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第76話 風が吹いていた

「・・何を言ってるんだい?」

心地良い風を全身に感じつつも

冷やりとした汗が

背中を流れ落ちるのがわかった。

「くっくっく。

 隠す必要はないぜ。

 ここには俺達しかいないんだ」


僕の手が無意識のうちに腰の辺りを探った。


「やめときな。

 扱えるなら。

 もっと早くソレを抜いていたはずだ」

完全に見抜かれていた。

「ま、それでも抜くというなら止めはしないが。

 ただし。

 賭けてもいいが、

 あんたがモタモタと狙いを定めてる間に

 俺はコイツをあんたの体に

 突き刺すことができる」

いつの間にか西岡の手には包丁が握られていた。

「身を守る用意をしているのは

 あの姉ちゃんだけじゃないぜ」

僕はゆっくりと両手を挙げて掌を見せた。

「くっくっく。

 それが正解だ。

 【市民】同士揉めたって仕方がないだろ?

 それにあんたとはすでに

 秘密を一つ共有してるんだからな」

そう言って西岡は包丁を下ろした。

「聞かせてもらおうか、

 なぜ郷田を殺したのか」

西岡の髪が風になびいていた。


「君の頭がキレるのは認めるけど、

 残念ながらその推理は間違ってるよ。

 それとも。

 何か証拠でもあるのかい?」

「くっくっく。

 見たんだよ。

 バッグを手にしたあんたが

 一階の廊下を階段の方へ歩いていく姿をな

 あの時、

 バッグからは包丁の柄が覗いてた。

 その後、

 応接室で見た時にはソレが消えていた。

 直後、

 2階では包丁が刺さった死体が発見された。

 馬鹿でも気付くぜ。

 あの包丁はあんたに支給されたモノだろ?」

僕は小さな溜息を吐いた。

「君が何を見たのか知らないけど、

 僕の支給品はコレだよ」

そして僕はポケットから腕時計を取り出した。

「腕時計がどうした?

 そんなモノ誰でも持ってるだろ?」

「残念ながら。

 コレは

 『オーデマ・ピゲ』のロイヤルオークだよ。

 定価は凡そ1000万円程度だろう。

 こんなモノ僕じゃ買えない。

 どうしてこんなモノが

 支給されたのかは謎だけどね」

僕は無言で西岡を見つめた。

今度は西岡が溜息を吐いた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「・・あくまで惚ける気か?」

「君こそよく考えてくれ。

 そもそも。

 君が見たというのは

 僕がここに来た時のことだよね?

 つまりゲームが始まる前のことだ。

 あの時点で。

 どうして僕が郷田さんを殺す必要が

 あるんだい?

 僕はゲームのことすら知らなかったんだよ」

「それが謎だったから

 ここまであんたを泳がせてたんだよ」

前髪に隠れた西岡の視線が

僕の体に突き刺さっているのがわかった。

冷汗がこめかみを流れ落ちた。

生温い風が吹いて僕の体に纏わりついた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「ま、あんたがそこまで頑なに否定するなら

 俺の見間違いなんだろう。

 この話はここで終わりだ。

 忘れてくれ」

フッと西岡の視線が外れるのがわかった。

「いいのかい?

 そんなに簡単に僕を信用して」

「あんたを信用しているわけじゃない。

 あんたの持っている【市民】のカードを

 信用してるんだ。

 あんたが郷田を殺してようがいまいが

 【市民】であることは事実だからな」

そう言って西岡は前髪を掻き上げた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「それに。

 【探偵】が死んだ今、

 【市民】の敵は明確に【犯人】に絞られた。

 ここで【市民】同士が揉めるのは

 得策とは思えない」

あくまでも西岡は合理的だった。

「【市民】同士・・か。

 死んだ郷田さんが【犯人】でなければ。

 【犯人】は君か・・彼女のどちらかだ。

 そして僕にしてみれば、

 彼女よりも君の方が【犯人】に見えるけどね」

僕はほんの少しだけ西岡を挑発した。

「だから・・。

 あんたを説得するために

 この場を設けたんだ」

そう言うと西岡は「くっくっく」と笑った。

「死んだ婆さん、いや正確には爺さんか。

 あの爺さんの荷物から見つかった拳銃。

 そして。

 『クラブの6』のカードを持っていた

 あのおばさんの口から

 髑髏の小瓶の話が出た。

 その時思ったのさ。

 もしかしたら支給品は

 参加者全員に配られているんじゃないかと」

そこで西岡は

ポケットからパスポートを取り出した。

「うん?

 それは君の身分証明書だろ?

 それが何か・・」

「これが俺の支給品だ。

 俺は『西岡真』じゃない」


風が吹いていた。

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