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エンジンの音

 アスファルトを踏み抜きながら走るバスに、揺れる車内。外はもう夜で、もう遅く、バスの旅は、終わりを迎えようとしていた。

 そのバスは、バスにしては異様な形をしていた。見た目は軍用の装甲車を旅行用バス並みに長くしたような見た目で、壁は全て鉄製、窓も強化ガラス、タイヤも下手にパンクしない特殊仕様とかなり異質なバスだった。


「えー皆様、ここまでの長旅お疲れ様でした♪ 今回の旅はいかがだったでしょうか? 楽しめましたか? もし楽しめたのなら、都市ミズガルズ公式旅行サイトで私達ワールズストレンジャー社に高評価をよろしくお願いします♪」


 車内マイクを手に取りながら、三対の翼を持つ琥珀色の瞳と赤毛の天使がそう言う。そんなバスの車内だが、ほとんどの者がぐったりとしていた。長旅による疲れ……には見えない、皆やつれた顔で恐怖に耐えるようにシートベルトをしっかりつけてぐったり座り込んでいた。


「今回の旅路も低評価がつきそうだね、フィーネ」

「えー? 私は楽しかったと思うのですが、ワイバーンの群れが火を吐く中リコッタさんが華麗なドライビングテクニックでそれを全て避けるシーンなんてドキドキしてワクワクが止まりませんでしたよ」

「そーいうことになるから低評価になるの、はぁ、このバスをオーバーホールするのも高くつくのに、こんなんじゃ今月も赤字だよ?」

「心配なんてありませんよ、仮に赤字でも次取り返せばいいのですし、我々には強い味方がついているのですから」


 そう言ってフィーネと呼ばれた女性はチラリとバスの一角に座る集団を見る。その者達は全員が黒いジャケットを着て、物々しい表情で座り込んでいた。


「トラブル対策チームのこと? 最近導入されたって言うけど、確かに心強いよ? 今日だってワイバーンを追い払ってくれたし……でも客がこんなんじゃ彼らの分の給料も払えないよ?」

「いいではありませんか、我々には、"目的"があるのですから」


 目的、そうは言っても…とリコッタが言っていた時だった、裏路地に入る手前で人の集団に止められた。


「そこのバス! ……バスかこれ? まぁどうだっていい、止まりな、怪我したくなかったら大人しく客の荷物から金目の物を出せ!」

「わぁ、大変、裏路地のチンピラに捕まっちゃった」


 リコッタが困ったようにハンドルから手を離し、サイドブレーキを引いては車を止める。チンピラの集団はバスの横に立つと、ドアをドンドンと叩いた。


「開けろ! 旅行客がいるのは知ってるんだ! 金を出したらここを通してやる! いいから出せ!」

「やめてよー、ドアを叩くの、せっかく綺麗にしたのにまたキズモノにされるのやだよー」


 状況の割に落ち着いているリコッタ、チンピラ達がドアを破ろうとするが、装甲でできたこのバスのドアを破るのはできなかった。


「まぁ、旅には最後までトラブルはつきものですね、お客様の皆様、現在強盗に絡まれてますがご安心ください、本バスは予定通りキチンと目的地に辿り着くので」


 そう言ってはフィーネは指をパチンと鳴らす。すると、一角に座っていた物々しい集団が立ち上がった。


「トラブル対策チームの皆様、出番ですよ、これより"物語を転写"します。その力であのチンピラを叩きのめしてください♪」


 そう言ってフィーネが多数の魔法陣を物々しい集団に張ると、彼らにそれぞれ武器が持たされた。その武器は、聖剣や聖槍、妖刀に魔剣と、幾多の英雄譚の主人公達が握ってきた武器で、それを手にしたトラブル対策チームと呼ばれた者達は外へと出ていく。


「ようやく出てきてくれたか、さあ金目の物を…!」


 ドアの先頭に立っていた男がそう言うが、次の瞬間、首がはね飛ばされる。


「な、なんだ⁉︎ やる気か⁉︎」


 チンピラ達が武器を構えるが、構えて攻撃に身構えていたにも関わらず、一瞬で次々と倒されていく。


「何者なんだ奴ら⁉︎ 俺たちが襲うバスは護衛なんて乗ってない筈だろ⁉︎」

「あんなの知るか! 護衛で出す強さじゃねぇ! 奴らは、怪物だ! 逃げるぞ!」


 そんな言葉を吐き、チンピラ達は逃げていく。それを確認したトラブル対策チームのメンバーからは、武器が虚空に消え、辺りには静寂が残った。


「どうでしたか? 怪我人などは?」

「いない、お前の力のおかげだ」


 チンピラがまだ残ってないか確認すると、トラブル対策チームはバスの中に戻ろうとする。そんな中、隊長と思わしき男にフィーネが話しかける。


「スレイさん、先程のチンピラについてどう思いましたか?」

「あの練度から、裏路地の組織じゃないな、ただの物乞いだ、気にするような連中じゃない」


 そうしてスレイは他の仲間と共にバスに戻り、バスは扉が閉まり再び走り出す。夜闇の静寂を掻き分けながら、先程までの戦いを予定調和だと忘れ去るように…。

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