19.新しい朝
朝日が窓から差し込み顔を直撃する。
眩しくて目が覚め、顔を覆おうとすると人影が朝日を遮った。
「おはよう!! あ、愛なるヤマトよ」
ユーリだ。
相変わらず朝の日差しとは違う意味で眩しい。朝日に照らされ寝間着から身体のラインが透けている。
「そこは”親愛なる”じゃなかったのかよ、間違えんな。おはよう、親愛なるユーリ」
「ああ! そう! そうだね! 親愛なるヤマトよ。今日の調子はどうだい?」
「それはこっちのセリフだ、ユーリこそ昨日は変だったぞ」
「別に変じゃなかったって。今日だってもうバッチリ!! どんな依頼でもこなして見せよう!!」
ユーリとフランが二人きりの時に何があったのか聞いてみたけど、結局話してくれなかった。
なんでもサプライズだから、だそうだ。
まあ良いんだけどね、女二人、人には言いたくない秘密があっても。まあ、少し淋しいけど。
それに、ユーリがこの街に入る前よりも元気になっているみたいで、そっちのほうがオレにとっては嬉しい事だ。
◇◆◇
「おう来たか。おはようさん」
「ユーリ、ヤマト、おはよう!」
「おはようございます」
「おはようございます、師匠、フラン」
下に降りると、すでに師匠とフランが席に座っていて、俺たちはその対面に並んで座った。
「そっちは何も無かったですか?」
師匠に聞いてみた。
師匠はフランと同室、ベッドが別とはいえ一緒に寝ているはずだからだ。
「ああ、別に何もねえよ? まあ、色々と聞かせてもらったがな」
「へえ、どんな話ですか?」
「お前には内緒だ」
「そうだよ、ヤマトにはまだ早いかなー」
「む、何だよそれ」
「冗談冗談、まあでも別に悪い事じゃないから、楽しみにしててよ。ね、ユーリ?」
「え!? あ、はい! そうですね!」
え、何だよ、3人は知ってて、オレだけに内緒なのか?
仲間外れとは悲しい……が、ユーリがいるんだから、きっと何か理由があるんだろう。その時を楽しみにしてようじゃないか。
◇◆◇
そんなわけで朝食を済ませたオレたちは冒険者ギルドへと向かった。
しかしギルドについてすぐ、受付から声が掛かった。
「クリス様!! 至急、大事なお話があります!パーティの皆様とこちらに来てください!!」
受付の慌てっぷりに、何事かとオレたちはギルドマスターの部屋へと付いていった。
「クリス!! 実は魔族に率いられた魔物の群れ、いや、軍勢がこの街へ向けて侵攻してきているという情報が入った!討伐依頼に対応して欲しい!」
「魔物の軍勢が!? 依頼を受けるのは構わないが、なぜ俺たちを指名するんだ?」
「実は魔物の軍勢の標的は勇者フラン、そういう情報が入っているんだ。どうやら魔王は先手を打って勇者を潰しておこうという魂胆らしい」
なるほど、分からんでもない、というか、その方が効果的だ。
勇者の成長を待って自陣で構えるより、成長し切る前に潰す。それは前世でRPGをやったものなら誰でも思いつく事だ。なんで魔王はとっとと勇者を本気で潰さないのか、と。
――という事は、きっと魔族もそれなりの戦力がいるはず。……今回の依頼は手応えがありそうだ。
「なるほどな……それで、魔物の軍勢の情報は?」
「情報によると、魔物の軍勢は300程度、加えて下級魔族10体、中級魔族数体、上級魔族らしきものがいそうだ、という事だ。ま、実際にはこれより多いと思った方が良さそうだが」
「そりゃ結構な軍勢だな、その規模ならこの街は潰されるだろうな」
「ああその通りだ。いくらこの街には冒険者が多いとは言え、中級魔族に加えて上級魔族まで出てきては国王軍でもなければ無理だ。そこでだ。クリスと勇者フラン、この2人がいるパーティを主軸に対処するしかない」
「ヤマト、どう思う?」
「良いですね、上級魔族と一度戦ってみたかったところです」
「おいおい、待ってくれ。それは勇者が相手するしかないだろう。お前は確か……クリスの弟子だったか」
「確かに俺の弟子だが、実力は俺より上だ。まあ、ヤマトの実力を図るには丁度良いか。マスター、この依頼、俺たちのパーティだけで十分だ。他の冒険者や兵は漏れた魔物に備えて街の守りを固めておいてくれ」
うん。オレたちだけで十分だ。中途半端な連中がいたら邪魔になるだろう。
だが、ギルドマスターは師匠の提案には首を横に振った。
「いやダメだ。いくら自信があろうとも、上級魔族が率いる可能性がある軍勢だ。お前らだけというわけにはいかん」
「大丈夫だって、必ず勝って帰ってくるから」
「そういうわけにもいかん。まだ多少日数の猶予があるんだ。冒険者と兵を集め、全ての戦力をもって魔物の軍勢を待ち受ける。……それでも厳しいかも知れんがな」
「そんなの待ってられんぜ。俺たちだけならすぐにでも此処を立つ。……だがまあ、マスターの気持ちも分からなくもない。だから、お目付け役の冒険者をつけてもらい、それに魔物の軍勢を潰すところを見てもらおうじゃないか。それならすぐに此処を立てるし、街も戦力を揃える時間が出来るだろう。それに俺たちの実力を見てもらうには丁度良い。なあに、最悪でも中級魔族までは綺麗にしておいてやるって」
「何をバカな事を。……だがまあ正直、今から戦力を集めるには時間が足りないのも事実だ。……全くやれやれ……聖ブリーズがそこまで言うなら任せてみよう。無理そうなら、すぐに退却して帰って来い!お前たちは貴重は国の戦力なのだからな!!」
「大丈夫だって。それより早く連れていく冒険者を選んでくれよ」
こうして、オレたちは魔物の軍勢討伐の依頼を受ける事となった。
◇◆◇
「お待たせしました。『聖ブリーズ』クリスさんですよね? 同行する冒険者パーティ『黄昏の狼』です。よろしくお願いします」
「ん? おう来たか。それじゃ早速行こうか。自己紹介は向かいながらで良いな」
「はい。お願いします」
『黄昏の狼』との合流後、オレたちはすぐに出発した。
今回の魔物軍勢討伐の依頼難易度は上級魔族がいる想定でSランクとされた。
そして、オレたちに同行する冒険者パーティ『黄昏の狼』はBランクパーティ。幾度もBランク依頼をこなしているAとBが混ざる熟練冒険者たちだ。
大剣使いリーダーのルーク、剣と盾のイアン、槍使いジャック、弓師エリー、魔法使いケイトのバランスの取れた5人PTだ。まあ、今回の出番はないだろうけど。
「それにしても……若い方たちばかりですね。クリスさんも大変でしょう」
「そうでもねえ。むしろ俺は楽をさせて貰っている方だ、それにこのパーティのリーダーをやらさせて貰って、光栄な事だよ」
「はは、さすが聖ブリーズ、ご謙遜ですね」
「……まあ、じきに分かるさ」
『黄昏の狼』のリーダー、ルークと師匠が言葉を交わしていた。
今回、少しでも早く着くために目的地までの移動には馬を利用している。そのため、まとまっての会話は小休止中とキャンプでの時間のみとなる。
だから移動中は余り会話をする事が無かった。
その日の夜のキャンプで、各自の自己紹介の後、今後の予定について話し合った。
「情報通りならこのまま進めば魔物の軍勢との会敵は3日後の予定だ。まずは数を減らす大魔法だからな、ヤマトとユーリ、頼むぞ」
「分かってますよ」
「ええ、任せてください」
「まさか王女様までいるなんて、王族は強いと聞きますのできっと頼れる存在なんでしょうね」
「いいえ、クリスやヤマトに比べればまだまだ力不足を感じます。この戦いでも良いところを見せられれば良いのですが」
ユーリのやつ、前に言ってた、自分が戦力になっていないというのをまだ気にしているのか。
ユーリなら大丈夫だって言うのに、だってユーリなんだぞ。きっと近いうちにとんでもない成長を見せてくれるさ。
「ヤマト。君はクリスさんやユーリ様からの評価が高いようだね。君の冒険者ランクを教えてくれないか?」
ルークにそう問われた。
冒険者ランクか……今のオレたちの冒険者ランクは師匠とフランがA、オレとユーリはまだBだ。
だけど正直、もう冒険者ランクとかどうでも良いと思い始めているところだ。
「Bランクだ」
「ほうBランク。ランクが全てだとは思わないけど、もっと高いのかと思ってたよ。低いから弱い、とは思わないけどね」
「こいつの実力を見たら腰抜かすぞ、お前ら」
「ヤマトなら1人でもなんとか出来ます」
「ダメだよ舐めてかかったら、ボクたちは王国で一番強いパーティなんだから、飛び抜けて、ね。だからルーク、喧嘩なんか売らないように」
擁護はありがたいけど、師匠はともかく、ユーリは言い過ぎだと思う。……まあ、ユーリに期待されたら頑張っては見るけどね。
あとフランは面白がっている気がする。顔が笑ってるし。
「喧嘩なんてそんな。……でもそんなに、ですか、それは見ものですね」
「まあ、そういうわけなので、お楽しみに」
そんなやりとりの後は、オレたちと黄昏の狼の面々で夜の見張り役なんかを決め、夜を過ごしたのだった。
そして、3日かけて移動し、魔物の軍勢が遠くに見える場所まで来た。