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異世界・短編

勢いと勢いと勢いだけでどうにかする異世界転生物語

作者: 忍者の佐藤

 

 薄暗い診察室で僕は医者と向かい合っていた。

 固唾をのんで、診察結果に耳を傾ける。

 医者が眼鏡がPC画面の明かりを反射して鈍っている。

「余命1分です」

 唐突に医者が言った。

「ええ!」

 僕はストンと椅子から立ち上がり、胸ポケットに入れていたカブトムシをお医者の顔にくっつけ、座り直した。

「えっと、僕の病名は?」

「突き指です」

「ですよね! 余命は?」

「1分です」

「何で!?」


 僕の名前はいきおいたぎる。名前の通り勢いだけで生きてきた男だが、その寿命は突き指のせいで終わろうとしている。

「くっそお!」

 僕は胸ポケットからA4ノートを取り出した。普段から持ち歩いている「死ぬまでにやりたい事リスト1000000」である。

「あと1分でやり残した事全部やってやるぅうううう!!」

 1 藤田さんに告白する


 僕は猛然とお医者に向かって突進、がっちがちに肩を掴んだ。

「好きだ! 藤田さん! 好きだああああああ!!」

「私は藤田さんじゃありません」


 お医者の顔を縦横無尽に這い回るカブトムシが言った。

「何かそういうデータとかあるんですかっ!!!!」

 僕は胸ポケットから10tトラックを取り出し、その助手席においてあった小瓶をぶち割った。

 中に入っていた髪の毛の束を握りしめ、光を越えるスピードでお医者の鼻毛に植毛した。そう、これは僕が床を這いつくばって集めた藤田さんの髪!

 これさえあれば目の前のお医者があら不思議!! 初老のオッサンからもっさり鼻毛の生えた初老のオッサンに早変わり!!

「藤田さん! やっぱり藤田さんじゃないか!! 僕と結婚してくれ!!」

 僕は言った! お医者の肩を秒速5万回を越える速さで揺すりながら!

「それは無理だ」

 お医者は言った。カルテに毛筆で「頭の病気」と墨汁をちらしながら書きつつ。

「何でだよ! 僕は君が好きなんだああああああ!!! 君のキレイな髪が! 胴回り1000mのナイスバデーがあっ!!! いつも手づかみで生コオロギを食ってる君があああああああああああああああああああああうわあわ!!!」


 そこでハッとした。

 さっきまで這い回っていたカブトムシが、頬に張り付いてじっとしている。お医者は眼鏡をギラリと光らせ、言った。

「その子は私の子を身ごもっている」

 ええええええええええええええ!!!!


 僕の絶叫と同時にカブトムシが縦 列 横 行で規則正しく卵を生んでいく。

「貴方……ごめんなさい……」


 先生の肌から分泌された樹液をペロペロ舐めるカブトムシ

「そもそもお前オスだろおおおおおおお?!」

 叫ぶ僕の横っ面を10tトラックが勢いよく跳ね飛ばす。ピンボールみたいに診察室の中を跳ね回りながら僕の魂は身体をスポゥン飛び出したのであった。


 あ、そういえばやりたいことリスト1328番目に「寝取られる」てのがあったからこれは達……せ……






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※←けつあな





 次に意識が戻った時、僕は鳥小屋に顔だけぶち込まれた状態で身動きが取れなくなっていた。

 鳥小屋と言ってもニワトリ小屋のような居住性とラグジュアリー性に優れた建築ではない。スズメが住むのにピッタリフィットな一口サイズのものに、僕の顔だけぴったりフィットネスライザップしているのだ。

 そして僕の目の前にもう一つの顔がある。最初鏡写しになっているのかとも考えたが、どうも根本から骨格が違うようだ。

 つまり僕と反対側からもう一人、鳥小屋に頭を差し込んでいる人間がいるのだ。何やってるんだこの人、頭おかしいのかな。


 普通に考えて、鳥小屋において同居人に出くわす事態は考え辛い。

 この小屋に使われている木の匂いも中世ヨーロッパちっくだし、さっきから僕のケツにセミが止まって「ピンピンピンピン」鳴いてるし、遠くから「ファー!!!」という声にカーリングのストーンがスコーンと弾かれる音も聞こえることを考えると、恐らく僕は異世界に転移してしまったのだろう。


「頭が高いぞ貴様! 誰がこの高貴なダークエルフ族・ココナッツ=ミギコブシスゴクデカイと頭を並べて良いと言った!」

 同居人がツバを散らしながら叫んだ。

 自称ダークエルフがいるということはやはり異世界なのか、もしくは頭の病院なのか。こんな人と一緒に入院するの嫌だなあ!


「そ、そう言われても身動きが取れなくて!」

「ぬあっ! 喋るな貴様! 息がかかるだろ!」

 僕にめいっぱいツバを散らしながら喚く同居人。暗くてはっきり見えないが、声からして女性のようだ。

「……」

 喋るなと言われたので黙っていると、ココナッツさんが憮然として言った。

「喋らないと貴様が何を言いたいのか分からないだろう!」

 いやあなたが喋るなって言ったんじゃないですか! 

「あの! 実は僕こことは違う世界から来て」

「ぬあっ! やめろ貴様! 息をかけるな! くっころ!」

 いやどうすれば良いんですか!

 あ、そうだ、脳に直接語りかけよう。


(ココナッツさん、聞こえますか? 今直接あなたの大脳皮質に語りかけています)

「ヌアあっ! 何だこれは!? 直接脳に何かを注入されているような! お前の仕業か!」

(ゲヘヘ、ここが君の前頭葉か。結構発育が良いじゃないか)

「や、止めろ! 私の脳内を覗くなああああくこおろおおおおお!」


 彼女があまりにも激しく動くものだから、僕の身体は犬に弄ばれるぬいぐるみのように宙を舞い、スポポン鳥小屋からねじり取れた。

 しかし武道の心得があった僕は三回転半宙を舞い、華麗に頭から地面に突き刺さることに成功。これが柔道でいうツイストサーブである。

 頭を抜いた僕は目を見張った。間近に巨大な尻が揺れているのだ。薄い衣服から覗く褐色の尻が、ヘビメタバンドのドラマーがドラムを叩くようなスピードで左右に激しく振動している。

 あまりに激しさに風圧で原っぱの草が宙を舞っている程だ。

 ケツの色と、頭を鳥小屋に突っ込んでいることを考えると、これはココナッツさんの尻に違いない。

 それにしてもこれは中々風流な光景だ。僕が急いで筆と紙を用意し、句会の準備を整えた時である。文字通りそんな風雅な気分は一瞬で吹き飛ばされた。

 何故なら彼女のケツが生み出した風が渦になり、巨大な竜巻となっていたからである。

 まずい! 一句読んでる場合じゃねえ!


 僕は慌てて彼女のケツにしがみつき動きを止めようと試みた。

 クワガタのように、彼女のでけえ尻を挟み込んだ次の瞬間、

 僕が感じたのは「熱さ」だった。

「アツウイ!!!」


 熱すぎる

 ケツがホットな

 摩擦熱


 はっ! あまりの熱さに一句詠んでしまったがこのままじゃまずい! 僕も草原も根こそぎ飛ばされて一面じゃがいも畑に最適な土地になってしまう!

 僕があたふた左右を見回していると、森の方に不気味な黒い影が無数に浮かんでいる事に気付いた。

 背筋がゾクリする。


「げへへっ、ここならいい芋が育ちそうだなあ」

「耕す手間が省けるってもんだ」

「芋ぉ……芋ぉ……」


 くそっ、あれは畑の匂いを嗅ぎつけた野生の農夫たちだ! 


「芋芋芋芋芋……タス……ケテ……」


 自我を芋に奪われながらも必死に奪い返そうとしてる人もいます。

 農夫たちはよだれを垂らし、うねうねした8足歩行でにじり寄ってくる。

 気をつけろ! あいつら出来たてポテトサラダ食わせてくるぞ!


 どうすれば! どうすれば良いんだ!

 その時、僕の横を低い羽音が通り過ぎた。

「お、お前は、僕の尻に止まって鳴いていたセミ!」

「ピンピンピンピン!」

 セミは真っ直ぐココナッツさんの尻に向かっていく。恐らく人の尻に止まって鳴く習性があるのだろう。


「やめろ! お前じゃあの尻を止められない!」

「大丈夫! 俺なら止められr」


 セミにパッと火が着いた。それは一夏の思い出のように、一瞬激しく燃え上がり、ケツのそばに儚く消えていった。

「やったあ! 今晩の夕食ゲットだあ!」


 僕はこんがり焼けたセミをくわえると、スカッドミサイルの如く鳥小屋の中に顔を突っ込んだ。我が勢家の人間には、食べ物を他人に分け与える習性があるのだ。

(ココナッツさん、聞こえますか?)

「止めろ! 脳内に語りかけ……何だ、何かいい匂いがするな」

(これは焼いたセミです)

「焼いたセミだと!?」


 ココナッツさんは生唾を飲んだ。

(あなたの尻で焼いたセミです)

「そ、それは公職選挙法違反だぞ貴様!!」

 口は拒んでいても身体は正直なようで、彼女の口からおびただしい唾液が溢れ、ドスン、と三度内蔵を揺する低い音も聞こえた。

 これはおやつの時間を知らせるココナッツさんの腹の音である。さっき脳内を覗いた時にランニングしてたおじさんから教えてもらった。

(これを食べて下さい)

「断る! 誰がお前の施しなど受けるものか!」

(このままだと僕達はココナッツさんのヨダレに溺れて死にますよ。信じてもらえないかもしれないですが僕そういうの絶対嫌なんで、ほら、これを食べて食欲を満たして下さい)

 僕はひょっとこのように、唇だけを15cmほど伸ばして、彼女の方にセミを突き出した。

「くっ!」

 ココナッツさんは歯噛みしたが、その目はセミを見つめてハートになっている。

 ゆっくりと、ココナッツさんが口を開けた。彼女の唇が伸び始める。5cm、10cm、まだ伸びる。

 15cm、20cm……3m。

 その一瞬、彼女の温かく、柔らかい唇が触れた。3m伸びたことを除けば、震える、初々しい蕾のような彼女の唇に、セミの所有権が入れ替わった。


 直後、竜巻に巻き込まれた僕達は宙へ舞い上がった。



つづく?












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