第92話 子羊
静まり返った遊戯室に
柱時計のコツコツコツと時を刻む音が
響いていた。
「・・す、鈴木・・さん?」
その声で僕は我に返った。
車椅子の名探偵が
青ざめた表情で僕の方を見ていた。
「か、彼の・・発言は・・。
で、出鱈目なんだ・・。
ぼ、僕は郷田さんを殺してない!」
僕は必死で彼女に訴えた。
「わ、わかりました。
それよりも。
す、鈴木さん・・。
手の中のモノを置いて下さい」
その言葉で僕は
自分がまだ拳銃を構えていることに気付いた。
僕は慌てて拳銃を投げ捨てた。
「か、彼は・・あわよくば・・。
ろ、六条さん殺しの罪も・・。
ぼ、僕に着せるつもりだったんだ!」
僕はカウンターに両手をついた。
そして肩で大きく息をした。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・お話は後でお聞きします。
今は、とりあえず。
この部屋を出ましょう・・」
僅かに震える声が聞こえた。
僕は顔を上げて少女の方へ視線を向けた。
車椅子の少女が
床に転がった死神の死体を
呆然と見つめていた。
その瞳からは聡明で勇敢な
名探偵としての光が失われていた。
か弱き少女が精一杯、
平常心を保とうと
真一文字に口を結んでいた。
僕達は西岡の死体を残して遊戯室を出た。