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ワールズストレンジャー  作者: 遊戯九尾
第二章 怪異植物都市ラップローズ
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見つけた元凶

「魔想体…」


 スレイが紫色のキューブを見て、雇用契約時に見た物を思い出す。しかし、あの時のとは違い、この魔想体は幾分か小さく見えた。


「よし…回収するぞ……」


 スレイは回収用アイテムボックスを持つと、ゆっくりと近づき、魔想体を回収しようとする。するとその時だった。


「っ! 下がってください!」


 メイの言うままに下がると、魔想体が変化し、体を形成し始めた。作り上げられていくのは紫色の樹木で、それが生成されると、その場から動かず、樹木は佇んだ。


「なんなんだアレ⁉︎ ただ回収すればいいだけの簡単な仕事じゃないのかよ!」


 ルーデンスが思わず毒吐く。だがメイは言った。


「活性化してる魔想体を回収するには魔想体が変化したなり損ないの制圧が必要です! 兎に角! あのなり損ないを倒してください!」

「ちくしょう! 楽な仕事かと思ったら結局戦うのかよ!」


 総員が槍と剣を構える。すると、なり損ないは枝を伸ばしてきた。


「避けて!」


 伸びてきた枝をスレイはギリギリで回避する。しかし枝はさらに伸びてきて、スレイをまっすぐに捉えてきた。


「くそっ!」


 スレイは枝を剣で切る。すると、なり損ないの枝は燃え盛り、もう伸びなくなった。


「枝が伸びれば伸びるほど逃げ場がなくなる! 短期決算で終わらせるぞ!」


 スレイは枝が伸びてこない今のうちにと樹木を切り裂こうとするが、新たに樹木から枝が伸びてきて彼の体を掠めた。


「このぉおおおおっ!」


 枝を叩き切ると、樹木の根元まで行き、剣で切り裂く。木を薙ぎ倒すことはできなかったが、焔で燃え上がらせることには成功した。


「リーダーに続け! 俺たちも意地を見せるんだ!」


 ルーデンスがそう言うと、右腕の義手が変化し、装着された火炎放射器で、木を燃やす。かなり高威力の火炎放射なのか、紫色の木が真っ赤に燃え上がった。だが、なり損ないは止まることなく次の枝を出す。ルーデンスに向けてその枝が伸びていくが…。


「邪魔はさせない!」


 サーシャが木の枝を次々と切り裂き、根元まで行ってフェイタルポイントを切り裂いた事で木に大ダメージを与える。着々と敵にダメージは与えられていた。


「焔の瀉血よ、燃え上がれ!」


 ダリルが血液を弾丸として飛ばす。それが木に命中すると、命中した箇所から炎が溢れ出た。


「行ける!」


 レインが氷の壁を形成し、枝を防ぐと、それを足場にして飛び上がり、火炎放射器のついた槍を突き刺し、焔を放った。なり損ないのダメージも限界が近づいてきているのか、形成した体が溶け始めている。


「最後まで気を抜かないように」


 ローランドが肉体硬化を行い、枝による一撃を防ぎながら突貫すると、同じく槍を突き刺す。するとなり損ないが悲鳴をあげ、あちこちに枝を伸ばし始めた。


「やばっ⁉︎」


 スレイが時間操作でなんとか回避していくが、そんな中、華麗な剣術で枝を捌く者がいた。


「容易いものね、小さな魔想体なこともあって」

(あれが……異世界特別調査隊四課の本当の実力!)


 メイの剣術を見て、スレイは本物の戦場を知る者の強さを知った。メイは燃え盛るなり損ないから溢れ出る枝を次々と切り裂いては接近し、その手のロングソードでなり損ないをズタズタに切り裂く。すると、なり損ないの核となる、魔想体の紫色の物体が見えた。


「これで終わり!」


 メイがパイルブレードに手を伸ばし、専用の素材、"白銀"が使われたパイルを構えると射出する態勢に入る。だが、その時だった。


「ーーーっ!」

「メイィイイイイッ!」


 なり損ないが最後の足掻きで枝を伸ばし、メイを貫いたのだ。


「けほっ……そん…な……」


 メイはパイルブレードを落とし、枝を折ろうとする。しかし、力強く生やされた枝を、メイは折ることができなかった。スレイはどうすればいいか悩んだ、メイがやられ、自分たちに何ができると。すると、目の前にパイルブレードが落ちてきたのが見えた。先程メイはこれをあの核に突き立てようとしていた。これを使えば奴を倒せるんじゃないかと。


「うおおおおおお!」


 スレイはパイルブレードを手に取り、なり損ないに近づく。枝が伸びては彼を貫こうとするが、時間操作ですり抜けるように避けで近づくと、ゼロ距離を取った。


「これで、おわりだぁあああああああ!」


 パイルブレードが射出され、核を貫く。核が破壊されると、なり損ないは燃えながら枯れていき、そして最終的に、魔想体へと再び元に戻っていった。

 元に戻った魔想体は力を失い、淡い光だけを残して瘴気を放つのを止める。スレイは速やかにそれをアイテムボックスの中に入れると、メイに駆け寄った。


「メイ! しっかりしろ! メイ!」


 スレイはメイに声をかける、だがメイはもう虚ろな目をしていて、息も絶え絶えだった。


「あぁ、折角イストリアで正義の味方になれると思ったのに、お父さん、お母さん、ごめんね…」

「何言ってるんだ! こんなところで死なせるわけに行くか!」


 スレイは支給品の粗悪品の回復アンプルをメイに打つが、傷は塞がらず、メイの体からは血が噴き出るままだ。


「あぁ、そうだ、おばぁちゃんに贈り物をしないといけないんだった、冬場でも寒くならないようにケープを送らなきゃ…」

「死ぬな! 死なずに生きて、家族に会うんだ!」


 何度も何度もアンプルを打つ。だがそれでも傷は塞がらない。


「……あぁ、死にたくないなぁ、やりたいこと、まだたくさんあるの……に……」


 そう言うと、メイは力尽きた。それを見たスレイは声を荒げる。


「メイ……メイ! ……ちくしょおおおおおお!」


 スレイは己の非力さに嘆いたのだった。お堅くて自分たちのことをゴロツキだと言っては罵っていた彼女だが、だがスレイにとっては彼女は仲間だと思っていた。だがそれが、あっという間に死に、死に際の言葉でさえも、虚しいものであった。

 自分より遥かに強かったかもしれない、自分達より遥かにいい暮らしをしていたかもしれない。帰る家が、仲間達があったかもしれない。それなのに彼女はあっさり死んだ。

 周りの仲間達も、同じ気持ちだったらしく、例えゴロツキと言われても、同じ任務を共にする仲間であった以上、死なれたのがとても辛く感じた。

 スレイはその死に悲しむと大声で叫ぶのだった。


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