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悪辣の魔法使い  作者: 吉岡果音
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第21話 楽器屋、一線を画す

 スカート、髪留め、それからキャンディ。ついでに虹色の綿菓子も。


 「まずは、女の子の夢を叶えなくっちゃね」


 剣士アルーンは、女の子の好きそうなものを次々挙げて、元精霊のルミの買い物を優先してあげようとした。さすがアルーン、姉と妹もいる、きょうだい四番目。


 うん! おれも大賛成!


 小鬼のレイもアルーンの提案通り、ルミの買い物にとことん付き合うつもりだった。

 が。


「楽器屋さんに行きたいです」


 ルミは、レイの行きたい店に行きたいと言う。


「いろんな楽器を見てみたい」


 洋服など必要な物は、レイオルが買ってくれたものでひとまず充分だ、とルミは主張した。


「甘いお菓子は、レイオルさんも一緒のとき、みんなで食べたい」


 とのことだった。

 ルミはそう告げたきり、ただにこにこしている。アルーンとレイは顔を見合わせる。


 ルミもそう望んでいるなら。


「じゃあ、とりあえず一軒目は楽器屋へ行ってみよう」


 昨日開いていなかった楽器屋へ、行くことにした。

 角にある、レンガ造りの店だった。


「そうそう、ここ、この店」


 今日は開いてるね、と扉を開ける。


 どわーん。


「うわあっ」


 突然の大きな音。

 レイ、ルミ、アルーンは入店するなり度肝を抜かれた。


「三名様、いらっしゃいませ!」


 店主の手には、なにか棒状のもの。「バチ」、と呼ばれるものらしい。

 店主が巨大な楽器を打ち鳴らし、入店客であるレイたちを盛大に出迎えていたのだった。

 あとで教えてもらったのだが、「どわーん」の楽器は「ドラ」というのだそうだ。


「びっくりした。アルーン、楽器屋さんってこんな感じなの?」

 

 とレイが少々怯えつつ、アルーンに小声で尋ねると、


「いや。違う。たぶん」


 とのことだった。アルーンには音楽家の兄がいて、兄の買い物に付き合って楽器屋に入ったことがあるが、こんな感じの接客ではなかったそう。それはそうである。


「すごい! おなかに音が響くようでした! なんだか、とってもわくわくしますね!」


 と、ルミだけが声を弾ませていた。

 ドラの隣で、礼儀正しく一礼する店主。


「当店は、他のお店とは一線を画します」


 店主はそう言い切った。確かに一線を越えた、ドラの音だった。

 店主は続き、すらすらと口上を述べる。


「各種取り揃えた楽器屋である当店。当店のモットーは、『異国の夕暮れ、興奮と享楽のるつぼのように、南国の風を添えて』でございます」


 どんなモットー!?


 モットーという人間社会の言葉をよく知らないレイだったが、ツッコミをいれずにはいられない、意味不明で長めのモットーだった。

 まるで歌っているかのように店の指標を述べた店主。ひょろりと背が高く、レイオルやアルーンより十歳以上は年上に見える男性だった。

 店主の外見上の目立つ点といえば、少し長めに伸ばした紫の髪を、珍しい鳥の求愛ダンスの尾羽のように逆立てており、額には赤紫の布を巻いていた。そして、目の周りに黒いシャドウをいれていて、唇も暗めの紅を引いている。

 服装も派手で、上下葡萄色のグラデーションの服、ところどころに金の飾りがついている。そして、黒のどっしりとした編み上げブーツを履いていた。


 店、出たほうがいいかな……。


 レイとアルーンは、笑顔を張り付けたまま後ずさりをした。そのまま、扉のほうへ――。


「あっ、これはなんでしょう?」


 ルミ……!


 ルミが店の中へ突進していく。レイとアルーンとは真逆の動き。そして、ひとつの楽器を指差した。


「お客様。お目が高い。こちらは、ラッパでございます。こちらのラッパ、一説には、ドラゴンを呼び寄せると言われております」


 ドラゴン召喚のラッパ……!


 レイは目を見開かずにはおれなかった。そんなものがあるとは――。そして、そんな楽器に吸い寄せられるように近寄るルミ、確かに目が高い。

 店主は誇らしげにラッパを手にした。少々細長く、先端部分が百合の花のように広がっている。色は赤色だった。


「これは、炎のドラゴンを呼ぶ、そう言われております」


「すごいですね……! じゃあ、その隣にある黄色のラッパは、黄色のドラゴン、ええと、雷のドラゴンかな? そういうドラゴンを呼ぶラッパなのですね!」


 ルミは嬉々として、隣に陳列されている黄色のラッパの言い伝えを当てようとした。店主はにこやかな笑みを浮かべつつ、首を左右に振った。


「いいえ。お客様。違います」


「えっ、それじゃあ、どんな伝説があるのですか?」


 赤色のラッパに伝説があれば、黄色のラッパにも伝説がある、そうルミは信じて疑わない。

 そして実際、伝説があった。


「この黄色のラッパは、お通じがよくなるラッパ、そのように言われております。『ハララッパ伝説』と呼ばれ、壮大な伝説が書籍化もされております」


 ドラゴン関係ねえ……!


 思わず白目になるレイとアルーン。だが、ルミは違った。


「それはとても素敵ですね……!」


 素敵、というのか!?


 呆然とするレイとアルーンだったが、ルミはさらなる混沌に足を踏み入れようとしていた。


「それではこっちの、木を並べたような楽器はなんでしょう?」


「これは木琴でございます。叩いて、様々な美しい音色を出せるのございます」


 まさか、この木琴にもなにか伝説が……。


 レイは、ラッパの件でこの店の主旨が分かった気がしていた。


 この店には、昨晩の星聴祭(せいちょうさい)の楽団のような、かっこいい楽器はない……! きっと店主に似た、クセの強いものばかり集めてあるんだ……!


 おそらく、この木琴にも奇妙な伝説がある。間違いなく普通の楽器じゃない、とレイは予測する。


「お客様、誠にお目が高くいらっしゃいます。こちらは――」


 店主は、もみ手をし、歌うように述べる。最後のほうはため息まじり、言葉に余韻を含ませて。恋人を想って述べるがごとく、甘く、切なく。あたかも、セレナーデ。

 それはもちろん、一見(いちげん)の客に過ぎない少女の姿のルミに対してではなく、楽器に対する愛の発露である。


「この木琴は、叩くことで音楽を奏でられます――」


 そりゃそうだろう。


 最初に叩く楽器と説明しただろう、そしてなにゆえ切なげに語る、とレイはそのような疑問を抱く。


「ですが、この木琴。なんと、驚くなかれ、押し入れに入れて布団を置くと、たちまち風通しがよくなる、そんな誠に摩訶不思議な力があるのでございます……!」


「まあ、なんて摩訶不思議……!」


 驚嘆。


「それ、『すのこ』じゃね!?」


 とはアルーンの弁。

 レイは、なんだか頭がくらくらしてきた。


 どわーん。


 ドラが、鳴る。


「ありがとうございました……!」


 尾羽のような頭を、店主は深々と下げた。





 でん、でん、でん。


 レイの手には、小さな太鼓。持ち手である棒の先に、小さな太鼓が付いている。太鼓の両脇に紐がついており、その紐の先端には小さな玉が通してある。棒を回転させることで、紐の先の玉が太鼓に当たり、太鼓が鳴るというものだった。


 でんでん太鼓っていうのかあ。ふうん。


 頭が真っ白になったレイは、判断力が低下するままに、でんでん太鼓を買っていた。道すがら、なんとはなしに鳴らす。

 ちなみに、伝説は、


『小鬼が持っていたそうです』


 である。そして現在この瞬間、しっかり小鬼が持っている。


「いい買い物ができましたね」


 ご機嫌な様子のルミは、小さな竪琴を買っていた。ちょっぴり荷物になるが、気に入ってしまったから仕方ない。音色や美しい形が気に入って購入したわけだが、


『この竪琴は、怪物眠りの琴と言われております。なんでもこの竪琴を弾いたところ、村を襲う恐ろしい、三つの目を持つ怪物が、たちまち眠ってしまったとか――』


 との話だった。しかし、店主の竪琴の説明はそれだけではなかった。


『ただし――、怪物の目の数には、くれぐれもお気を付けください』


 お客様がたが、怪物に遭遇してしまうような不吉なことを申しているのでは決してございませんが、と前置きの上で店主は、


『どうかご注意なさいませ。四つ目の怪物には、利きません。逆に、怪物を起こしてしまうそうです。さらには、目のない怪物。これはいけません。目のない怪物相手だと、かえって凶暴化を招くとのこと。さらには、五つ目の怪物に琴の音を聴かせてしまうと――』


 いったん言葉を区切り、それから声をひそめるようにして店主は、


『それはもう、ロックンロールだそうです』


 と声を震わせた。

 ロックンロールとは。ちなみに、二つ目の怪物や五つ以上たくさん目がある怪物に竪琴を聴かせてしまった場合、どうなるかと参考までにアルーンが突っ込んで尋ねると、


『とてもいい音楽だね、と褒めてもらえるそうです』


 とのことだった。


「竪琴、怪物には聴かせないほうがいいんじゃね」


 目の数の話を覚えきれないアルーンは、ルミにそう言って聞かせた。

 そういうアルーンはうっかり、ホイッスルを買ってしまっていた。

 ちなみにホイッスル伝説は、


『集合に便利です』


 学校か。

 楽器屋、恐るべし。百パーセントの購買率である。




 店主の説明に耳を貸してしまったため、気が付けば思った以上に時間が経っていた。


「レイオル!」


 レイオルとふたたび合流したときには、もうお昼どきを過ぎていた。

 レイオルだけではなく、レイオルの隣には、例の魔法使いの女性がいた。


「紹介しよう。彼女は、魔法使いケイトだ。我々と旅を共にしてくれるとのことだ」


 紹介の言葉を述べるレイオルの隣で、魔法使いケイトがはにかみつつ、会釈をした。少し、ぎこちない。

 突然のレイオルの発表に、レイもアルーンもルミも驚く。


 ケイト、さん。


 目を引く華やかな外見、少しだけ怖そうだとレイは思ったが、


 一緒の旅……!


 なんだかわくわくするような感じがした。


「よろしく。私も世界を、守りたいから」


 咳ばらいをし少しバツの悪い感じをただよわせつつ、微笑むケイト。なにかを観念したような、照れたような笑みだった。

 

 たぶん、いいひと……!


 レイは満面の笑顔で応えていた。

 木漏れ日のテラスで、一同遅めの昼食を取ることになった。

 レイやルミとは、ほぼ初対面のケイトだが、会話の心配はなかった。

 ケイトが一緒に旅をすることに決めたいきさつを打ち明けると、今度はレイたちそれぞれの買い物の戦利品である謎楽器や謎伝説、強烈店主の話を始めた。


「それはぜひ、行ってみたかったな」


 とレイオル。


「あなたたち、あの店に行ったの!? あそこは私たちの間でも――」


 と目を大きくさせ声が裏返るケイト。

 熱々のミートパイと、躍る葉影。テーブルに明るく賑やかな花が咲いていた。

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