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28.パンカロ


 師匠とフランの協力技「シューティングスター・ブレイブ」により、ブカタンペイの全身は光に包まれ崩壊し、消え去った。

 それは一切の跡形も無く、全てが光の粒子にでも変わったかのようだった。


 師匠とフランは最後までそれを見届けた後、ハイタッチを交わして大喜びだ。


「やったねッ!! クリスッ!!」


「ああ! 密かに特訓した甲斐があった!!」


 オレたちも2人に駆け寄った。


「師匠! 見事な一撃でした!」


「凄い強力技でした!! ……でもフラン、あれは一体どういう技なのですか? たしか勇者の武器は勇者にしか扱えないはずでは……?」


 そういえばそうだ。ごく自然に師匠がフランの武器を扱っていたので気付かなかったが、勇者の武器は勇者以外が手にすると光は消失するはずだった。

 なぜ使えたのだろうか?


「それが特訓の成果ってやつだ。 マルチプルアームは勇者の気、つまりオーラと同調していて、違うオーラの使い手を感じとった瞬間に武器じゃなくなる。 だから俺は自分のオーラを一時的にフランとほぼ同質なオーラへと変化させていたんだ。 だから短い時間だけど勇者の武器を使えたというわけだ」


「ボクがこの武器を変化させて力を込めて、クリスが技術で射出する。2人の強力技なんだよ」


「ああ、俺の持つ武器じゃああそこまでの威力は出ない。 勇者フラン様々だ」


「まぁたそんな事言って~、クリスだって凄いんだよ~。だって自分のオーラの変化なんて、そんな事普通は出来ないんだから」


「まあ俺くらいともなるとな、これは流石にヤマトでも出来ないはずだ」


「ええ、自分の気、オーラを他人と同じ様に変化させるなんて、師匠じゃなきゃ無理ですよ」


「だろ? しかしまさか光に包んで消失までさせるとは思わなかったけどな……。勇者の武器は本当にとんでもねえな」


「――お二人は信頼しあっているんですね」


 ユーリが感心したようにそういうと、フランは呆れたように応えた。


「なあに言ってんの。そういう意味じゃあユーリとヤマトには敵わないよ」


「え!? そ……そうですか……!!」


 驚き慌て、不安そうにチラチラとオレを見るユーリ。

 もっと自信を持てユーリ! オレは世界で一番お前を信頼しているし、一番の親友だぞ!


「確かに! オレとユーリならきっと師匠たちより協力な技を繰り出してみせますよ!!」


「言うじゃねえか、それじゃあ楽しみにしてるからな?」


「そうだよ! クリスの努力だってとんでもなかったんだからね!?」


 こうして、ブカタンペイを討伐した師匠とフランが回復するまでこの広間で一度小休止する事となった。


◇◆◇


 小休止の雑談でユーリが切り出した。


「ところで……一体どうやってクリスはフランのオーラの質を調べて、同じように変化させたんですか?」


「ん? ん~。それは秘密だ。なあフラン?」


「そうだね。 秘密。 ――でも2人ならきっと出来ると思うよ、がんばってユーリ!」


「え? ええ……はい。……??」


 応えつつ頭にハテナマークが浮かんでいるユーリ。

 オレも分からん。なんでフランがユーリを応援しているのかも謎だ。いやまあ、協力技が出来るように応援してくれているのだろうけど。


「ありゃあ……これはまだまだ先の話になりそうだな~」


「まだ2人には早い……って事もないはずなんだがな」


 ……なるほど読めたぞ。そういう意味か。

 しかしオレとユーリはそういう関係じゃないんだ。この世で一番の親友同士だから。

 残念な事に。


 ――って!! 何が残念だ!?

 一応断っておくけど、親友である事を残念がっているんじゃない。そこは間違えないで欲しい。って誰に言い訳しているんだオレは。


 いや、自分でも分かっているんだ、残念だって思う気持ちの正体は。

 でも、この気持ちをはっきりと表したくない。そういう目でユーリを見たくない。そういう思いもあって、オレなりに精一杯抗っている状態なんだ。

 もしその気持ちをはっきりと認識して、表してしまったら、そういう目でユーリを見てしまったなら、きっと親友ではいられなくなる。


 それにユーリは王女だ、身分が違い過ぎる。だからこの旅の間だけ我慢していれば、目をつぶっていられれば。親友のまま綺麗に終われるはず、時々親友としてオレを思い出してくれれば、それで良い。


「そろそろ俺は大丈夫だ、フランはどうだ?」


「うん、ボクも大丈夫。二人共お待たせ」


 師匠とフランが腰を上げ、オレたちを促した。

 余計な考え事をするのは止めて、戦いに集中しなければ。

 オレとユーリも遅れて立ち上がった。


「それでは参りましょう」


 小休止を終え、広間を抜けて先に進んだ。


◇◆◇


 広間を抜けた先に、いかにもな豪華な扉がそこにはあった。

 そしてその扉の前に、1体の威圧感のある魔族が立ちはだかっていた。


「よく来たな。 ――やれやれ、一匹も減らせないとは……情けないやつめ」


 威圧感のある魔族はそう呟いた。


「言っておくが、私はファルカンタやブカタンペイと同じ3柱といっても格が違う。油断はしない事だな」


 そう言って3mはある巨体に筋骨隆々の青黒い肌の3本角の魔族は、両手と漆黒の翼を広げ、オレたちを見下ろした。


「私の名はブレイディ様の右腕、3柱の一つパンカロ。お前たちはここで死ね」


 当初の予定通りユーリと戦わせるか、と一瞬考えたが、このパンカロは確かにさっきのブカタンペイよりもか遥かに強そうだ。ここはオレが戦ったほうが……と考えていたら、身構えるオレの横からユーリが前に出た。


「ここは私にお任せください」


 無茶だ。そう思ったが、その言葉には強い決意が込められていた。

 必ず倒すという、強い意志の力が。

 振り返り、師匠とフランを見ると、コクリと頷いた。


「――分かった。ユーリに任せる。信じている」


「うん。私を信じて。――ヤマト、見ててね」


 そうして、オレたちは後ろに下がり、ユーリがパンカロの前に立ち、聖竜の血を覚醒させた。

 銀の2本角、銀の爪、白銀の竜の翼が現れ、王家の白銀の剣と盾を構えた。


「お前は……聖竜の王族か。今のお前ら程度では私に勝つことなど敵わんが、まあいい、相手してやろう」


「甘く見ないほうが良いですよ。 勝つのは私なのですから」


(さえず)るな小娘、僅かな聖竜の血ごときで勝てるつもりか!」


 パンカロが吠えるのを合図に、ユーリの戦いが始まった。


◇◆◇


 ユーリとパンカロの戦いは、師匠たちとブカタンペイとの戦いのように様子見からではなく、力と力、速さと速さのぶつかり合いから始まった。


 技の応酬、火花と聖気による光の粒が舞い散り、青黒と白銀の交差はある種の優雅ささえあった。


 しかし、血の覚醒で全力を出しているユーリは、それでも尚、押し負けていた。

 それに多分パンカロはまだ力を隠している、それでもこれだけの強さ、確かにブカタンペイやファルカンタとは格が違っていた。


「その程度か小娘、やはり大したことは無かったな」


「ま、まだです!! 私の本気はこれからです!! 光翼連斬(こうよくれんざん)ッ!!」


 ユーリは反撃とばかりに翼と剣の3連撃を繰り出した。

 パンカロはその攻撃を全て弾き、返す刀でユーリの身体の中心を貫こうとしたが、それはユーリが盾でなんとか防ぐ事に成功する。


「攻撃はともかく、防御はまあまあだ。だがいつまで保つかな」


 続けざまに連撃を繰りだすパンカロに押され、ユーリは間合いを取る事を余儀なくされる。

 幸い、ショートダッシュは白銀の翼を持つユーリに分があった。


 まだ余裕を見せるパンカロとは対象的に、見るからに余裕の無さそうなユーリ。

 呼吸も乱れてきていて肩で息をしている。このままだとジリ貧になるのは間違いないだろう。

 だけど、ユーリの目はまだ生きていた。まだだ、と。


「さて、私の本気を出すまでも無かったな。――もう良い、これで終わりにするとしよう」


 パンカロはそう宣言し、構えを取る。なにか大技が来る。そう感じた。

 そしてそれをユーリも感じ取ったのだろう、何事か呪文のようなものを呟き始めた。


「ディアブロ・ランスッッ!!」


 パンカロは両手を合わせてユーリに向け、技を放った。

 両手の平からドス黒い極太な光線のようなものが放たれ、ユーリを襲った。


聖煌ノ護(せいこうのまもり)ッ!」


 間一髪、ユーリも魔法を発動し、ユーリの周囲を覆うように光のシャボン玉のようなものが現れ、パンカロのディアブロ・ランスに包まれた。


「ユーリッッ!!」


 フランが叫んだ。 師匠も腕を組んだままだが明らかに動揺している。


 オレは何も言わなかった。動揺は……していないと言えば嘘になる。

 だけどユーリを信じている。ユーリに任せた。ユーリも言っていた「見ててね」と。

 だから、きっと大丈夫だ。ユーリなら。

  

 パンカロのディアブロ・ランスの照射が終わった。

 そこには――変わらず光のシャボン玉に包まれ、無事なユーリの姿があった。

 力強く拳を握り、思わずガッツポーズを取ってしまう。

 フランは両手で口を押さえ、師匠も腕を組んだまま安心したような表情になっていた。


 だけどすぐに冷静になる。ただパンカロの攻撃を凌いだだけで、力負けしている状況には変わりない。それにパンカロはまだ本気ではないはずなのだ。


「ユーリ!!」


 もし駄目そうなら、オレに助けを求めてほしい。そう思い、思わず声を掛けてしまった。

 だけどユーリはオレをの方を向かずに親指だけを立てた。心配するな、という事なのだろう。


 ユーリがそういうならば、オレはもう疑わない。お前を信じるだけだ。


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