた。

 蓮と凛、そしてロゼッタはそのカウンターに並び、ギルド職員のリディアに依頼票を差し出す。


「依頼内容──“港町近くの倉庫街で発生しているネズミ型魔物〈スワンプ・ラット〉の駆除”ですね。難易度は低めです」

「初任務にはちょうどいいわね」ロゼッタは余裕の笑みを浮かべる。

「……本当にやる気なのか? ネズミ退治だぞ」蓮は半眼。

「ええ。当然でしょう? 蓮、女帝は戦場を選ばないのよ」

「かっこいいこと言ってるけど、相手はしっぽが長いだけの害獣ですからね?」凛がクスクス笑う。


 依頼を受け、三人は夜の倉庫街へ向かった。潮の匂いと古い木材の匂いが混じる中、月明かりに照らされた倉庫の影から、小さな赤い光がちらつく。


「……出たな。スワンプ・ラットだ」蓮が剣を抜く。

 黒い毛並みに、湿地の泥のようなぬめり。人間の子供ほどの大きさで、黄色い牙をむき出しにしてくる。


「ロゼッタさん、こういう小動物は苦手じゃ──」

「ふふ……甘く見ないで、凛」

 次の瞬間、ロゼッタの瞳が妖しく輝き、魔力の奔流が周囲の空気を震わせた。

「〈ブラッド・インパクト〉!」

 赤黒い衝撃波が放たれ、3匹のネズミが吹き飛ぶ。


「ちょ、初任務から全力魔法!?」蓮が思わずツッコむ。

「手加減は苦手なの。蓮、そっちは任せるわ」

「はいはい……〈斬鉄閃〉!」

 鋭い剣閃が残りのネズミを切り裂く。凛も後方から〈ヒール・シールド〉を展開し、二人を守る。


 しかし、奥の影からさらに大きな個体が現れた。背丈は蓮の胸ほどもあり、背中には棘のような骨が生えている。

「ボス個体か……!」

「面白いわね」ロゼッタが前に出る。

「いや待て、初任務なんだから慎重に──」蓮の忠告は最後まで届かない。

 ロゼッタは優雅な足取りで距離を詰めると、手のひらから赤い霧を放つ。

「〈ブラッド・バインド〉」

 霧は瞬時に鎖の形となり、巨大ネズミを拘束した。そこへ蓮が跳躍、頭上から一撃で首を落とす。


 ネズミの死骸が消え、魔石と牙が残った。

「これで完了ですね」凛が微笑む。

「ふぅ……女帝の初陣、華々しい勝利だったわね」ロゼッタは髪をかき上げる。

「いや、どう見てもお前が主役だっただろ……」蓮は苦笑しながら魔石を拾った。


 ◇


 依頼達成の報告を終え、三人はギルドのカウンターで報酬袋を受け取った。

「これが“稼ぐ”ということなのね……!」ロゼッタは袋の中身を覗き込み、目を輝かせる。

「でも、あんまり豪快に魔力使いすぎるとバレますよ?」凛が小声で釘を刺す。

「気をつけるわ。……でも、楽しかった」


 初めての共同戦線。

 それは、彼女が人間の町で生きるための、確かな一歩だった。


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