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37.戦場デート


 ユーリと一緒に馬を降り、敵陣に向かって駆け出した。真の血の覚醒状態のユーリとオレは瞬く間に速度を上げた。

 魔族軍から放たれた矢や魔法の狙いは甘く、オレたちは避けるまでもない。


 やっと、やっとユーリと二人きりになれた。

 軍議から以降、ずっとユーリには家臣や将軍たちがついて回り、中々二人きりになれなかった。だけど、この戦闘でなら、オレとユーリで邪魔する者を薙ぎ払い、この戦場という名のデートスポットで、誰にも邪魔されない時間を過ごす――最高じゃないか。


「やっと2人きりだな、ユーリッ!」


 嬉しさのあまり、思わず声をあげた。

 戦場のただ中だというのに、何を呑気な事を。とユーリに怒られそうだが。だけどユーリは満面の笑みを浮かべて応えた。


「ああ、やっと2人の時間だ。行こう!!」


 どうやらユーリも同じ気持ちだったようだ。オレは頷き、2人同時に魔族軍へと切り込んだ。


◇◆◇


 まずは後続に続く兵たちのために魔族軍の前線を掻き回す事が目的だ。

 となると、ユーリは前線を横断しながら戦うつもりか?


「ヤマト、手を出して」


「ん? 何するんだ?」


 促されて手を差し出すと、ユーリはその手を握った。


「デートって言ったらさ、やっぱり手を繋がないと。だろ?」


「まったく……。戦場の、それも敵地のど真ん中で何言ってんだ」


 少々呆れ気味に応えて、だけどユーリの手を強く握った。


「まあでも、この程度じゃあハンデにもならないけどな」


「そういう事!! やるよヤマト!」


「応! ユーリ!!」


 その後は、まるでデートスポットを散策するかのように、ユーリと2人、一緒に前線を横断した。後続の兵たちの談によれば、それは一方的で、圧倒的なほどで、まるでハリケーンに巻き込まれた家屋や家畜のように、魔族軍は抵抗する事も出来ず手の付けようが無かった、だとか。


 当の俺たちはというと、お互いの事しか見えてなくて、そんな事が起きているなんてまったく気付いていなかった。


「なあヤマト」


 前線を折り返したくらいの場所で、ユーリがお願いごとをするかの様な視線と言葉をかけてきた。


「どうしたユーリ」


「なんか疲れたな~。抱っこして?」


 そう言って、オレに向かって両手を広げた。周りには魔族軍がいるにもかかわらず、だ。


「ユーリ、オレがお前を抱っこして、誰が魔族軍を相手するんだよ?まさか腕の中のユーリがやる、とか言うんじゃないだろうな?」


「そんなの無理だよ疲れたんだし、魔族軍はほら、ヤマトの足があるじゃん?」


 とんでもない事を言い始めたよ、このお姫、いや女王さまは。

 だけど、ユーリを無防備なまま晒しておくわけにもいかない、とお姫様抱っこした。


「お前な……本当に何もしないつもりか」


「大丈夫、ちゃ~んと方法があるから。ヤマトのオーラを硬質化させれば体当たりだけでいけると思わない?」


「オーラの硬質化……って、そんなのやった事ないぞ」


「大丈夫、ヤマトは聖竜の加護を受けていて、今は私と密着してる。だからオーラが混ざり合ってて……」


 そこまで言った後、ユーリは目を閉じて集中した。

 するとオレのオーラに変化が起きた、それを感じられた。ユーリによって、オレのオーラが硬質化したのが分かった。

 ユーリは閉じていた目を開け、腕の中からオレを見上げた。


「ね? あとはヤマトがオーラの範囲を広げれば、走り回って体当たりだけで済むよ」


 オーラの範囲を広げる……って。簡単に言ってくれる。だがユーリが言うなら、やるしかない。

 目を瞑り集中する。自分のオーラのコントロールを初めて試してみる。それは今までやった事の無い、コツすら分からない状態だ。だというのに、それがあっさりと出来た。まるで補助輪のついた自転車に乗るがごとく、倒れる事の方が難しいと感じるくらいに余裕があった。


「……出来た」


「ね? 簡単でしょ?」


「……ユーリのお陰だろ」


「バレたか、でもコツを掴めばもう大丈夫だから」


 ユーリがオレの補助輪となって、支えて、コツを教えてくれた。だからこんなにも簡単に出来たんだ。


「愛してるぜ、相棒」


「バッ、バカ!! 急にそういう事を言うな!!」


 いきなりの愛の告白に、オレの腕の中で顔を真っ赤にするユーリ。本当に可愛いと思う。


「さてと、じゃあ蹴散らしますか。愛するユーリと一緒に」


「バカ、はよ行け」


 半分拗ねる様にユーリに促された。そんなところも可愛い。


 前線の残り半分をユーリを抱き抱えたまま走り抜けた。

 その様子は後続の兵の談によると――はもういいか。


 余りにも圧倒的な戦力を持つオレたちに対して、恐怖から魔物の一部は逃走を始めた。一部が逃走を始めればどんどんと恐怖が広がり、魔族軍の前線は崩壊した。


「ヤマト!!もっと奥へ!!」


 後続の兵たちも追いつき、白兵戦が始まった。ユーリの声に合わせ、オレはさらに敵本陣へ向けて駆け出した。魔族軍と王国軍の戦いはもう大丈夫だ。師匠たちもいるし、さらにオレとユーリが魔皇帝を倒せば、押し勝てるだろう。


 それにオレたちの目的は魔皇帝、邪竜だ。向こうの目的はオレたちのはず。ならば、後はまっすぐ本陣の奥へと向かえば、目標に到達出来る。


◇◆◇


 魔族や魔物どもを跳ね除け(はねのけ)、掻き分けて、魔族軍本陣へと辿り着いた。

 抱えていたユーリを降ろし、正面を見据える。そこには、6本の禍々しい角を持つ、青黒い肌に紅い目をした魔族が1体、そしてその傍には角が4本の魔族が4体、オレたちを待ち構えていた。


「よく来たな。聖竜の血を引きし者とその勇者よ。……ふむ、ブレイディを倒すほどの者がどの程度かと思えば……大した事無いではないか。あやつめ、さては油断でもしておったか」


 今のオレとユーリは、オーラを極力消耗しない様に抑えていた。

 圧倒的な威圧を放つ6本角の魔族は、退屈そうに続けた。


「――この程度で我の手を煩わせるな。貴様らで始末せよ。 ……だが、何も無くてはつまらんな。 よかろう。こやつらを屠った者には軍団長の地位を授ける。せいぜい励むといい。 聖竜の子孫よ、足掻いてみせよ」


 6本角の魔族、いや魔皇帝はユーリを指した、同時に、4体の魔族の視線が一斉にユーリに向いた。

 魔族の1体が反応するように素早く動き出し、ユーリに攻撃を仕掛けてきた。その速度は早く、かなりのものだ。


「俺様が一番手柄だっ!!」


 ――しかし。それでもオレたちよりも遅い。フランより少し早いくらいか。今までの勇者であれば、その速さで圧倒する事も出来ただろう。


 飛び出した魔族の攻撃を、ユーリは難なく盾で受け止め、すれ違いざまに切り払った。


「魔皇帝、長く眠りすぎてまだ寝ぼけているみたいですね。 この程度の者で私たちを倒せると思わない事です」


 ユーリは挑発する様に魔皇帝に剣を向け、言い放った。


「魔皇帝さまに対する侮辱、人間風情に許されるものではないぞ!!」


 挑発に反応したのは魔皇帝ではなく、その周りにいた4体、いや3体になってしまった魔族のうちの1体だった。


「マホルスは我ら近衛騎士の中でも一番実力が足りない阿呆だ。それを倒した程度でいい気になりおって。 だがこのマニグス様は違う、近づいて戦うなど野蛮な事はしない、くらえ我が魔法を!!」


 マニグスとやらが呪文を詠唱し始めた。魔力量もそれなりに多く、そして詠唱も早い。確かに魔法が得意そうではある……だが!

 一瞬で踏み込み、討魔正宗を切り上げてマニグスを真っ二つに切り裂いた。


「遅い。この距離で悠長に詠唱なんてしてるからだ。それともあれか?今までの相手は魔法が完成するまで待っていてくれたのか?」


「グ……ギ……!!」


 マニグスは言葉にならぬうめき声をあげ、そのまま倒れた。

 これで後2体、どうやらこいつらは近衛騎士とかいう、いわば魔皇帝直属の魔族の様だが……弱すぎる。ブレイディは第1軍団長だけあって、強かったという事か。


 残された近衛騎士の魔族2体はそれでも全く動揺している様子がなかった。これだけの実力を見ても俺たちにまだ勝てる気でいるようだ。


「やるではないか。マホルスに続きマニグスまでこうもあっさりとはな。 ……だが所詮やつは近接戦闘を不得手とする魔法の使い手にすぎん、我らであれば――」


「ほう、思ったよりやるではないか。モンタリウスにロジャールよ、我が力の一端を与えてやろう。 ――聖竜の血を引きし者と勇者よ、我を楽しませて見せよ」


 残された魔族のうち、いかにもリーダー格の魔族の言葉を遮り、魔皇帝が動いた。

 魔皇帝が両手を広げると同時に、漆黒の闇が2体の魔族の身体を覆った。

 魔族は少しだけ苦しそうに呻いた後、青黒い身体はさらに黒く、全身が闇のように染まっていた。


「おお……力が溢れてくる。 魔皇帝、力を頂き感謝の極み。必ずや聖竜の子孫を屠ってみせましょう。ロジャール、お前は勇者の方をやれ」


「魔皇帝さま、ありがとうございます。その期待に応えてみせます。――勇者よ、俺が相手だ」


 どうやら、ユーリの相手をモンタリウス、オレの相手をロジャールがするようだ。


◇◆◇

 

 オレの相手であるロジャールとやらは、正直言って全く実力不足だった。魔皇帝に力を分けてもらってすら、ユーリが倒したブレイディの幹部より弱い。

 もしかしたら邪竜も復活したばかりで力が万全では無いんじゃないか?と思うほどだ。さっきまでの2体といい、こんなのが近衛騎士というのは拍子抜けだ。


 だが、冷静に考え直してみれば、この程度の強さですら、オレやユーリでなければ相手出来る人間はいないだろう。師匠やフランでも1対1では勝ち目が薄い。

 そう考えればこの魔族も十分に強かった、というわけか。


 最初は魔皇帝に手の内をみせないように手を抜いて戦っていたが、全力を出すまでも無く倒せる相手だと分かり、閃光十字斬(せんこうじゅうじざん)で倒した。


 隣で戦っているユーリの相手、モンタリウスはこのロジャールより強いようだ。ユーリほどの強さではないけど、油断出来ない程度には危険な魔族だ。

 戦いはユーリが優勢で、このまま何事も無ければユーリの勝ちだろう。

 だけど魔皇帝が控えているんだ、また力を与えられでもしてユーリより強くなられたら面倒だ。


「ユーリ!! 全力の奥義で早く倒すんだ!!」


 オレが手を貸せばすぐに倒せるだろうけど、それはユーリのプライドが許さないだろう。

 だからオレはこうやってアドバイスを投げる事しかしない。


「全力の奥義だと……!! させるものか!!」


 オレの言葉を聞いたモンタリウスは、さらに苛烈にユーリを攻め立てた。その攻撃の全てをユーリは見事に捌いている。しかし手数の多さに奥義を出す事は難しい状況だと思えた。

 だがユーリは盾で攻撃を払うと同時にモンタリウスに叩きつけ、一瞬の隙をついて距離を開けた。


「咲き誇る大輪の華!! 煌竜恋華(こうりゅうれんか)大和(やまと)”!!」


 ――あ、奥義、それなんだ。

 なんかめっちゃ恥ずかしくなってきた。見るのは2度目だけど、今、この関係性になってあらためて思う。ユーリの想いがオレの名を冠した技となってオレの胸に届き、広がり、染み渡るような感覚、こそばゆく、熱が伝わってくるような、そんな感覚。


 そんなオレの思いとは別に、ユーリはモンタリウスを撃破した。

 さ、さあ! これで残るは魔皇帝のみ!!


「残るは魔皇帝!! あなただけです!!」


 ユーリがもう一度、剣で魔皇帝を指した。

 魔皇帝は近衛騎士が全てやられたというのに、驚きもせず、むしろ、ため息をつくようなそぶりだ。


「もう少し使えるかと思ったが……。 この程度の者も倒せんとは……魔族も堕ちたものだ」


「あなたの近衛騎士は全て倒しました。次はあなたの番です。ヤマトの力と、聖竜の力で倒します!!」


 ユーリの宣言に、魔皇帝はオレたちを見た。


「……力の差も分からぬか、哀れな。ならばそれを教えてやろう。そして、ここで聖竜の血が滅びる。我は魔皇帝。――さあ、絶望と共に沈め」


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