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私L  作者: 氷憐 仁
1/1

僥倖、、、

僕Lの第二部作です!

心菜と話したのは、暑さが鬱陶しい夏の日だった。

心菜が隣にいるとやけに涼しくて、いやになるほどの夏の暑さも心菜の隣にいれば嘘のように涼しかった。

そこに行けば、心菜がいる。

それだけの日々が私にとっての夏だった。そう、心菜がいなくなるまでは。


セミの音が煩い。

鬱陶しいだけの学校生活も張り付いた笑顔と気を張り詰めたお友達ごっこももう全部うんざりだった。

中学校の時みたいに同じ間違いは侵さない。

私はあいつらみたいに馬鹿じゃない。

春の新しいトモダチづくりで和気あいあいとした教室は居心地が悪く、憂鬱だった。

友達ごっこに付き合うつもりはない、そう思って話しかけられても何も答えず関わりを持たないでいた私に気づけば誰も声をかけなくなっていた。

ただ、面談のときには偽善者ヅラした先生に友達が少ないと心配される。

そんな心配を打ち消すためには委員会活動などでポイントを稼ぐ必要があった。

委員会に入ったところで、関わりを持ちたくないのは変わらない。

当然、こなす仕事はきちんとやる。

相方は役に立たないので、余計なことをされる前に終わらせる。

そうしていると、周りからは清楚系、クールなどと呼ばれるようになった。

一部では冷徹だのなんだので僻みからありもしない噂を流す馬鹿もでてきた。

悪い噂を流されるのは嫌いじゃない。

何なら関わってくる人が少なくなるから大歓迎だ。

居心地の悪い教室にいる理由も特にないので、昼休みのチャイムと同時に旧校舎の裏庭にある葉が青く茂った桜の木陰でお弁当を食べる。

「はぁ。。。いただきます」

誰に断るでもなく、ただ一人、合掌する。

無駄に青い空もなぜか一人だと虚しい。

青春なんてものがきらめくこの時期に一人で弁当を食べるなんて世間から見たら哀れなのだろう。

一人の時間を潰すために読む小説もただのあこがれで終わる。

それが1番平和。

お弁当も食べ終わり、暑さから隔絶された木陰に吹く風に身を任せそっと目を閉じる。

心地良い。

人間の収容所のような空間とは違う、格別な涼気。

少しばかり、息が震える。

暑さと涼しさという絶妙な空間に包まれながら目を閉じて神経を研ぎ澄ます。

じわじわと眠気が私の体を襲いはじめたので深呼吸をして眠気に身を任せる。

そのまま意識や思考など無駄なものを削ぎ落として眠りについた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ット、ト、

軽い足音を立て、彼女を追いかける。

教室を出て、彼女はどこへ向かうのか、とてつもなく気になる。

私は彼女と話してみたかった。

その欲の、好奇心のままに今現在彼女の後を追っている。

騒がしい教室でひときわ静かに、丁寧で繊細な字でノートをまとめる姿。

一目で解った。

「きれい、だ」

授業中のそんな一言は誰に聞こえるでもなく空を切ったと思われたが、目が、あった。

まずい、と目を逸らしたが、もう、手遅れだということも解っていた。

授業中の一見があってから、なにか起こる。

そう思って身構えていたけれど、彼女はいつも通りだった。

どこまでも不思議だ。

そんな不思議さに徐々に話したいという欲が強まっていくのを感じた。

後を追いかけて、教室を飛び出したはいいものの、こっちは旧校舎だ。

普段は誰も近寄らないのに、いや、近寄らないから向かっているのか。

しばらく観察していると、彼女は弁当を食べ終え、すっと眠りについた。

眠っている姿も不思議と目を引く美しさがある。

もっと近くでみたい。

そぉーっと近づいて、顔を覗き込む。

彼女がいた場所は、暑さとは隔絶された、極上の空間だった。

近くで座っていると、眠気が襲いはじめ、抗うことなく、私も目を閉じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

体内時計のままに、襲われていた眠気から開放される。

重たいまぶたを開けると、そこには同じクラスの比奈村さんが寝ていた。

「なんで、ここに、、、?」

現実逃避まがいに弁当を片付け、教室へ戻る準備をし、改めて彼女を見つめる。

後をつけられていたのだろうか。

それともたまたま?

変な想像ばかりをしてしまう自分をいなし、一度深呼吸をする。

とにかく、昼休みが終わる前に起こすべきだ。

わずかに働く理性が混乱している脳を抑えつける。

「あの、比奈村さん、起きてください。もうすぐ昼休みが終わってしまいます。」

彼女の体を激しく揺らすわけにはいかないので、そっと手をおいて起こす。

「んん、、、、」

眠気に勝てないのか、微妙な反応をしてまた眠りにつこうとする。

流石にこれ以上は次の移動教室に間に合わなくなるので少々粗めに揺らす。

「比奈村さん、次の授業始まってしまいます」

「んん、、、、って、あっ!ごごごご、ごめんなさい、あ、ありがとうございましたぁ!」

そう言って意識が戻ると同時に、走り出してしまった。

「び、びっくりした。何だったんだろうか。とりあえず、関わらないように、忘れよう」

人と関わることがないように。

そう自分に言い聞かせ、気にしないように脳内から削除した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どうしよう、、、、まさかぐっすり寝ちゃうなんて、しかも起こしてもらっちゃった。

あぁぁぁぁ終わりだぁ。

こっそり知っていって仲良くなっていくはずだったのに。

気味悪がられただろうなぁ。

「終わった。。。。」

「えぇ〜?何が終わったの?あ、もしかして?失恋⁉️」

横で騒ぐのは小学校からの腐れ縁、中森蒼依なかもりあおいだ。

「失恋じゃないし。男子なんかじゃない。」

「本当、心菜の男子嫌いは高校生になっても変わらないなぁ。万年彼氏なしかなぁ」

余計なお世話だ。

男子なんて、理解しがたい行動しかしてない。

欲望のままに動く野獣なんだから。

って、欲望のままに動く。。。?

いやいや、私は違う。

「もうー。そんなぐるぐる悩んじゃって。なんか悪いことしたの?」

蒼依の勘はすごい。

はずれたことがない。

中学校のときなんか、エスパーだなんて呼ばれていた。

私にはない社交性もあるし、蒼依のおかげで友達ができたと言っても過言ではない。

「ずっと前から、友達になりたい人がいて、調査しようとしてついて行ったら眠くなっちゃって、んで起こされて、パニックと羞恥心で逃げてきた。」

「え、それって後をつけていったら寝ちゃって起こしてもらった。それで申し訳なくて、もう関われないレベルで「終わった」と。なぁるほどねぇ。」

やや面白おかしく言う蒼依にちょっとイラッとしながらも自分の行動を反省する。

「どうしよう、、スタートダッシュ絶望的。」

「ちなみにその相手って誰なの?あ、もしかして。男子人気No.1の白川光莉さん?」

「違うよ、七瀬さん。クラスの…あの、ちょっと冷たく見えるけど綺麗な…」

「えー!七瀬香澄さん?あの子、あんまり話してるとこ見ないし、正直ちょっと近寄りがたいっていうか、ほとんどクールビューティー枠じゃん。てか、クラスでもあまり友達いないって噂あるし、友達になりたいって心菜も意外なとこ狙うよね。」

「そうかなあ?…私、七瀬さんがノート取ってる姿とか、ひたむきで繊細な感じがして、ずっと気になってたんだ。ああいう、何かをひたすら頑張ってる人、素敵だと思うし…。」

「ふふ、まあ確かに心菜って、そういうタイプに惹かれるところあるよね。あんまり人付き合い上手じゃないというか、ちょっと浮いてる人の方が居心地がいいんでしょ?」

「う、うん…そんな感じかも。でも、今日のことでもう距離置かれちゃうかもね…。『気持ち悪い』って思われてたらどうしよう。」

「そんなことないって!逆にこのエピソードをきっかけに、七瀬さんだって『変な子がついてきて寝ちゃった』ってクスッとしてくれるかもよ?心菜らしい抜けた感じで親しみ持たれたらこっちのもんじゃん。」

「いやぁ、蒼依のそのポジティブさがちょっと恨めしいよ…。とりあえず、どうにかしてまた話す機会があるといいな…。」

ーーその日の放課後、図書室ーー

心菜は校内で蒼依からの励ましを反芻しつつ、図書室へと足を運んでいた。七瀬さんと偶然会えるかもしれない。そんな期待を胸に、本を探すふりをしながら彼女を探していた。案の定、端の方で七瀬香澄の姿を見つける。

七瀬は一冊の小説を手に取り、黙々とページをめくっていた。心菜は何度か深呼吸して、自分を落ち着かせる。そして、思い切って七瀬の隣の席に腰掛けた。

「……七瀬さん。」

突然声をかけられた七瀬は驚いたように顔を上げたが、心菜の顔を見ると少しだけ眉をひそめた。

「ああ、比奈村さん…。昼間は…その…ありがとう。」

心菜はその言葉を聞いて、少しほっとした。「怒ってない」それだけで、緊張が少しだけほぐれた。

「ううん、こっちこそごめんね。勝手に近くに行って、寝ちゃって…。変なことしたなって、ずっと反省してて…。」

七瀬は少し困ったような表情を浮かべたが、ふっと小さく笑った。

「変なこと…?別に…あれくらいで気味悪がるほど、私は気が小さくないから。たまには誰かがそばにいてくれるのも、悪くないかもって思ったし…。」

「本当に?」

心菜はその言葉に嬉しそうに微笑み、七瀬の顔をじっと見つめた。その純粋な視線に、七瀬は少し照れたように視線をそらした。

「…本当。ただし、今後はちゃんと前もって話しかけてよね。後をつけられるのはさすがに勘弁。」

「うん、わかった!」と、心菜は力強くうなずいた。

こうして二人は、少しずつお互いに心を開き始めた。


いかがでしたでしょうか。互いに少しずつ影響を与え、変わり始める夏が、少しずつ色を変えていく様子を見守っていただけるとありがたいです。

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