円満な解決
魔想体は無事イストリアの回収チームに明け渡され、スイーティーパラダイスの国王も連れて行かれた。これによりこの世界での任務は終わり、スレイ達は3日目の休暇の期間を楽しむこととなる。
「やった! やった! ついに直産品のスイーツ食べ放題だー!」
サーシャがはしゃぎ回る中、スレイ達は国の直営店でスイーツバイキングを楽しむこととなった。魔想体の影響もなくなり、高カロリーなスイーツもなくなり、彼らは美味しいスイーツを無事ご馳走になることになる。
「本当にこれ食っても大丈夫なのか?」
壊れた義手を取り替えたルーデンスが、ナイフとフォークで優雅にケーキを捌きながら言う。
「ええ、これらの料理からは魔想体の魔素は検出されてません。食しても問題はありませんので」
「バス運転してただけだけど私もケーキ食べれるやったー!」
リコッタも大量のケーキを取っては貪り食べていく。これではせっかく高カロリーでは無くなったのに意味ないではないかと一同は思った。
サーシャも食べまくっていて、この2人の女性陣に関しては、もう何も言わない方がいいと男性陣は思った。
一方、フィアネリスはルーデンス同様優雅に食べていた。紅茶を嗜みつつも、ケーキを味わって食べ、いつもの冷たい表情とは打って変わって喜んでいた。
「フィーネもそんな顔するんだな」
「私を機械か何かかと勘違いしてませんか? それはそれは、私も喜びますよ。この国の名物をこうしてしっかりと味わえるのですから」
そうしていると、桐枝達イストリアの人もバイキングに入ってくる。そして桐枝はフィアネリスを見た途端,真っ先に駆け寄ってきた。
「フィーネ先輩! お疲れ様っす!」
「はい、桐枝さんもお疲れ様です」
2人でニコニコ笑顔で会話を始めるが、桐枝が気になることを言った。
「いやーフィーネ先輩も来てたんすね、でもおかしいっすね、今回の任務、担当するのはきりちゃんだけのはずなのに」
桐枝がうーんと悩みながらフィアネリスの顔を見る。フィアネリスは笑顔を崩さないままだ。
「偽物に見えないし、そっくりさんってわけでもないっすよね」
「はい、私は正真正銘フィアネリスです。桐枝さんのこともよく知ってますよ、行きつけの店からスリーサイズまで」
「そんなこと聞くあたりやっぱりフィーネ先輩っすね⁉︎」
あわわわと桐枝が止めようと中、フィアネリスはイタズラっけに笑う。だが、フィアネリスは次の瞬間、含みがあるようなことを言った。
「けど、私は貴方の知っている私ではございませんよ。私であって私でない、別人ですよ」
「なんだかよくわかんないっすけど、きりちゃんの知り合いのフィーネ先輩ではないことは分かりました」
うーんと悩む桐枝に笑いかけると、フィアネリスは言う。
「とにかく、貴方も無事で良かったです。まさかこの任務にあなたが来るとは思っても見ませんでしたから」
「えへへ、しぶとさが取り柄っすからね、ウチの四課は」
そんなこんなで会話を終えると、次はスレイ達に桐枝が近づいてきた。
「仕事、お疲れ様っす」
「あぁ、お疲れ」
「誰も死なずに仕事が済んで良かったっすね、まぁ少々危ない場面もあったっすけど」
あははと桐枝は笑う。スレイ達も誰も犠牲がなく済んだことが嬉しいのか、ほっとしていた。
「また今度、同じ仕事になったらよろしくっす、きりちゃん達が全力でサポートするんで」
「ありがとう、俺も、また会えることを楽しみにしてるよ」
桐枝と握手をまた交わすと、スレイ達は会話を終え、桐枝達と一緒に、バイキングを楽しんだのだった…。
ーーー
「いやー! ケーキ美味しかったなぁ!」
「ですね、久々です、あそこまで美味なお菓子を食べたのは」
サーシャとレインがにぱーっと会話を交わす中、一同はバスに戻ってきていた。観光客はお菓子を食べれたことを満足そうにしていたが、一部、事件解決前にお菓子を食べたのか、出発前より太った人物がいた。
「皆様、今回の旅はいかがでしたでしょうか? もし楽しめたのであれば、都市ミズガルズ公式旅行サイトで私達ワールズストレンジャー社に高評価をよろしくお願いします♪ それでは、当バスはミズガルズへ向けて発車いたします。異世界転移があるので、シートベルトをしっかりと着用して、転移に備えてください♪ もし仮に太った方がいたとしてもご安心ください、シートベルトは貴方方の体型にぴったりフィットするよう魔導技術で設計されてますので」
フィアネリスに言われ、全員がシートベルトをつける。それを確認したフィアネリスがリコッタに合図を送ると、バスは走り出した。
菓子王国スイーティーパラダイスから抜け、クリームの野原とジュースの川が流れる草原地帯を走る。
「あの桐枝っていう四課のやつ、スッゲー強かったな」
「ああ、ああいうのが、英雄って呼ばれるやつなのかな」
帰り道に、ルーデンスと共にスレイはそんな会話をする。
「けど,あんな子供が戦場に駆り出されてるってのも、なんとも言えない話だよな…」
「仕方ないだろ……裏路地だって、子供が毎日必死に生き延びようと殺しとかやってるんだから」
スレイは窓の外の夕焼けを見ながらそう言う。今日も夕焼けが綺麗で、バスの中を暖かく明るく照らしていた。
「俺たちはラッキーだよ、危険な仕事ではあるけど、ちゃんと収入が出て、ちゃんと生きていける仕事につけてるんだから」
「そうだな、ハイリスクだが、ハイリターンな仕事をこうして続けてられてる、いいことだと思う」
ルーデンスがタバコに火をつけると、吸いながら言った。
「今回は、誰も犠牲がなくて良かったな、後味の笑い終わり方じゃなく、円満な解決になった」
「あぁ、俺もそう思う。誰も死ななくてよかった」
そうしてスレイは窓の外を眺め終え、今度はフィアネリスを見た。気になることが一つあったから。
「っ? 何か私についてますか?」
「ああいや、違うんだ。さっきの桐枝との会話が気になってさ、フィーネは、桐枝の知ってるフィーネじゃない、これってどう言う意味なのかなって思って、フィーネも桐枝も、お互いのことを知ってるのに、なのにフィーネが別人って言うからさ」
「あぁ、その話ですか。そうですね……今言ったってどうせ何も変わらないし、この話はまた今度、機会があったら話しましょう」
「そうか…分かったよ」
そうしてフィアネリスと話し終え、スレイは再び、今度はフィアネリスも一緒に窓の外の夕焼けを眺める。この仕事をするにおいて、夕焼けを眺められることがどれだけ嬉しいことかと、実感していた。と、バスの中で全員がほっとしていた時だった。
「実はお土産もらってきたんですよー! 帰ったらまたみんなでケーキ食べよう!」
サーシャがそんなことを言ってケーキの入った箱を出した途端、スレイ達は思った。"もうスイーツは食べ飽きた"と…。