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第1話 「兄妹、異世界へ落ちる」

 放課後の住宅街。

 西日が照らす通学路を、双子の兄妹が並んで歩いていた。


「蓮にぃ、今日の晩ご飯、カレーがいいなー♪」

 スキップ混じりの足取りで、妹の神白かみしろ りんがご機嫌に声を弾ませる。


「……ん」

 兄の神白かみしろ れんは、短く返すだけ。


「もう、それだけ? せっかくテスト終わったんだから、もっと喜びなよー」

「別に……どうせ赤点だし」

「あはは! 蓮にぃらしいね!」


 クールで無口な兄と、天真爛漫な妹。

 性格は正反対でも、仲の良さは近所中の噂になるほどだ。


 ──その日常は、唐突に終わりを告げた。


◇ ◇ ◇


 ふと蓮が、空を見上げる。

 ……何かが、おかしい。


 空間そのものに、ヒビが走っていた。


「……な、なんだ、あれ……?」

 そのヒビは音を立てることもなく広がり、黒い亀裂へと変わる。

 そして次の瞬間──耳をつんざく轟音とともに、眩い光が降り注いだ。


「蓮にぃ!?」

 凛が手を伸ばした瞬間、視界が白に染まり、二人の意識は闇に沈んだ。


◇ ◇ ◇


 目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。

 重力すら感じない、不思議な場所。


 目の前には、柔らかな白いドレスをまとった女性が立っていた。

 銀色の髪がゆるやかに揺れ、微笑みをたたえている。


「あら、お目覚めになられましたか?」

 彼女は深々と頭を下げた。


「この度は……本当に申し訳ございません」

「え?」

「私はヒルデガルド。この宇宙を司る女神でございます。皆からはヒルデと呼ばれています」


 女神は、どこか抜けた雰囲気を纏いながらも、澄んだ声で説明を始めた。


「先ほど、そちらの世界で発生した時空の裂け目を修復していたのですが……不手際で、お二人のお体を真っ二つにしてしまいました」


「まっ……真っ二つ!?」

 凛が飛び上がる。


「ご安心ください。魂は無事です。ただ……もう元の世界では生きられません。一時間以内に新しい身体を用意しなければ、魂そのものが消滅してしまいます」


 蓮は短く息を吐いた。

「……つまり、転生するしかないってことか」

「はい。謝罪の意味を込めて、お二人の望む能力を授けます。行き先は──剣と魔法の世界イングレイスです」


 その言葉に、蓮はわずかに口角を上げた。

「……悪くないな。ダンジョン、魔王、剣と魔法……ずっと憧れてた」

「蓮にぃ……」

「私も! 新しい世界、新しい人生……なんだかワクワクする!」


 ヒルデの表情が、ぱっと明るくなる。

「ありがとうございます! では──お兄さんには剣術の頂点【剣聖】を。妹さんにはあらゆる傷を癒す【聖女】を授けましょう」


 杖が床をカンッと打つと、光が二人を包み、意識が再び遠のいていった。


◇ ◇ ◇


 鼻を突く湿った土の匂い。

 薄暗く、霧が立ち込めた森の中で、蓮はゆっくりと目を開けた。


「……凛?」

「蓮にぃ……? ここ、どこ……?」

 妹が不安そうに手を握ってくる。


 その時、霧の向こうに赤い光がふたつ、ゆらりと灯った。

 ──何かが、こちらを見ている。


 蓮は妹を背に庇い、ゆっくりと腰の剣に手をかけた。

「……どうやら、歓迎の挨拶ってわけじゃなさそうだな」


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