荒野の夕日
外へ出てみれば、鉱山街ハイウェスタンは、先ほどまでの盛んな景色から一変、寂れたゴーストタウンへと戻っていた。生きていた人などおらず、あちこちに骸骨が落ちていたり、タンブルウィードが大きく巻かれて転がってたりと廃れていた。
「これが、さっきまで見ていた鉱山街だって言うのか?」
「あぁ、どうやらそうらしい」
ルーデンスがそう言うと、彼は酒場へと向かい、スレイ達と一緒に入る。そこには誰もいないが、ちょうど酒が一本残っていた。
「まぁ座れよ、俺の奢りだ、金はねぇけど」
ルーデンスの言う通り、スレイ達は円卓を囲んで椅子に座る。ルーデンスはカウンターから埃の被ったグラスを拭き取っては持ち出すと、スレイ達へと配っていく。
「ここでの仕事を終えた祝いだ、乾杯しようぜ」
「あの…私も加わってよろしいのでしょうか?」
「何言ってんだ、お前も今回仲間だったんだ、のめのめ」
申し訳なさそうなリリーを制すと、ルーデンスはグラスを掲げた。
「今日の仕事が無事終わったことに、乾杯!」
『乾杯』
トラブル対策チームはそれぞれグラスをぶつけ合うと、酒を飲む。時間こそ経ってるが、味はしっかりとしていて、飲みがいのあるお酒だった。
「……本当に、終わったな」
何か思うところがあるようにもう一度言うと、ルーデンスは椅子に座り込み、ほうっと息を吐きながら酒を飲む。
「ルーデンス、過去とのケリは…」
「…心配すんな、バッチリつけてきたよ、あの爆薬の発破でな」
ルーデンスを心配するスレイだが、彼は目を閉じてあの時の光景を思い返すと、これで良かったんだと思うように澄み切った顔で笑った。
「しかし、魔想体がここまで影響を与えるとは、危険ですね」
「然り、街そのものを大きく変化させるとは、恐ろしい物質です」
レインが近くに置いてあった魔想体のアイテムボックスを見ると、ローランドも反応する。
「魔想体が行き過ぎると、このように世界の一部をどんどん改変するんです。放置すれば……世界が破滅することもわかりますね?」
「あぁ、十分理解したよ、今までは触りでしかなかったって」
スレイはため息をつきながら酒を飲むと、サーシャがこんなことを言い出した。
「これから先、これより危険な魔想体の影響エリアの探索を任されることがあるってことですよね?」
「ええ、そうですよ」
サーシャが質問すると、ふと、急にフィアネリスが現れた。
「うおっ⁉︎ 急に現れるな! 驚くじゃないか…」
「おや、狂犬のダリルさんも驚くことがあるのですね?」
「放っとけ!」
「さて、先ほどの質問ですが、答えはイエスです。これから先、これより侵食濃度の高い魔想体の回収エリアを回ることが来るでしょう」
その言葉を聞くと、その場の全員が息を呑む。これ以上に影響を受けたエリアの回収作業に入らなければならないことに。危険度もより高くなり、生半可な覚悟でいけば死ぬだろう。
「ですが、暮らせる場所を提供します、危険な地帯を攻略する毎に、相応の報酬を出しましょう。あなた達が働く理由には、それで十分でしょう?」
「それは、そうだな……」
スレイは椅子にもたれかかって天井を見る。少し暗い空間にフィアネリスの陰のある笑顔が刺さる。
「ちなみに、今回の報酬ですが、これくらいになります」
「一、十、百、千、万…ひゃ、百万⁉︎ こんなにもらってもいいんですか⁉︎」
「はい♪ あなた達は世界に凶悪な病気が広がる前に止めた英雄ですから」
タブレット端末で概算の報酬額を出すフィアネリスに、サーシャは目に金のマークを浮かべながら喜ぶ。
そう言えば…とスレイは言う。
「バスの乗客はどうしたんだ? 一緒に行動してないのか?」
「街がゴーストタウン化する前にバスに戻しておきました、私は貴方達を回収しにきたのです」
「そうか、悪かったな、こんなところで酒を飲んでて」
「いえいえ、こう言ったガス抜きも悪くはないと私は思いますので」
ルーデンスの発言にフィアネリスが丁寧に返すと、全員は酒を飲み終え、バスに向かおうとする。
「それでは、私は…これで失礼しますね!」
「あぁ、また一緒に任務に着くことがあったらよろしくな」
リリーと別れを告げ、スレイ達はバスへと戻る。乗客は既にバスに乗っており、スレイ達は席に座るとシートベルトをつけた。全員がシートベルトを着用したのを確認すると、リコッタがバスを発車させ始める。
「今回の旅はいかがでしたでしょうか? もし楽しめたのであれば、都市ミズガルズ公式旅行サイトで私達ワールズストレンジャー社に高評価をよろしくお願いします♪ それでは、当バスはミズガルズへ向けて発車いたします。しばらくすれば異世界転移があるので、シートベルトをしっかりと着用して、転移に備えてください♪」
ゴーストタウンと化したハイウェスタンから離れ、スレイ達は荒れた荒野を走る。だが、バスから見えた夕日は、荒れた荒野の中でも綺麗だった。
「なぁ、隊長」
「っ? なんだよルーデンス」
「……なんでもねぇよ、ちょっと考え事をしてただけだ」
ルーデンスはスレイに自分のしたことが間違いではなかったんだろうかと聞こうとした。だが、愚問だった、ルーデンスはあの時、自分を捕らえようとした過去を振り切ったのだ。そのことを考えると、聞く必要もないかと窓の外を見た。
どれだけ苦しい過去があったとしても、こうして過去を乗り越え、現在を必死に生きてる。それを、荒野に落ちていく夕日が教えてくれる気がした。
そう考えると、ルーデンスはどこかスッとした気分になったのだった。




