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22.王女の宣言


 ファルカンタが率いた魔物の軍勢を討伐し、イーガスミスの街へと帰還した。


 街の入口へと近づくと、オレたちの帰還を察した門番が慌ただしく動き始める。何事でもあったのだろうかと不思議に思っていると、門番が1人、こちらに馬を走らせて来た。


 門番の話によると、どうやらルークの言っていた通り、先んじて魔物の軍勢討伐の報告を受けてギルドマスターと領主が街をあげて歓迎してくれるようだ。

 そして、オレたちのパーティはいつの間にか”王女様御一行”と呼ばれていた。


 門が開かれ、馬上のまま街に入ると、王女様御一行は盛大な歓迎を受けた。

 道の両脇に老若男女がずらりと並んで人垣となり、皆が嬉しそうにこちら、主に先頭に立つユーリに向けて視線を注いでいた。

 大きく手を振る者、ユーリ様と呼びかける者、聖竜王国を称える者、とにかく沢山の称賛の嵐だ。


 やはりユーリの人気は凄まじく、既に魔王幹部を倒したという情報は知られているようで、一目見ようと押しかけた民衆からは、その馬上にあるユーリの美貌と王女然とした佇まいも合わさって、警備兵が押さえるのがやっとというほどの熱狂ぶりだった。

 王族で、若くて美しく、聖竜の力で魔王幹部を倒したとなれば、その人気っぷりも納得出来る。王国にも、民衆にも理想的な英雄像そのものだ。


 当然ユーリだけではなく、勇者フランも聖ブリーズも大人気で、冒険者や民衆から声援を受けていた。

 そしてオレはというと、ユーリの少し後ろに付いていたので、ユーリの御付きの者か護衛と思われたりして、なんとも言えない気持ちとなっていた。


◇◆◇


 街の広場にて、凱旋式が行われた。


 凱旋からそのまま大広場へ移動し、多数の聴衆が見守る中、領主によりまずは300の魔物の軍勢を討伐した事でパーティ全体を称えられ、次に魔王幹部を討伐したユーリ個人が称えられた。


 これにより、オレたちのパーティはSランクパーティとなり、全員がSランク冒険者となった。

 Sランクパーティは過去にも魔王を討伐するような勇者パーティにしか与えられないランクのため、それはそれは名誉な事なのだとか。正直、オレたちにとってランクなんてどうでもいいんだけど。

 また後日国王、つまりユーリの父親から使者が遣わされるのだとか。


 凱旋式はつつがなく終わり、あらためて聴衆の声援を得て、ユーリは宣言した。

 聴衆を見回し、柔らかい表情で微笑みを浮かべ、心に訴えるように。


「今代の魔王が現れて200年余り、聖竜王国は常に魔族の危機に晒され続けてきました。ですが、それももうすぐ終わりです。 王家の血を引く者として、魔族の脅威からこの国を守るため、みなさまの日々の生活を守るため、私はここに誓います。私たちが魔王を討って見せます!」


 力強い宣言を受け、聴衆から拍手と喝采が巻き起こった。

 しかしユーリはそれが静まるのを静かに待ち、更に続けた。


「――しかし、それは私たちの力だけでは成し得ません。この戦いは、全ての方々の戦いです。 力を持つものは力を、知恵を持つものは知恵を、祈りならば祈りを、どんな小さな行いでも構いません。どうかみなさまの力や想いを私たちに貸してください。そうすれば、みなさまの想いが私たちを後押しし、この困難な戦いを確実なる勝利へと導いてくれる事でしょう!!」


 ユーリは最後に、国宝の剣を高く掲げた。

 その瞬間、先程よりも轟音のような歓声、万雷の拍手が鳴り響き、とてつもない盛り上がりとなった。

 この瞬間、ユーリは王国民の英雄としての地位を確立したのだった。


 ――後に、この宣言は王国内全ての街や村に『ユーリ王女の宣言』として伝達され、王国内の士気高揚と、ユーリの王女としての立場を大きく押し上げる事となった。


 拍手がまだ鳴り止まない中、ユーリとオレたちは領主の用意した馬車に乗り込み、領主の館へと向かった。


◇◆◇


 領主が遣わした馬車の中、オレたち4人は領主の館までの短い道中、やっと気を抜く事が出来ていた。


「お疲れユーリ。良いスピーチだった」


「ユーリお疲れ~。ボク感動しちゃったよ、すっごいスピーチだったね!やる気が出てきて、今すぐにでも戦いたくなっちゃった」


「素晴らしい演説だったな。見事に民衆の心を掴んだ、それでこそ王女様だ」


「国民のみなさまの協力は不可欠です、だからあれは本当の事です。 それに……ヤマトなら必ず魔王を倒すと信じてるから言ったまでです。それに、その先もあるわけですから、ここで躓くわけには参りません」


 ユーリはこう言ってくれるけど、今回の戦いに関して、全然活躍というか、役に立ててない。完全に不完全燃焼だ。――凱旋での件も含めて、なんだかもやもやする。


「オレ今回出番無かったけどね」


「魔王幹部くらいオレたちが何とかしてやる。お前にはもっと大きな敵を頼むぜ」


「ええ、ええ、オレは秘密兵器ですからね、なんだかずっと秘密兵器のまま終わりそうな気がしますけど」


 そう返すオレに師匠は呆れたように顎に手を当てて、頭をかいた。


「おいおい……」


「何言ってるんですか、それに大魔法だって大きな役割を果たしました。――あ、もしかして、活躍出来なかったから拗ねているのですか?」


 ユーリに図星を突かれた気がする。

 そんなつもりは全くなかった……と言えば嘘になる。 そりゃあ、多少は、と思う。 だけど、うん、この行動は……やっぱり拗ねてる。


 いかんいかん、反省しなければ。別にオレは英雄になりたいわけじゃないはずだ。そう思ってはいたんだけど、オレだけ名前が呼ばれないのはやっぱり寂しいというか……。

 だからと言って、拗ねてちゃダメだ。反省しろ、オレ。


「いや、そういうつもりじゃ……ごめん」


「全くしょうがないですねヤマトは。一番強いのに、私たち3人が頼りにしてるのに、それだけじゃ満足出来ないなんて。撫でて慰めてあげます。よしよし」


 ユーリはそう言って隣に座るオレの頭を引き寄せ、優しく撫で始めた。

 フランは思わず吹き出し、師匠はオレの肩をバンバンと叩いた。


「良かったなあヤマト。王女様に慰めてもらえて」


「ほんと良かったねえ、ユーリがいてくれて」


「ダメですよ、からかっては。ヤマトから活躍を奪ったのは私なんですから、私が癒すのは当たり前の事なんですから」


 師匠とフランの2人にからかわれ、急に恥ずかしくなってきた。

 手を払いのけようと思ってユーリの顔を見ると、そんな思いも一瞬で消えてしまった。

 なぜなら、ユーリの表情はからかうような感情を感じず、優しさに満ちていて、その目からは慈愛と愛情を向けられているような眼差しに見えたからだ。

 これで手を払いのけるなんて、それこそ格好悪い。そう思った。


 あ~~、もう!! オレの負けだ!!ユーリのしたいようにすれば良い!!


 開き直り、ユーリに頭を預け、抵抗する事をやめた。するとユーリは、そのまま自分の太ももの位置にオレの頭を持っていった。つまりは膝枕だ。

 流石に恥ずかしくて目を瞑り、師匠たちを視界に映さないようにした。

 ユーリはそのまま無言で、オレの頭を優しく撫で続けたのだった。


 こうして、領主の館に到着するまでの間、師匠とフランにからかわれながら、ユーリに撫でられ続けたのだった。


◇◆◇


「ユーリ王女、素晴らしい宣言でした。わたくし、感動しました。貴方様であれば魔王討伐も夢ではないと感じます。協力は惜しみませんので、なんでも言ってください」


 領主の館に到着後、応接間で領主ハウエルと面会をした。最初の労い以降は、殆どがユーリと領主ハウエルの会話だけど。


「ありがとうございます。その気持ちだけで十分です。 ――ですが、一つだけお願い出来るのであれば、魔王に限らず、魔族に関する情報があれば、出来るだけ早く教えて頂けると幸いです」


「ええ、魔族の話があればすぐにでもお耳に届けしましょう。もちろんそれ以外の事も、どんな事でもユーリ王女のお力になりますので、お困りの際はいつでも言って下さい。 そうだ!今日はみなさんこの館に泊まっていってください。銭湯もありますし、お食事もこちらで準備しますので」


 ――なんだか嫌な感じだ。

 ユーリを見る目付きもなんだかねっとりしていて嫌らしいような気がするし、それになんだかユーリに媚びているような、そんな気もする。


「いえ、そこまでして頂くわけには参りません。何処か宿を探しますから、大丈夫です」


 ユーリが断ろうとしたところへ、師匠が忠告した


「ユーリ様、今日の騒ぎを見る限り、どこの宿も難しいかと思います。現在の認知度で王女が泊まるとなれば、その宿はもちろん、周辺も大騒ぎになる事は間違いありません。よからぬ事を企てる者も出てきましょう」


 領主の前だからだろう、いつもの調子ではなく、丁寧な口調だった。

 確かに、凱旋式のあの様子だと、ユーリが泊まるというだけで、下手すりゃ街中を歩くだけでも大変な事になるだろう。

 師匠の言う事も一理ある、あるけど……ここに泊まるのはなんかやだな。


「確かにそうですね……それではハウエル殿、今日一日のお邪魔をさせていただきます」


 ユーリがそう応えると、領主ハウエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「いえいえ、こちらとしましても、ユーリ王女に泊まっていただけるなら、それこそがありがたい事です。何日泊まっていただいても構いませんよ! ――まあそれでは、魔王を倒せなくなるから困るんですけどね、うわっはっは!!」


 上機嫌が過ぎる。

 それに笑えない冗談ってやつは反応が苦笑いくらいしか出来ない。

 しかしユーリは流石というか、慣れているのか、穏やかに微笑みを返していた。


 その後も色々と話をして(主に領主とユーリが)、日も暮れそうな頃にやっと開放された。


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