虚栄の街
「…ゴースト、タウン?」
「あぁ、ハイウェスタンは寂れたのち、街としての機能を失い、ゴーストタウンになった。それなのに、なぜか今、街はきちんと機能している」
ルーデンスは周りを見渡す。荒くれ者達がトランプを楽しんでたり、住民が水を運んだりと、普通に街として機能していた。
「どう言う事だかわからない、けど確実に言えるのは、この街はどこかおかしいって事だ、それもこれも、全部魔想体のせいなのかもな」
「ルーデンス」
ルーデンスを呼ぶ声が聞こえた。だがルーデンスはその声を聞いてあり得ないと思う。彼は、確認するようにゆっくりと振り返った。そこには、優しそうな顔をした男が1人立っていた。
「ま……マイク、マイクなのか?」
「なんだよルーデンス、そんな顔をして僕を見て、マイクだよ、こんなところで何してるの」
「嘘だ……お前は、事故で死んで!」
ルーデンスは自分の右腕を見た。すると彼は驚いた、義手だったはずの右腕が、普通の腕として存在していたのだから。
「ルーデンス! その腕…!」
「あり得ない…なんで、生身の腕に」
スレイ達も異常に気付いたのか、ルーデンスの右腕を見ては驚く。ルーデンス自身も驚いていた。義手だった片腕がちゃんとした腕に戻っていたのだから。
「また鉱山に盗りに行こう、今日の午後にでも」
「あ、あぁ…」
ルーデンスはマイクを見送ると、ふらっと彼についていきそうになる。だがそれを、スレイが止めた。
「ダメだ、そっちに行っちゃ」
スレイはルーデンスの右手を取る。生身の腕だ。だが、自分の知るルーデンスはどこか飄々としてて、片腕が義手のルーデンスだ。スレイはルーデンスを止めると、ルーデンスは夢から覚めたようにハッとすると、スレイの方へ振り向いた。
「あ…ありがとう、引き留めてくれて」
「気にすんな、にしても、さっきの男は誰だったんだ?」
「…俺の昔のダチだったやつだよ、だけどあいつは高山での落盤事故で死んだ。俺の右腕もその時失った」
ルーデンスはもう一度片腕を見る。腕は元の義手に戻っていて、しっかりと冷たい感覚が感じられた。
「一瞬だけ、俺は夢を見ていたのか…?」
「いえ、あれは夢ではございません、魔想体が生み出した幻でしょう」
観光客を待たせる中、フィアネリスがやってきては説明をしてきた。
「確かに、夢のような景色を味わえたでしょう。ですが、それも夢幻…この街、ハイウェスタンですが、ルーデンスさんの言う通り、今もゴーストタウンになってます」
「じゃあ、あちこちで動き回ってる人、あれはなんなんだ?」
ダリルがフィアネリスに信じられないようなものを見る目つきで聞いた。するとフィアネリスは、サングラスを人数分取り出した。
「これを通して見てみてください、真実がわかるはずです」
そうして全員はサングラスをかけて街を見てみる。すると、予想外の景色が見えた。街はボロボロに崩れていて、道行く人は全て魔素で動く骸骨だった。それを見たサーシャは泡を吹いて倒れ、スレイも状況を受け入れきれず、ふらりと倒れかけてしまう。
だが、ルーデンスに支えてもらい、スレイはもう一度しっかり立った。
「やっぱり……鉱山街ハイウェスタンは…」
「ええ、見ての通り、もう機能していません。」
ハイウェスタンの惨状を見て、ルーデンスは息を呑んだ。
「魔想体危険度はB、この街に長く滞在することはお勧めできません、今日1日でこの事件を解決してください」
「魔想体の場所は?」
「場所は鉱山地帯の奥地です。ですが…落盤により道が塞がれているようです」
「っ……!」
マップで魔想体の位置を確認した時、ルーデンスは感じ取った、それは、かつて自分達が落盤事故にあった場所だと。
「目的地は分かりましたね、では、行動を開始してください、イストリアの方々も来てますので」
『了解』
そうしてスレイ達は行動を開始するが、まずはどこに行けば…と思う。するとルーデンスは慣れたように近くの酒場に入って行った。
「邪魔するぜ」
「ルーデンス! また密猟に行く気か?」
「そんなところだ、そこで、鉱山内部が落盤で閉じちまってるところがあってさ、火薬が必要なんだ、火薬を扱ってるところを知ってるかい?」
「それなら、向かいの鉱夫用の店で買うといい。ただ爆薬の威力は高いらしいから、注意するんだぞ」
「ありがとな………じゃ」
寂しげに別れを告げると、ルーデンスは店から出てきた。
「これからどうするんだ?」
「あそこで爆薬を買う。通貨なら前に使ってたのをまだ少し持ってるから安心してくれ、そしてその爆薬で鉱山の落盤箇所を吹っ飛ばして道を作る。そして魔想体とご対面ってわけさ」
「簡単に言うけど、やれるのか?」
「いつもやってきた手慣れた作業だ、任せてくれ」
そうしてルーデンスは鉱夫用の店で爆薬を買ってくると、鉱山を回る準備をし始めた。
「チリとかまってるからな、マスクは確実につけておけよ」
「炭鉱に詳しいんですね、ルーデンスさん」
「昔からずっと密猟を続けてきたからな、裏ルートだが炭鉱の方法は一通り知ってる」
準備を続けていると、イストリアの人がやってきた。今回やってきた人はボサボサの頭で、目にクマがあって不健康そうなメンバーだった。
「今回貴方達のサポートを務めさせていただきます。特査四課のリリーと申します…」
「随分と覇気のない奴が来たな、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょう…! 魔素に満ちたゴーストタウンの探索なんて,さっさと終わらせて帰りたいくらいですよ…!」
そう言うとリリーは恐怖で震える。まぁ、頼りにするしかないかとルーデンスは思うと、リリーに手を差し伸べた。
「今回はよろしく頼む」
「は、はい! よろしくお願い…します」
リリーと挨拶を終えたところで、スレイ達は鉱山攻略の作戦会議に移るのだった。