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ワールズストレンジャー  作者: 遊戯九尾
第一章 不愉快で愉快な旅の始まり
2/19

雇用契約

 スレイ・エルメルトの生活は単純だった。

 裏路地を渡り歩き、荒くれ者に絡まれたら殴り倒し、金品を奪う、時に闇ギルドの依頼を受けては危険な依頼をこなし、報酬をいただく、危険ながら至極単純な生活だった。

 彼は幼い頃から孤児で身寄りがなかった、子供の頃、最初は盗みで生き延び、飢えをしのいでいた。だが10歳を迎えたある時、彼に転機が訪れた。

 能力の開花である。

 彼はチート能力に目覚めた。目覚めた力は時間操作、自身の動きを早くしたり、相手の動きを遅くしたりと単純ながらも強力な能力だった。

 同時に彼は喧嘩の才能に目覚めた。裏路地で能力を行使しつつも喧嘩をしては金品を奪い、それで生計を立てるようになった。

 しかし彼の生活も一時期は危機を迎えることとなる。マシンノイドと呼ばれた機械の兵隊による戦い、機械兵大戦の勃発だった。裏路地は戦場に変わり、彼は持てる力を駆使して機械兵を倒し、倒した機械兵を売ってより高い金を得て生計を立てた。そんな生活は大戦の終戦まで続き、終戦後はそれのスクラップの奪い合いとなり、ジャンク品をかき集めては売り捌いた。

 そんな生活を送っていた矢先だった、彼の家に一通の手紙が届く。


「会社のスカウト?」


 裏路地にある会社から、警備員として働いてほしいとのスカウトの手紙だった。手紙は妙に仰々しい封に入れられていて、手紙には会社名がこう書かれていた。


 ーワールズストレンジャー社ー


 聞いたことない会社だ。表通りではなく裏路地の会社らしく、どんな会社なのか説明をするためなのか、パンフレットまで同梱されていた。


【夢の異世界ツアーへ! ワールズストレンジャー社は異世界渡航許可がなくても異世界転移をして旅をすることができる夢の会社です! 安心安全でリラックスして過ごせるバス、ツアーを盛り上げる社員、そして刺激あふれるツアー! 貴方も、異世界で夢のような旅を満喫してみませんか?】


 正直に言って胡散臭い広告だった、異世界間鉄道という大企業の技術がある中、今更バスで旅行代理店なんて流行りもしないだろうとスレイは思う。

 それに、そんな彼は異世界ツアーを盛り上げる"社員"ではなく"警備員"として雇われることになる。運転するわけでもなく、バスガイドをするわけでもなく、"警備員"だ、明らかに裏がある。

 最初は彼は手紙を破り捨てようとした。が,そう言えば待遇についてまだ見てなかったと彼は思い、書類を見る。


【警備員としてもし雇用された場合、高待遇を約束します、社員寮に高給,ツアーのない日は休みと、不自由ない暮らしを約束します】


 書かれていた待遇は、裏路地にしてはかなりの高待遇な暮らしだった。もしこの待遇が約束されるとしたら、明日どうなるかわからないスレイの今の生活は格段に良くなるだろう。

 しかし、そんな項目の下に、こんな不穏な言葉が書いてあった。


【守秘義務があり、旅の際に起きたトラブルに関しては決して他言無用でお願いします。また、この契約を行う場合、当社は旅の際に負傷、死亡した場合の責任は一切負いません】


 こんな事を書くあたり、やはり怪しい会社だ。だが待遇の良さは捨てがたい。この裏路地において安定した生活を得られるのはどれだけ大変なことか。

 スレイは考えた、どちらにせよ、裏路地で危険な生活を送ることも、警備員で命懸けの仕事になるのも、変わりはしないだろうと。彼はその手紙を持つと、ワールズストレンジャー社のある裏路地の一角へと向かった。


 ーーー


 ワールズストレンジャー社のビルがある一角に早速やってきたスレイ。まず見たのは、異様なバスだった。装甲車のような見た目をした大型のバスで、何かしらの戦闘があったのか、あちこち傷だらけで整備員に点検がされていた。

 これが異世界間の旅に使われるバスとなると、明らかに自分は危険と向き合う事になるであろうとスレイは思う。

 ビルはごく普通のビルだった。中に入ってみると、裏路地のビルにしては小綺麗で、いかにも旅行会社といったオフィスになっていた。


「会社のスカウトを受けたスレイ・エルメルトだ、面接を受けにきたんだが、どこへ行けばいい」


 受付の女性にひとまず場所を聞く。場所を聞いたら,会社のエレベーターを使って面接会場のあるフロアまで向かった。そして、面接会場にたどり着くと、そこには、5人の人が座り込んでいた。


「ん? お前も面接受けにきたのか?」

「そのつもりだ、となると…君も、なのか?」

「ああ、俺はルーデンス、よろしくな」


 茶髪で短髪のルーデンスは片手でスレイと握手しようとするが、その時、機械の形をした義手が見えた。


「あーこれか、ここは裏路地だからな、仕事でヘマしてこうなった、再生手術を受けようにも金がなくてな、結果的にこうなっちまった」

「俺は気にしない、よろしく頼む」


 ルーデンスと握手を交わすと、彼の隣に座る。他の四人に関して言えば…。

 一人はタバコを吸いながらくつろいでいる黒髪のサングラスの男性。

 一人はビクビク怯えながら面接用の本を読む金髪の女性。

 一人は場に似つかわしくない笑顔を見せる茶髪の男性。

 一人は厳格な雰囲気を持つスーツを着た黒髪の男性。

 ……正直、雰囲気は皆バラバラだった。ただ一つ言えるのは、どの人物からも裏路地を生き残ってきた風格が漂っていた。怯える女性でさえもだ。

 そうして待っていると。面接官がやってきた


「楽にしてく……楽にしてるやつばかりだな、早速だが面接を行う。まぁ面接といっても、事業内容の説明のようなものだが」


 面接官は6人を一瞥すると、早速説明を始めた。


「我々ワールズストレンジャー社は裏路地でも清く正しい異世界旅行代理店を目指している。だが異世界の旅行には危険がつきものだ。突然すまないがワイバーンが現れた、のような場面が起きてもおかしくはない。そこで、裏路地で力を持つ君たちをスカウトする事になった」

「力を持つ? 俺は一介の殺し屋だ、そんな殺し屋が警備員の仕事に? 笑えるな」


 サングラスの男がそう答えると、タバコの煙を撒き散らした。


「確かにそうだ。経歴に関しては、殺し屋や闇ギルドの冒険者など、全て調べさせてもらった」


 面接官がそう言うと一人ずつ説明をしていく


「スレイ・エルメルト、裏路地で日雇いで生活をしている貧困者、だがチート能力を用いて、闇ギルドの依頼や機械兵大戦など、様々な危機を乗り越えてきた。能力は時間操作、自身の加速や周辺の時間の制御、応用を効かせればなんでも使える万能能力だ」

「わかりやすい説明どうも」


 スレイははぁっとため息をつくと頭を下げる。


「ルーデンス・カシミヤ、闇ギルド所属の冒険者、怪我で右手こそ義手にはなっているが、闇ギルドではSクラス冒険者に匹敵、腕の立つ冒険者らしいな、この中では唯一の無能力者か、だが戦闘のセンスはこの中でもトップクラスだ」

「褒めても何も出ないぞ」


 ルーデンスは片手の義手をクルクルと回転させながら、ゆったりと座る。


「ダリル・ガラグート、裏路地の殺し屋でそのキルレシオは上位に匹敵する。そのせいで,多くの組織から追われていると聞いてる。特殊能力は鮮血、自身の血を武器として使い、相手が出血すればその血を取り込む、まるで吸血鬼だな」

「はっ、脅しのつもりか? お前らの犬にさせるには足りないな」


 ダリルと呼ばれたサングラスの男は笑うと、タバコを床におとし、靴で踏みつけて火を消した。


「サーシャ・クライヘルツ、裏路地を渡る殺人鬼だと聞いている。殺す対象は闇組織の者で、ナイフ一本でも充分に戦えると記録があるな、特殊能力はフェイタルブレード、指定された箇所に攻撃を当てると致命的なダメージを与えられる能力だそうだな」

「そ、そそそそんな! 私はそんな大層な者じゃないですよ! ただ単純に運が良かっただけです!」


 サーシャはワタワタと手を振るが,その瞬間、血のついたナイフがボロボロと服から落ちてきた。


「レイン・アルバート、裏路地の闇組織に雇われていた警備員、この中では一番この職に適しているな。能力は氷結、単純に氷属性の能力が使えるというものだな」

「僕自身,ここにきたのは運命なのかなと思ってます」


 ぱぁっとした顔でレインが答える。面接官は顔色を変えずに最後の人を説明した。


「ローランド・マグスター、スーツ姿できちんと着て、こうやってしっかり面接をするところは褒めよう。君の経歴は裏社会の者達が集うホテルの元ホテリエ、だが、ホテルは度重なる抗争で破産し、君は次の職を得るべくここにやってきた。能力は硬化型の身体強化、肉体を岩のように固くできる」

「ご説明、ありがとうございます」


 そうして6名の説明が終わり、面接官は話を戻す。


「君たち全員は確かにバラバラで、ほとんどが警備員に向いてない。だが、裏社会で生き延びてきた君達の力が我々には必要だ。それは、警備員としてだけでなく、"回収者"としてもだ」

「回収者?」

「このワールズストレンジャー社、通称WS社はただの旅行代理店を務める会社ではない。君達には、この会社の"トラブル対策チーム"として働いてもらうだけでなく、ある物質を回収してもらいたいんだ。フィアネリス、アレを持ってきてくれ」


 はーいとどこからか声が聞こえると、空間転移で一人の女性が現れた。その者は背中に三対の翼を持ち、燃えるような赤い髪、宝石のような琥珀色の瞳、そして天輪を持つ者…いわゆる、天使だった。


「あなた方が今回面接を受けている裏社会のゴミクズ達ですね♪ 私はフィアネリス、この会社でのバスガイドを務めさせていただいてます、以後お見知り置きを♪」

「ゴミクズ……おい嬢ちゃん、口は慎んだほうが身のためだぞ、俺の剣が飛ぶ前にな」


 フィアネリスの煽りに対し、ダリルが腰の剣に手をつける。


「まぁまぁ、同じ裏社会のゴミクズ同士仲良くしようではありませんか、ここでは法も何も適用されない事ですし」


 フィアネリスがギンッと目を光らせると、ダリルは一瞬ビクッとなった。この天使からはほとんど力も何も感じられない、だが、放っておくととんでもない事をしでかしそうな予感がして、彼は冷や汗をかきながら剣を収めた。


「さて、自己紹介も終えたところで、本題と入りましょう。貴方方が旅をしながら回収をしてもらう物質はこちらです」


 フィアネリスが指パッチンをすると、部屋の中央にガラスのケースが現れた。その中にあったのは紫色に淡く輝くキューブで、触れなくてもわかる禍々しさが、その物質から溢れ出てきていた。


「これは"魔想体"、貴方達はバスのトラブル対策チームとして現地の脅威と戦いながらこの物質を見つけ出し、これを回収することが主な任務となります」


 その言葉を聞いた途端、スレイは額から冷や汗が流れた。自分達は、何かとんでもない事に巻き込まれたんじゃないかと

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