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第10話 「女帝、初めての町歩き」

 ダンジョンを後にし、蓮たちは乗合馬車で町へ向かっていた。

 目指すのは、ギルド本部もある交易都市──バルディナ。

 商人や旅人で賑わい、異種族も多く暮らす港町だ。


 馬車の中、ロゼッタは窓の外に広がる青空を、じっと食い入るように見つめていた。

「……こんなにも明るく、温かいものだったのね。太陽って」

「え、今まで浴びたことなかったのか?」蓮が驚く。

「ヴァンパイアにとって太陽は、命を削る毒そのものよ。

 でも……封印の間に、ロイゼンが私に少しずつ特殊な薬草と魔法を与えてくれていたみたい。

 たぶんあれが……私を、太陽に耐えられる身体に変えてくれたんだわ」


 そう語る横顔は、どこか遠くを見るようで、ほんの少し寂しげだった。

 凛はその空気を和らげようと、明るい声を出す。

「じゃあ今日は、ロゼッタさん“初めての昼のお出かけ”ですね!」

「……ええ、そうね。ふふっ、どこから楽しめばいいのかしら」


 ◇


 バルディナの城門をくぐった瞬間、ロゼッタは完全に観光客の顔になった。

 石畳の通りには露店が並び、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 港から届いた海鮮の干物や、果物を山盛りにした籠。

 ロゼッタは一歩進むごとに立ち止まり、蓮と凛を置き去りにする勢いで見入っていた。


「これが……“日常”というものなのね……」

「そんな大げさな……」と蓮が苦笑した矢先、ロゼッタがぴたりと足を止めた。


 視線の先には──串に刺さった焼き鳥。

「蓮、あれは……血の味がする?」

「いや、鶏肉だ」

「では食べてみたい」


 買って渡すと、ロゼッタは恐る恐るひと口。

 ……そして目を丸くする。

「なにこれ……! おいしい!」

 次の瞬間、女帝は完全に食べ歩きモードに突入。肉串、クレープ、ハチミツ入りパン……気づけば両手が食べ物で埋まっていた。


「おいおい、財布が軽くなるぞ」蓮がため息をつく。

「蓮兄、いいじゃないですか。ロゼッタさん楽しそうですし」凛は笑いながらそう返した。


 ◇


 昼過ぎ、三人は港沿いのベンチに座ってひと休みした。

 海風が心地よく吹き、ロゼッタの赤い髪がさらりと揺れる。

「……太陽の下で、こうして座っているだけで、こんなに幸せを感じるなんて。

 ロイゼンの想いは、きっとこういう時間を私に与えたかったのね」


 少ししんみりするその表情を、蓮と凛は黙って見守った。

 やがてロゼッタは、ふっと笑顔を見せる。

「さあ、次はどこに行く? 港の魚料理も気になるわ!」

 結局、夕方になるまで三人は町中を食べ歩きし続け、ギルドにたどり着く頃には──

 女帝の威厳はすっかり消え、ただの満腹で幸せそうな女性になっていたのだった。


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