新たな魔想体
魔想体の回収により、会社の経営がいい方に傾き始め、バスでの旅も黒字が出始めた。
異世界転移による旅にも慣れてきて、道中でワイバーンに出逢おうがもはや日常なんだとスレイ達は慣れてきた。
そんな中だった
「次の魔想体が見つかりましたよ」
少しだけ豪華になった社員寮にてそんなことをフィアネリスに言われ、スレイ達は急いでブリーフィングルームに行く。ブリーフィングルームに着くと、早速フィアネリスが説明を開始する。
「今回の魔想体の出現異世界と場所はここ、菓子王国スイーティーパラダイス、その名前の通り、お菓子の都市です」
「知ってる! この前テレビで見た! 美味しいお菓子がたくさんあるところだよね!」
ブリーフィングの最中なのにサーシャが目をしいたけのようにキラキラさせながら言う。だが、ダリルがこづくと元に戻った。
「その通り、都市中がお菓子に塗れた都市で、その都市の住民はお菓子をこよなく愛しています。ですが、この都市で最近、魔想体による異変が観測されました」
異変と聞いてスレイ達対策チーム6人は身構える。前回は異変が出る前に回収できたが、今回は異変が出た後に回収することになるのかと。
「この王国で作られる直産品のお菓子のカロリーがなぜか非常に高くなり、住民の肥満化が進行しているようです。更に、その事を王国の王に伝えても、王はその対処をせず、むしろ菓子を作ることを推奨してます」
「えーっ! てことは、王国のお菓子を食べるとすごく太っちゃうの⁉︎」
「そういうことになります」
サーシャが残念そうにすると、フィアネリスが率直に答えた。
「今回の事態を受け、その世界、第48支部のイストリアは魔想体危険度をEからDへと上昇、我々に依頼をしてきました」
「それで、今回の魔想体の場所は分かりますか?」
「場所は判明しています。今回は、王国の直属のお菓子工場の奥、そこに魔想体があり、その魔想体の影響で王国の直産品のお菓子が影響を受けているのだと仮定しています」
「じゃあ! その魔想体の対処さえすれば! お菓子食べ放題なんですね!」
「そうかどうかはまだ仮定の段階ですが、まぁ概ねそうでしょう」
フィアネリスは苦笑いで笑う中、サーシャは頑張るぞーと息巻く。そう言うわけでバスへと向かうスレイ達、今回もまた観光客がいた。
「異変のある都市なのに観光客が行きたがるのかよ⁉︎」
観光客のざわめき具合に思わずルーデンスは口に咥えてたタバコを落としそうになる。だが、ローランドは冷静に分析した。
「いや、逆だろう。異変がある今、リスクを冒してでも格安で旅行に行きたいと言う観光客がいるのだと思う」
「自分の身に何が起こるかも分かっていながら、よくもまぁ行きたがるもんだ、こりゃ帰りのバスの重量が増えるぞ、サーシャ、間違っても異変解決前に菓子を食いに行くんじゃないぞ」
「分かってますよそんなこと! 私だって激太りしてまでお菓子は食べたくないもの」
サーシャが当たり前だと言うように指を振る。だがやらかし癖のあるサーシャだ、何をしだすか分からないから残り5人は心配になった。
「では、観光客の皆様は当バスにご乗車下さい♪」
フィアネリスに連れられるまま、観光客達はバスに乗車していく。スレイ達も乗車し、全員がいつもの席に座る。そして客が全員乗ったことを確認すると、バスのドアが閉まった。
「それでは、当バスはこれより菓子王国スイーティーパラダイスへと出発致します。ボンボヤージュ♪」
そうしてリコッタがバスを運転し始め、フィアネリスが旗を振る。
「皆様、本日は当旅行に参加いただきありがとうございます♪ 私はバスガイドのフィアネリスと申します。お気軽にフィーネと呼んでいただいても構いません。間も無くバスは菓子王国スイーティーパラダイス周辺へ向けて異世界転移を行います、揺れますのでシートベルトの着用をお願いします。転移酔いに弱い方は是非お申し付け下さい」
シートベルトをつけたスレイ達を確認するとフィアネリスは手を掲げて言った。
「ではこれより転移します。5、4、3、2、1、転移開始!」
転移が始まり、以前と同じように身体の中身が揺さぶられるような感覚に襲われる。しかしそれに慣れるころには転移終了の頃合いで、転移が終了すると、バスはクリームの野原とジュースの川が見える道を走っていた。
「転移完了しました、皆様、前方をご覧ください、前方に見えるのが菓子王国スイーティーパラダイスでございます♪ 現在あの王国では異変が発生しており、王国直産品の菓子を食べた者は激太りすると言う事件が多発しています。この旅行では安全な菓子を選んで食べますが、それでも直産品の菓子を食べたいと言う命知らずの方は自身の体重に警戒を♪」
フィアネリスは笑顔でえげつないことを言うと、観光客に言った。
「数十分後に王国に到着します。そうしたら下車をして私がガイドしての旅行を行います。皆様、はぐれないようしっかりついてきてくださいね」
ーーー
スイーティーパラダイスに着き、下車した全員はまず最初にお菓子の甘ったるい香りにえずきそうになった。
「菓子の王国とは聞いていたが……ここまで甘い香りだとむしろ食欲をなくしてしまう」
「えーそう? 私はお菓子食べたいなーって思ったんだけど」
「サーシャさんだけですよ…この匂いの中でなおお菓子を食べたいと思っていられてるのは」
だってお菓子は別腹だからね、とサーシャはドヤ顔で言うが、一同はそう言う問題ではないとツッコむ。
ひとまずここで、直前にリコッタとした第二のブリーフィングのことを思い出した。
【いい? まずこの国の国王と謁見すること、私達がワールズストレンジャー社だと分かれば王城の道も通してくれると思うから,だからまずは王様に会うこと、王様と会ったら、直産品の菓子の生産の一時停止を呼びかけること、まぁ無駄だと思うけど】
そうリコッタに言われたのを思い出して、まずは6人は王城へと向かった。
途中、王国の住民をチラチラと見かけた。やはりどの住民も太っている。殆どの住民が太っているあたり、この都市の住民の太り具合は致命的らしい。
歩いているうちに王城についた。王城はクッキーやチョコでできた巨大なお菓子の城だった。
「ワールズストレンジャー社の者ですね、王様との謁見が許可されてます……どうか、王のご乱心をお収めください」
お菓子の国の兵士にまでそう言われ対策チームは王城の中へと入り、謁見の間へと向かう。そこへ向かう間も王城にいる貴族を見てみたが、やはり太っていた。
「みんな太ってるね…」
「それだけ皆直産品のお菓子を食べさせられてるんだろう、もうすぐ謁見の間だ。王の前だ、下手な気は起こすなよ」
そうして謁見の間の前の扉に立ち、スレイ達は謁見の間の扉を開く。その先にいたのはお菓子の国の王だった。
「よくぞきてくれた、ワールズストレンジャー社の諸君、国をあげて歓迎しよう」
王がそう言うと給仕の人たちがお菓子を持ってきた。彼らの前にそれが並べられると、王は言う。
「さぁ、好きなものを食べるといい、この国の直産品だ。とても美味だぞ」
やはり直産品かとスレイ達は思う、サーシャだけが涎を垂らしていたが、ダリルが頭を叩いて正気に戻すとスレイは言った。
「失礼を承知で言いますが、国王陛下、なぜ魔想体の影響を受けて菓子が高カロリーである中、それの存在を許しているのですか?」
スレイは率直な質問をした。すると国王はこう答えた。
「あの物質の効果で高カロリーになればなるほど美味に味が出来上がるからだ、さぁ食え、遠慮などせずに」
「お言葉ですが国王陛下、我々はこの菓子を食えません。我々は、この異変の解決に来たのですから」
そう言うと、王は残念そうな顔をすると、言い放った。
「ならば……この者達を牢屋に捕えろ! 彼らは国家反逆者である!」
兵士たちが槍を構えてスレイ達に向ける。スレイ達は戦う準備をする。すると、物語の転写が行われ、彼らが適切に戦える姿に変わった。その姿はバイオレンスな装備をしたパティシエだった。
「戦闘開始! この城から抜け出すぞ!」