表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/31

第二部 その10

この作品は、黒森 冬炎様主催の『ソフトクリーム&ロボ~螺旋企画~』への参加作品です。

第二部が10話あり、4/11中に10話すべて投稿する予定です。

第三部は4/15以降に投稿する予定です。

「……話ってなんだよ? いっておくが、逸希(いつき)のことはおれたちだって止めたんだからな」


 決勝戦の前日、風太(ふうた)はまたしても真琴(まこと)に呼び出されたのだ。いつものグラウンドのすみで、風太はむすっとした顔のまま真琴をにらむ。


「それに関してはもういいよ。……まぁ、メンバー表を兄さんに任せるなんて愚行を犯したことは、わたしももう怒っていない」

「……絶対怒ってるだろ、お前」


 ジト目で見る風太に、真琴は小さくため息をついて続けた。


「別に、もう気にはしてないよ。だって兄さんは、あなたたちとはプレイしないから」


 真琴の言葉に、風太の顔がこわばる。目に怒りの炎をともして真琴を問いつめる。


「それはお前が、やっぱり逸希をわがままだと思っているからか?」


 真琴は首を横に振った。


「いいや、もう兄さんをわがままだとは思わないよ。……あなたたちのキャプテンが、兄さんにいろいろ吹きこんだみたいだね。わたしに直談判しにきたよ」

「それでお前は、逸希をこき下ろしたってわけか」


 真琴はわずかに目を伏せた。


「そんなことはしないよ。あなたがどう思っているか知らないが、わたしは本当に兄さんのためを思っているんだ。あなたたちの誰よりもね」

「その結果、あいつに自由を与えず、檻の中に押しとどめようとするわけか」

「……わたしは弁明のために、そしてあなたに提案したいことがあるから呼んだんだ。それなのにそういういいかたはしないでほしいな」


 真琴の口調に、風太はかすかにまゆをひそめた。


「お前、怒ってるのか?」

「別に。それより先に提案をさせてもらうね。兄さんはどうやらずいぶんと、あなたたちのキャプテンのことを気に入ったみたいだ。そして、あなたたちがこのまま決勝戦に臨むと、江上の森球場の魔物と戦うことも知っている。そして、そうなったらキャプテンも危ないってことも」

「やはりおれたちに乗り移るわけじゃなくて、相手チームに乗り移るのか?」


 風太に聞かれて、真琴は神妙なおももちでうなずいた。


「知っていると思うけど、江上の森球場の魔物は大番狂わせを好む。そして気づいていないと思うけど、今年の県大会の本命は、すでにあなたたちになっているんだ」

「なんだって?」


 すっとんきょうな声をあげる風太を、真琴は面白そうに見つめる。


「あなた、野球雑誌とか見ないのかな? 江上西高校の野球部は、甲子園に出場したら台風の目になるだろうって雑誌で紹介されてるんだよ」

「おれたちがか?」

「冷静に考えたらそうなるだろう? だって、誰もが打てない魔球を操る投手に、その投手をリードで、そしてバットで引っぱるキャプテンのキャッチャー。しかも、創部二年目という若さでの快進撃のおまけつきだ。挙句の果てにあなたはノーヒットノーランまで達成している。誰もがあなたたちの勝ちを疑わないだろう。……そしてそれは、江上の森球場の魔物にとっては、かっこうの獲物だ。絶望へ陥れるための、かっこうのね」


 ぶるるっと身ぶるいする風太に、真琴は静かな口調で続ける。


「……だから、江上の森球場の魔物は相手チームに乗り移るだろう。そして、あなたとキャプテンだけじゃ、勝つことはできない。兄さんはそれをひどく気にしていてね。……そこでだ」


 真琴はまっすぐに風太と視線を合わせた。


「兄さんは入部しないが、わたしが代わりに入部しよう」

「なっ、お前が?」


 目を丸くする風太に、真琴は口のはしをわずかにゆがめた。


「不満か? わたしは曲がりなりにもあなたに勝っているんだけどな。実力としては申し分ないと思うけど」

「いや、それはそうだが……お前、いいのか?」


 心配そうに聞き返す風太に、真琴は軽く肩をすくめた。


「わたしは男として育てられた。男の子が野球部に入るのは自然の成り行きじゃないかい? ……そして、前にいったと思うが、わたしたち忍者はヒトならざるものとは極力関わり合いにならないようにしている。でも、それは積極的に関わらないようにするっていうだけで、当然身にかかる火の粉は振り払ってもいいことになっているんだ」

「どういうことだ?」

「つまり、わたしが野球部に入部して江上の森球場の魔物と戦ったとしても、知らぬ存ぜぬを通せば、抜け忍として追われることはないだろうってことさ」


 どう考えても屁理屈のような話だが、真琴の目は真剣だった。風太はあえてその話には触れず、首を縦に振った。


「いいだろう、そこまでいうならお前の入部を認めるよ。っていっても、タクさんが最終的な判断を下すんだが、まぁ認めるだろう。あれ、でもメンバー表は、逸希の名前しか書かれてないだろ?」

「いや、兄さんはどうやら、わたしの名前も書いていたらしい」


 目を丸くする風太に、真琴もあきれたようにため息をついた。


「用意周到というか、なんというか……。とにかくわたしも試合に出ることはできるようだ。兄さんの代わりに、わたしが江上の森球場の魔物と対峙しよう」


 真琴の言葉を聞いて、風太も力強くうなずいた。




「確かにメンバー表には、名前が書かれているみたいだ。でも、本当にいいのかい?」


 試合当日、新品のユニフォームを着てやってきた真琴に、匠が最終確認をする。真琴は不敵な笑みを浮かべてうなずいた。


「もちろんだ。兄さ……姉さんは出られないが、その分わたしがカバーしよう。ポジションはどこを守ればいいんだ?」


 真琴に聞かれて、匠は少しのあいだ考えこみ、そして逆に質問を返した。


「君は、守備はうまいのか? バッティングは見たことあるけど」

「まあね。たいていのポジションは守れると思うけど」


 匠は小さく首を縦に振り、そしてレギュラーの一人に目をやった。


「石井、申し訳ないんだが、ベンチスタートでも構わないか?」


 ショートを守る石井は、がっくりしたような、それでいてホッとしたような、複雑な表情でうなずいた。


「すまないな。だが、他のメンバーにもいえることだが、いつ出番が回ってくるかわからないから、準備だけは怠らないでくれ。逸希ちゃんは試合に出られないみたいだが、せめて甲子園の切符はプレゼントしてあげないとな。そうだろう、みんな?」


 「うすっ!」と、気持ちのこもった声がロッカールームにひびいた。匠はにやりと笑って手を伸ばした。


「円陣を組め、気合入れていくぞ!」


 匠の呼びかけに、みんなが肩を組んで輪になる。もちろん真琴もその輪に加わる。全員が右手を伸ばして、重ね合う。


「勝つぞっ!」

「オーッ!」

本日の投稿はこれで終了となります。第三部は4/15以降に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ