第6話 予測の苦悩
霧川は冷多の攻撃をいなして殴り返すも防がれる。冷多は余裕で話をする。
「ボクシングで優勝したわりには弱いな?」
「テコンドーを習ってるおかげでしょう兄さん!?」
「テコンドーだけじゃないがな」
足払いをして霧川は前乗りに倒れると同時に冷多は首元に膝を押しつけて言う。
「殺人術も習っている……この殺し方を覚えているか?アメリカで一時問題視された」
「今も……問題だよ!」
霧川は何かしようとしたが冷多は何か察知し下がった。それを見た恋宮は思う。
あれ?なんで下がったの?それよりも冷多お兄さんの動き……何かがおかしい。
すると霧川は回し蹴りをすると冷多はタックルをして2階から庭へ落ちていった。2人は一旦離れて互いに考える。
霧川勝利
やっぱり冷多兄は強いな。アメリカのテロ組織を一人で壊滅させただけのことはある。だってこの人何か物を持っていたら俺とっくに死んでたもん。今も手加減してるみたいだし。
霧川冷多
やっぱりSATの連中よりも動きが俊敏だ。見た目とは裏腹に無駄な動きもないし、判断力も優れていた。さっき首を圧迫しようとした時も股間を狙ったのはいい判断だ。ウチのチームに欲しいくらいだ。囮役に適任だ。コイツなら戦場でも簡単には死なんだろ。
「おいなんかやなこと考えてただろ?」
「だったらなんだ?」
「否定しろよ!!」
1階に降りた恋宮達。すると恋宮が2人の争いにあることに気づいた。
「あれ?冷多さんは……霧川くんが攻撃する前に避けている?」まるでどんな攻撃が来るかわかっているような。
「冷多の才能は予測。どんな状況下でも予測することができる」
と衛宮が現れ説明する。
冷多は予期せぬ状況も踏まえて頭の中で100億通りの予測を瞬時に把握することができる。相手の急所や弱点も考慮して。過去に銀行強盗に巻き込まれた際には相手を無傷で捕らえた。銃を乱射することも予測し、人質を取ることも予測した上で行動する。そして彼がこの世界で君臨したことにより敵の制圧率は100%。表や各国政府は彼を人類最強の男と呼ぶ一方。裏社会やテロリスト達は彼を最悪の敵と呼ばれている。なぜなら彼を敵に回せば決して勝つことはできないのだから。
「予測?つまり……霧川くんの動きも急所もわかってるってこと?」
「勝利くんは喧嘩もゲーム感覚でやってるみたいだけど。今は違うみたいだね。本気の顔だよ。つまり相手はそれほどの人物。実際冷多が本を持っていたらとっくに勝利くんは本の角で殺されているよ」
「本の角!?」本の角で人を殺すのあの人!?
2人は互いに詰め寄ると殴り合いになるが霧川が押され冷多の右ストレートが当たるが負けじと霧川はその手を掴んだと同時に回し蹴りで冷多の脳を揺らす。
「っ…」
よし。このまま顔面へ膝蹴りだ!
しかし冷多は全身の力を抜き顔面を蹴られるも対して効いていないように見えた。その後回し蹴りをされ吹っ飛ぶ霧川。
「ハァハァ」
「やるな。さすがだ。でもお前じゃ俺には勝てない!」所詮は素人!俺の勝ちだ!
冷多は詰め寄ると霧川は猫のように姿勢を低くするとカエルのように跳び上がりその勢いと同時に踵落としをして冷多の額から血が流れる。それを見た衛宮は驚いた。
「なっ!?どういうことだ!?冷多の予測でアイツの行動パターンは把握してあるはず!」
冷多は眉間を寄せて考える。
なるほどなぁ。動物の動きを真似たか……流石に予測の範囲外だ。俺と対等にやれるのはお前だけだ。だが余裕で勝てる!しまいだ!
「!」
一瞬で霧川の間合いに入ると冷多は発勁をしようとする。しかし白に呼び止められ冷多は言う。
「なんだ?どうした?」
「麻薬はありません!」
「そんなはずはない!隅まで探せ!」
「地下も探しましたが何もありません!」
「ああ!?クソ!!蜂山政宗!どこに麻薬を隠した!」
「だから隠してなどおらん!」
「嘘をつくな!血鷹団はお前らの命令で麻薬を運んでいたと言っているのだぞ!?」
「血鷹団?何のことか知らん!」
すると透が言う。
「血鷹団は初代が作った組織ですね。それでしたらウチじゃありません。江戸川区にある鉢山組です。漢字違いなのでよく間違えられるのですよ。我々は虫の蜂ではありますが、アレは鉢植えの鉢です」
「「ダサ!?」」
霧川と恋宮は同時に言うと冷多は身震いしてそのまま立ち去った。
「冷多!待てよ!」
「すみません。ウチの隊長が…あとで壁やドアとか弁償いたしますので」
「ぇぇ………」
全員そのまま立ち去るが霧川は2階のソフィアの部屋を見ていた。恋宮は霧川の顔を覗いて言う。
「どうしたの?」
「……じいさん。少しだけソフィアと話がしたい。2人だけで」
霧川は2階へ行き部屋の前に立ちロシア語で言う。
(ソフィア。ウチの兄が失礼したな。悪かったよ。でも俺はお前を救ってあげたい。母親はいないけど。少なくとも手を貸してくれる人はできたろ?電話してくれ。俺はお前の助けになる)
電話番号の書いた紙を置いてその場を立ち去ろうとすると部屋から小柄な体型の金髪少女が出てきた。それを見て笑顔になる霧川。ソフィアは勇気を出して言う。
(……あ、……その……ドアを直してから帰ってください!)
「えぇ…………」
翌日 霧川は1人で再び屋敷を訪ねることとなった。理由はただ一つソフィアの相談相手として呼ばれたのだ。
(それで?どうしたい?やっぱりロシアへ帰りたいか?)
(いえ、お母さんはいないし、あの人がお父さんだっていうのはお母さんから聞いているからもういいの……私ね。日本で暮らしたい)
(……そうか)
(でも日本語がからっきし)
(だろうな……日本語なら俺が教えてあげるが……人に教えるのは得意じゃないんだよな)
(それとあなたと同じ学校へ通いたい。ロシア語ができる人が1人いるなら安心できるし)
(成績はともかく才能がないと無理だぞ?何かあるか?)
(才能……ミスコンを10年連続で受賞したくらいしか)
(あるじゃねぇか。あとは保険だな……いや、1人だけアテがあるな)
電話をかけて話をする。
「母さん俺だ」
《お金ならありません》
「詐欺師じゃない!勝利だ!」
《勝ちゃん!?どうしたの!?ママが恋しくなった?それとも芸能界へ興味が出たの!?やった!!安心して二世としてデビューさせてあげる!!》
「違う!!……カクカクシカジカ」
《ミスコンを10年連続……ちょっと待ってねぇ……この子が……可愛い!妖精さんみたい!!》
「ただ問題がある。ロシア語しか話せない。ついでに言うが暴力団会長の娘だ」
《誰の子どもかなんて関係ない。それと日本語の件は……蒼ちゃんに相談してみて!きっとなんとかしてくれる人を紹介してくれるわ!》
翌日の昼休み 恋宮と共に2年3組へと向かった。
「2年生は3組まであるんだ」
「去年は入学者が割と多かったからな」
中へ入り教重流花に話しかけた。
「教重流花さんですか?才能 教授」
「ええ。そうですが何か?」
事情を話した。
「そうですか……その子に日本語を教えればよろしいのですね。ですがロシア語ができないためあなたも付き合ってくださいね」
「もちろんです」
「それでは交換条件を出します」
「交換条件」
「教える代わりに……ゴールデンウィーク。一緒に映画を見に行ってください」
「はい?」
恋宮はその誘いに対して言う。
「それって……デートの誘い!?」
「ち、違います!どうしてもみたい映画があるのです」
「……いいでしょう。どうせならみんなで行きましょうか」
「え!?本当!?じゃなくて……契約成立ですね。では放課後」
放課後に屋敷へ向かい。日本語を3人がかりで教えていた。教重は教える担当。霧川は同時通訳担当。恋宮はホワイトボードを持つ係。
「腕が疲れたぁ」
「ホワイトボードをしっかり持っていてください。いいですか?まず……」
数時間後
「わ、私ノォ名前ハ…蜂山ソフィア!」
「自己紹介と日常会話程度なら話せるようになりましたよ」
「す、すごい……さすが教授」
「蒼姉が薦めるわけだ」
教重流花(17) 才能 教授
経歴
障がい者への教授
孤児院への教授
学会への教授
「それでは約束通り映画を観に行きましょう」
「ええ。もちろんです。それで何の映画ですか?」
5月3日
《俺はお前が好きだ。お前はどうだ?》
《私も!例えあなたが糞尿塗れになっても好きよ!》
『愛と恋と糞』という映画を4人で見ていた。霧川は顔を引きずって観ており、恋宮はキスシーンで頬を赤く染め、ソフィアは理解不能、教重だけが楽しんで観ていた。その後映画は終わり満足そうに帰る教重。
「どうでしたか?糞尿に塗れながら愛する男女の愛!あれぞまさに真実の愛」
しかし霧川、恋宮、ソフィアは言う。
「夢に出てこなければいいが」
「漫画で観るよりもドキドキした…アレがキス……」
(日本人は本当にくだらない映画をよく作るよね)
教重は笑顔で言う。
「また皆さんで行きましょう!」
「次は糞や血のない恋愛映画で頼む」
「ねぇ。みんなでウチ来ない?お父さんに頼んで定食を安くしてもらうよ!」
「あんな映画観た後でよく食欲があるな?」
4人で定食屋に行くと1人の男がカウンター越しに顔を伏せていた。
「お父さん。割引で鮭焼き定食四つお願い」
「わかったから席に着いてろ。お客さん。もう2時間もここで寝てるだろ?家へ帰んな」
「うっせぇマスター」
「ここはバーじゃねぇぞ」
「……酒を飲みたい気分なんだよ。焼酎もう一杯」
「ん?冷多兄?」
霧川が声をかけると冷多は酔った顔で言う。
「勝利ぃ。お前も輝と同じで複数の女と関係を持ってんのか?エロジジイのせいで軽蔑されるような目で見られたのによ」
「その様子だとまた女関係?」
「ちげぇよ。3日かけて鉢山組を壊滅させたんだ。ドラック、人身売買、臓器売買、脱税をしていたゴミどもをな」
「大丈夫?」
「絶好調……女を抱くより死体の上を歩いた方がよっぽど楽しい」
「昔から思ってたけど年々サイコパスになってるよね?」
「……幼馴染みとは上手くいってんのか?」
「フラれた挙句学校中の噂だよ」
「ハッ。まぁ付き合ってるのに浮気されて捨てられるよりはマシだな。マスター、コイツにも酒」
「未成年だから……」
「じゃあウーロン茶で」
霧川は冷多の様子を見て考える。
これ女性不信でもあるな。よっぽどショックだったんだね。
「……小夜にあったか?」
「ああ。小夜義姉は元気にしてるよ。その息子の優太も最近ハイハイできるようになったみたい」
「そうかい……俺とは違って幸せそうで何よりだ」
「……もう恋人は作らないの?」
「いらん……俺の仕事内容を話すと全員避ける」
まぁ人を殺しまくってるんだからね。
「それに誰を選べばいいかわからない」
「輝兄はピンと来たら片っ端からアピールすればいいって言ってた」
「その考えが理解できん。愛情注ぐ女なんて一人で十分だろ」
「イカれた思考のくせに真っ当なことを言うんだね」
「……お前は才能のない人間に生まれたかったって思ったことは?」
「ないよ……冷多兄は思ったのか?」
「予測以外の才能だったらって思う時は度々ある。最初は憧れていた警官だったのに。政府の命令でSSATへ入隊して人を殺して人々を救う」
「冷多兄……本当は人を殺したくなかったんだね」
「いや、輝と思って殺しているからむしろストレス発散になっている」
「輝兄も反省してるんだから」
「反省してたら人の彼女を孕ませたりしねぇよ。俺はもう帰る……疲れた。マスター。金だ。釣りはいらねぇ」
冷多はそのままフラフラと定食屋を出て行った。すると蓮司は言う。
「過去を引きずり過ぎだ。浮気された時点でソイツはもうフラれてんだよ」
「でも好きな人に裏切られると傷つくでしょ?俺もそうですよ。まぁアイツの性格上予想はしていたけども」